人形の館 ~人材派遣って人形を貸してもいいですよね?~

睦月薫

第1話:人材派遣って、人形を貸してもいいですよね?

「ここが蝋人形の館か…」


 町の中心街からは少し離れた寂れた通り、薄汚れた看板には「人形の館」とある。だが、知る人は皆「蝋人形の館」と…


 「すまん、グレーはいるか?」

 『グレー?あぁ…先代ですね。昨年の夏、旅立たれましたよ。とても暑い日でした…』

 「そ、そうか…それで今この店は誰が…」

 『今の店主ですか?それなら私のかぁさまですね。』

 「ミリー、誰かお客さんなの?」

 『あっ、かぁさま…』

 「かぁさまじゃないでしょ。マスターと呼びなさいって…あっ、お客さんでしたね。」

 「お、おぅ…それであんたが今の店主なのか?」

 「はい、父から店を受け継いだので。」

 「そうか…グレーはああ見えていいやつだったからな…祈りの1つもあげさせて貰えるか…」

 「はぁ…父はまだ元気で旅をしてると思いますが?」

 「昨年の夏旅立たれたって…文字通り旅に出たんかい!」



 「ミリー、悪戯はダメって言ったでしょ…」

 『えへへ…』

 「えっと、嬢ちゃん。グレーの後を継いだって事はここの人形達は…」

 「ええ、今は私がマスターとしてやってますわ。」

 「それなら頼む、ここの人形を出来るだけ沢山貸して欲しい…隣の村近くでスタンピードの起こる予兆があった。戦力が全く足りん…」

 「…そうですか…今動ける人形は5体だけですね…」

 「5体か…いや、それだけでいい。頼む。」

 「戦闘用ですのでお値段は少しばかり高く付きますよ?」

 「ああ、人の命に比べたら安いものだ。」



 私は、ここで人形を貸し出す商売を営んでいる。メイドから戦闘用まで多岐にわたって…

 それも全ては、私が持っているレアスキル、人形遣いのおかげです。


 いわゆる人材派遣…人形派遣業というやつです。今回は戦闘用のドールをご希望との事なので5体派遣する事にします。


 「この娘達でいいですか?」

 1人目はシルヴィ…エルフの弓使い

 2人目はケティ…人族の剣士

 3人目はデニサ…この子も人族の剣士

 4人目がカミラ…龍人族の盾使い

 5人目はフェオドラ…獣人族 狐人きつねびとの魔法使い。

 「みんな女の子か?」

 「ダメですか?私は女の子の方が好きなのでうちの娘はみんな女の子に改装中ですよ。」

 「なっ…もっとガタイのいいやつはいないのか?」

 「そんな…可愛くないじゃないですか…」

 「いや、それはだな…まぁいい。役に立ってくれさえすれば…」

 「父の人形を知っている方なら話は早いです、私の育てた娘達は父の人形より性能は上ですよ。」

 「そうか、では借りていくぞ。」



 「隣の村でスタンピードですか…上手く収まるといいのですが…様子を見に行かせた方がいいかもしれないですね…」



 うちにいる人形は別に人型だけじゃないんです。鳥もいれば魚だって…用途に合わせて色々いるんです。父の代に店先に動かしていない人形を置いておくものだから「蝋人形の館」だなんてありがたくもない二つ名を頂いちゃいましたが…


 さて、鳥を三羽ほどはなっておきましょう。この子達は私の目であり耳である私専用の子達ですから、スキルのおかげで距離に関係なくその場を見る事が出来るのです…但しその間私は動けませんけどね…



 あの娘達は上手くやっているでしょうか…そこいらの冒険者には負けない程度の強さを持たせてありますが、心配です。

 どうやらスタンピードもそれほど規模は大きくならなかったようですね…怪我人は多く出たようですけど、死人はほとんど無しですか…

 うちの娘達も大丈夫のようですし。期日道理に返却してくれれば今回のお仕事は終了ですね。




 「嬢ちゃん、助かったよ。」

 「どうやらお役に立てたようですね。」

 「ああ、グレーより腕がいいというのは本当だったんだな。」

 「ええ、徹底的に仕込まれましたから。」

 「ああ、また何かあったら頼みに来る。」

 「その時はもう少しお安くしますよ。」

 「ああ、そうしてくれると助かるよ…5人を3日借りて、金貨50枚はさすがにきつい…」

 「ふふっ、戦闘用なので高いと言いましたでしょ?」



今回の収入

戦闘用ドール…金貨3枚

 貸し出し 5体 3日


合計 金貨45枚

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