第一章(初編)

1

「おーい起きろー。今日だろ、襲撃の日」

 快眠していた夜琉の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

重いまぶたを開けると、そこには仲間の響弥がいた。

 響弥は、あの政策によって知り合った数少ない友人である。

皮肉なもんで、こいつとはすごい気が合う。あの政策があったからこそ、出会えた友人だ。

年は俺の一つ下で16歳だ。

性格は明るくて、ムードメーカー的な存在である。

 そんな響弥に、目をこすりながら夜琉は言った。

「朝からうるせえ。てか明日だわ、その作戦」

頭を搔きながら、響弥が言った。

「あれ?そうだっけ?いやあすまんすまん、すっかり勘違いしてたわ」

 こうゆうところが、年下っぽくて良い。こんな感じの性格だからこそ、あの時構わず夜琉に話しかけてきたのだろう。

 あの時は、今から2年前。ちょうど荒野に捨てられて、一時間ほどだったと思う。

 「君、何してんの?」

 後ろから声をかけられたのだ。

 いきなりだったので、とても驚いたのを覚えている。

 夜琉は最初、無視をしたが、響弥がしつこく聞いてくるので、振り返って呆れたように答えた。

「住む場所を探してるんだ。あまり人にばれたくない。できればついてこないでくれ」

 夜琉はこの時、一人でなんでもできると過信していた。

 そして、数秒間考えたようで、口を開いた。

「分かった」

こんなに早く了解してくれるとは思わなかった。夜琉はポカーンとした顔で響弥のことを見ていた。

 もしかしたら、本当は響弥についてきてほしかったのかもしれない。今では響弥が隣にいてくれたおかげでここまでこれたのだ。今ではかなり感謝している。

 そんな顔の俺に、響弥が提案をして来た。

「その代わり、一週間、一緒についていかせてもらえないかな?一週間くらい良くない?ねーいいでしょ?」

 分かった、とさっき言ったばっかりなのに何故こうも矛盾しているのか当時は気になったが、今考えてみれば、当時はまだ響弥は14歳だ。

 言動が食い違うのは当たり前だ。だが、昔の夜琉は、響弥の言った意味が分からなかった。

そして、響弥に言った。

「さっきと言ってることが真逆なんだが。分かったってなんだよ、分かってないだろ」

 正論で返して、少し心が痛くなったが、本当のことだ。

 そしたら頬を膨らまして言った。

「そんな堅いこと言わないでさあ。いいでしょ、一週間だけ。お願い!」

夜琉は話が通じないと思い、呆れた顔で言った。

「分かった。その代わり、役に立たないと置いてくからな」

その時、響弥の目を輝かせた顔が今でも忘れられない。

 そして、そんな顔で響弥は言った。

「ありがとう!君、やさしいね。名前は?」

 普段は名前を名乗らない主義ではあるのだが、響弥は自然と嫌な感じがしなかったので、少し素っ気ない感じで俺は名前を言った。

「夜琉だ。ナイトの夜に琉球の琉だ。よろしくな」

「結構変わった名前だね。でも俺は好きだよ、そうゆうの」

 なんなんだこいつは、と思った。きもかった。

「なんだよ気持ち悪いな。で、あんたの名前は?」

 こっちの名前を聞いてきたのだし、こちらも名前を聞いた。

「響弥だよ。響くの響に弥生の弥」

「よろしくな、響弥」

「こっちこそ、よろしく」 

 それから一時間後に、今いる地下のシェルターを見つけた。

ここは昔の文明の建物の残りらしく、シェルターの入り口には地下鉄と書いてあった。

 ここくらいしか住めるところがないだろうとゆう判断で、ここに住むことになった。

それからは、一週間のつもりが結局だらだらと期間が伸び、最終的には二年間の仲になってしまった。

 シェルターは少しずつ改良を加えていき、今の大きなシェルターとなった。

今のシェルターは部屋が6部屋あり、寝室が三つ、バスルームが一つ、ダイニングとゆうかリビングがあるだの質素なシェルターだ 一つ、武器や食料を保管している部屋が一つ、となっている。

そんな昔のことを思い出して固まっていると、響弥が不安げに顔を覗いてきた。

「どうした?具合でも悪いのか?」

 びっくりしたが、平然を装い、響弥に言った。

「大丈夫だ。てか昨日作戦確認しただろ。ったく、俺は寝るぞ。明日のために、今日はお前も英気を養え」

「りょーかい」

と言って部屋を後にした。

 そこから、俺は寝ようとしたが、結局目が覚めてしまい、部屋を出た。

 リビングへ行くと、すでに響弥が朝食を作っていた。

「結局起きたんだな。ほら、朝食食べろ」

いつもは、飯は夜琉が作っているのだが、珍しく響弥が作っていたので夜琉は響弥に聞いてみた。

「なんで今日はお前が作ってるんだ?いつもは俺だろ」

「単に気まぐれだよ。いつも夜琉が作っている物を見よう見まねで作ってみようと思ってさ」

 いかにも響弥らしい答えが帰ってきた。

「きまぐれ、か。たまにはお前が飯を作る日があってもいいかもな」

そんなことを言うと、響弥がいやそうな顔をした。どうやら本当にきまぐれだったらしい。

 そんな他愛のない話をしていると、響弥が言った。

「それじゃあ、俺は線路の奥に行って湧き水をとってくるよ」

この地下鉄シェルターの最深部には、湧き水が出てくるところがある。

「水をとって帰ってきたら、周囲の見回りに行ってくるよ」

「分かった。俺は襲撃の最終確認をしておくよ。何か見回り中に異変があったら、すぐに帰って来いよ」

「はいよー。そんじゃ、行ってきます」

 夜琉は響弥が線路の最深部に行くのを見届け、計画の最終確認をした。

数十分して響弥が帰ってくると、なにやら深刻そうな顔をして帰ってきた。

「夜琉、ちゃんと聞いてくれ。湧き水が止まった」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

 夜琉は、そんなことか、と内心思いつつ、響弥に苦笑のような笑みを浮かべ、顔を見た。

「当たり前だろ。今の地球は雨がほとんど降らないんだ。湧き水もいつかなくなるに決まってるだろ」

 響弥はキョトンとした顔でこちらを見た。

「あんま驚かないんだな。居住地の移転とかって予定してるのか?」

「今回の襲撃で水とか食料が手に入らなかったら移転だな。明日行く目的地までの道でよさそうな移転地があったら目星を付けとけよ」

「うい~」

適当な返事と共に、響弥が夜琉に疑問を投げかけてきた。

「でも、今回の目的地はたかが10km程度しか離れてないんだろ?その中で移転先なんて見つかるもんなのか?」

「俺も移転はしたことないからな。どんなもんなのか、正直未知数だ。この地下鉄シェルターも、捨てられた場所から結構遠いからな」

「まあ、できるだけ見つけられるように善処するよ」

先程の不満げな顔から、少しやる気に満ちているようだった。

「そんじゃ、見回り行ってくるよ」

「気を付けてな」

響弥は外に向かうための階段を昇って行った。

夜琉は引き続き、計画の最終確認をした。

 数時間すると、響弥が帰ってきた。

「うい~、ただいま。特に異常なかったよ。」

 見回りのルートはいつも同じで、特に異常があるわけでもないのは分かっているのだが、この報告するときはいつもホッとする。

「それは良かった。そしたら、もう今日は寝ろ。明日の出発時刻は朝四時だ。間違っても、寝坊はしないように」

その時、響弥が慌てたような顔でモノ言いたそうに夜琉のことを見ている。

「計画の最終確認は?しなくていいのか?」

「まあ、明日は朝早いからな。目的地に移動している時にお話す」

目的地まで10㎞もあるので余裕だろう。

「そしたら、今日は解散!明日のために身体を休めろよ」

「はーい。そしたら、また明日。おやすみ」

そう言って、夜琉と響弥はリビングから自分たちの部屋へ戻って行った。

 夜琉は特にやることがなく、そそくさとベッドに入った。

響弥はとゆうと、明日持っていくであろう予定の愛銃の手入れをしていた。

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青年終末記 金橋御調(かなはし みつき) @kanahashimtk

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