第三十話 ダンジョンの町への旅路

 翌日の朝、オレ達は馬車の停留ていりゅう所へ来ていた。

 オレ達が来る頃にはアルミルの町の冒険者達とヴィルガ、そして見送りの野郎共がすでに集まっていた。

 それぞれ挨拶をして——馬車を見た。


「……あらぶってるな」


 そこにはブルルルルル、と唸りながら瞳をギランギランにする馬が七頭に六台の馬車がいた。

 内一つの馬車だけ二頭の馬が引くようになっていて、もう五頭は残り五台を引くようになっている。

 そして馬の上にはそれぞれガラの悪い冒険者達が御者ぎょしゃをしていた。

 分かるのだが……。


「これはもしかして……」

「へい! 姉御用に用意いたしやした! 」


 と、言うモヒカン。

 モヒカンから再度目を移し、一番派手な馬車本体を見る。


「赤をベースに黒いふち。何やら紋様もようまで見える。これまた奇抜きばつなセンスだ」

色鮮いろあざやかというべきか。何やら文字も書かれていますね」


 ケルブが解説しマリアンが呟いた。

 これに、乗るのか。

 いや見る限りだと外から中は見えない。

 ならば中にいるのがオレ達だとわからない、か?

 ここからダンジョンの町へ行くのはオレも初めてだ。知り合いにこれを見られることはないだろう。

 見られたら一発でオレがいるのがわかるが。


「ささっ、姉御方。乗ってくだせぇ」


 そう言う肩パットに顔を少し強張らせながらもゆっくりと足を進める。

 中に入り、ケルブが言う。


「中は意外と普通だね」

「そうですね。簡易的な椅子に小さな窓」

「ありがたいが……外とのギャップがすごいな」

「もうしわけねぇ。本当はもっと派手に行こうかと思っていたんですが、中々に金に厳しくて」


 申し訳なさそうに事情を説明する肩パット。

 中も派手にするつもりだったんかい!

 これ以上派手にしてどうするつもりだ。全く。


「そう言えば、まだこの——大きな馬車にはきがあるがお前達は乗らないのか? 」

「あ、姉御あねごの馬車に同席するなんて恐れ多い! それに……」

「「「それに? 」」」

「正直ご婦人方が乗る馬車にむさい男が乗るのは……嫌でしょ? 」


 ( ( (最もだ) ) )


 なにこの気遣きづかい。

 え、こいつらこんな気遣いが出来る奴らだったか?!

 ガガの町の世紀末冒険者と言えばアルミルの町の冒険者よりも荒れてたはず!

 なのに、なのにこんなに気遣いができるようになったなんて……。


「どうしたんだい? 目頭めがしらを押さえて」

「……いやなに。こいつらの成長に感動してな」

「確かに、素晴らしい成長だ」

「姉御、兄貴! 」


 少し上ずった声が聞こえる。

 こいつらはここ数年、本当に頑張ったんだな。

 オレは誇りに思うぞ!


 閑話休題かんわきゅうだい


「では俺達は仕事でいけませんが、くれぐれも用心して下せぇ」

「分かっているとも」

吾輩わがはいが監視している故、心配無用」

「では良き旅を」


 そう言い肩パットは扉を閉めた。

 席に着いたまま何か話そうとした瞬間、大声が御者ぎょしゃの方から聞こえてきた。


「今日も相棒がうなるぜ、ヒーハー!!! 」


 ……。


 何だ? 一瞬にして底知れない不安がこみ上げてきたぞ。


「ア、アルケミナ殿。これは」

「いや流石に荒ぶる馬とはいえ無茶はしないだろう」


 オレとマリアンが顔を見合わせる。

 だが現実は非情だったようだ。


「行くぜぇゲリッツ! 姉御を乗せた大舞台。漢を見せろや! 」

「ブルルルルル!!! 」


 そう聞こえた瞬間、オレ達は壁に引っ付いた。


 ★


「ものすごいスピードですね」

「乗り心地ごこちはともかく、移動速度だけなら国内有数じゃないだろうか」

「オレとしては乗り心地を優先して欲しかったが」


 スピードによる加重かじゅうに慣れてきたオレ達は御者ぎょしゃの叫び声と馬のうなり声を聞きながら、話していた。

 ガタガタガタガタ、と揺れて正直乗り心地は最悪だがせっかく用意してもらったんだ。文句は言えない。


「そう言えばエルジュ嬢はダンジョンの町へ行ったことはあるのかい? 」


 上下に揺れるケルブがエルジュに聞く。

 彼女は必死に窓につかまりながらもケルブの方を向いた。


「無いですね。そもそもわたしが以前この近辺に来た時はダンジョンの町というのはなかったので」


 ん? それは少しおかしい、と軽く小首こくびかしげる。

 少なくともオレが最初ガガの町に行った時、ガガの町はすでにダンジョンの町の隣町として知られていた。

 ならばエルジュはそれよりもずっと前にガガの町に訪れたことがあるということになる。


 彼女は何歳なんだ?


 そう思いつつも、考えたらいけないような気がしたので口には出さない。

 エルジュは魔族。

 見た目よりもはるかに年上なのだ。

 下手に歳を聞くようなへまはしない。


「と、なるとダンジョンの町はいつできたんだ? 」

「ふむ。これはマリアン嬢に聞いた方がいいのかな? マリアン嬢ならば知識は豊富だろう」


 ケルブが扉のノブにしがみつくマリアンを見てそう言った。

 それを聞きマリアンはオレ達の方向を見て少し困ったような顔をする。


「……正直なところ『ダンジョンの町』というのは存在しません」

「「「??? 」」」


 頭に疑問符を浮かべるオレ達に厳しい表情を向けるマリアン。


「私はその町の存在を今回初めて知りました」

「「「え? 」」」

「恐らく非公式な町なのでしょう。少なくとも私が把握はあくしている貴族が治めている町ではございません」


 まさかの新事実。開いた口が塞がらない。

 というか町って知られないように作る事が出来るのか?!

 驚きつつも、この後の展開が頭をる。


「この町付近はアーク公爵領だよな? ということはこれが終わったら、公爵に連絡して」

「ええ。お考えになられている通りになるかと。つまり強制調査が入るでしょう」


 やはりそうなるのか。

 いやだからこそあそこまでガガの町の冒険者達が「危険だ」と言ってオレを止めていたのか。単なる過保護かと思っていたがそうでもなかったらしい。

 非公式故の犯罪率の高さ。それを頭に置いておかないと行けなさそうだ。


「そう言えば野郎共への依頼はダンジョンの町までの護衛依頼、ということになってるがダンジョンの町にも冒険者ギルドはあるのか? 」

「聞くところによるとあるようです」

「何故そんなところにギルドが……。いや違うか。ダンジョンがあるから、ギルドがあるのか」

「その考えが妥当だとうだと思うよ。だが、はて。領主も認識していない町でどのようにしてギルドを運営しているのか気になるが」

「これはすぐに行って、すぐに帰るのが最良だろう」


 そうですね、とエルジュが頷きマリアンも同意した。

 こうしてオレ達三十人弱の世紀末集団はダンジョンの町へ向かった。

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