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想像を絶する巨躯は緋色の炎を纏っていた。獅子を思わせるそのボスモンスターは獣のような素早い動きからの斬撃を得意にしている。ソロでは回避をすることで背一杯になるので、パーティを組んで戦うのがマストである。一人がタンクとなって、残りで一斉に攻撃をすれば、そのうち倒せる。ただし、2ラウンドになると獣は人型にフォルムチェンジをするので、そう簡単には倒せなくなる。かれこれ、スズカに付き合わされて、今日は三体も討伐したので、流石に慣れてきた。今日はここまでだろうと思っていると、SNSサイトにスズカからメッセージは送られていた。
『今日はありがとうね』
『いいや。こちらこそ。狙いのアイテムはドロップした?』
『うん』
『なら良かった。またいつでも誘ってくれ』
時間は0時を過ぎていた。そろそろ就寝の準備をしたい。歯磨きをして、ベッドに入る。もう一度、SNSサイトを覗くと、スズカからの返信があった。
『最近、学校はどう?』
『特に代わり映えはしないよ。そっちは?』
『私も特に何もない』
『マジつまらない』
『彼女とかいないの?』
『いないけど』
『いい人はいないの? 気になる人とか?』
『いないかな』
当たり障りのない会話。スズカとのやり取りは、あの日から少しだけ距離を感じるようになった。互いに真意を見抜こうとしているような、それはPVPにも似ている。僕が右を出そうしていることを、スズカは読もうとする。結局は互いに硬直状態になってしまう。PVPとは違うのは、ここから先には全く進まないことだった。
『明日もよろしくね』
明日のもあるか。と思いながらも僕は微笑んだ。
●
鈴木の後ろ姿を見かけたので、僕は昨日のことを聞いてみた。鈴木はいつも通り、睨み付けるような眼差しを向けてくる。今日は、少しだけ狂気的だった。僕よりもずっと小柄なのに、見下ろされていると錯覚することもある。完全に主観だ。被害者意識が酷いかも知れない。
「何よ。私は別に悪いことはしてないからね」
「そうなの? 昨日一緒にいたのは愛木先輩だろ。風紀委員で有名な」
風紀委員の愛木と言えば、数々の不良を退学に追い込んだとされる法の番人だ。時には自らが学校のルールを覆すようなこともしていると噂されている。あの人に目を付けられたなら、鈴木は退学も覚悟しなければならない。かも知れない。
「大事なことだから、もう一度言うけど、私は悪いことはしてないから」
「わかったわかった。そしたらなんの話をしてたんだよ」
「そ、それは……言えない」
「なんでだよ。悪いことがないなら言えるだろ。後ろめたいことがあるんだ」
普段の鬱憤を晴らすような物言いに自身を蔑む思いもあるが、この好機を攻めないでどうする。鈴木は一瞬だけで、戸惑う。
「あーうるさいな。相談してただけだから」
「何を相談してたんだよ」
僕は優しい口調を意識して言った。僕は君の味方だ。みたいな思いを込めた。つもり。あんまり効果はなかったようで、鈴木は僕の認識を否定するみたいに、早足で行ってしまった。
●
「suzukaって誰?」
昼休みに和久井が唐突に言い出したのは、固有名詞らしい。人の名前かな? 僕の様子を見て、和久井は携帯端末の画面を上に向けて机に置いた。どうやら写真がメインのSNSサイトに投稿しているユーザーのようだ。写真のセンスの良さから女性だと思う。和久井は指先で画面を操作して、お気に入りの写真を表示した。水着の写真だった。
「めっちゃスタイルいいだろ。同年代らしくてな。写真を見てみると、この地域だと言われてるんだよ。仲良くなりたい」
「へぇー」
suzukaと言われて知り合いのスズカが連想された。
「噂では同じ学校らしいだよ」
「ほほう」
「しかもだ。お前が好きなゲームもやってるらしい。少しは興味が出ただろ?」
和久井は操作をしながら、お目当ての写真を表示した。そのゲーム画面はよく知っている。昨日もスズカとプレイしたボスだった。それと、使用しているキャラクターデザインも、スズカと同じだ。白と金のグラデーションの髪に、高い身長。パーティのメンバーには僕が使用しているニックネームまである。これは同一人物であると断言してもいいかも知れない。
「その顔はお前も興味をもったな」
「え!? ああ。そうかも」
「そうかもって。素直になれよ」
言い難い。スズカのリアルに触れていいものだろうか。それは確実にいけないことだ。僕は過去に拒まれている。suzukaについては言葉にすることはできない。
「それで、なんでお前に話したかと言うとな。suzukaの正体は三人に絞られてるって話なんだよ」
「そ、そうなのか」
「おう。だからお前には協力して欲しんだよ。suzukaかが、誰かを突き止めのを」
それはできないと言えないのが、僕の長所であり短所だろ。和久井は僕を巻き込んで、いつものように自身の欲を満たそうとしている。彼のように周囲を巻き込んで、自身の欲望を満たせられる人間に憧れはするが、真似をする気はまるでない。
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