第48話 アクア様の一日

 ◆アクア◆


 ジアリス街での仕事は忙しい。


 朝日が上がると共に、人々が起き上がり、必ず噴水にやってきては祈りを捧げてから一日を始める。


 男の大人達は真っ先に農園に向かい、農作物の管理を始める。


 おいらと土地の力が合わさって、この地から生えてくる農作物は味も良いし、実る速度も凄く早い。


 毎日のように人達が好きだと言う果物や野菜が沢山集荷されるのだ。


 女の大人達も忙しい。


 料理はもちろんの事、掃除を終わらせると、今度は街の掃除を一斉に始める。


 こうして日々綺麗な街を保つのだ。


 では子供達はどうか。


 子供達も朝はとても忙しい。


 彼らは籠いっぱいの洗濯物を持って噴水にやってくる。


 そして、おいらの前で祈りを捧げるのだ。


 そうすると、今度はおいらの出番で、目の前の洗濯物を流水魔法で一瞬で洗濯をする。


 いつも感謝してくれて祈ってくれるから、おいらも気持ちがいいし、力にもつながる。


 昔からは想像だにしなかった、神と人間の理想的な繋がりである。


 そうやった朝の時間が終わると、昼頃に街に鐘の音が鳴り響く。


 一斉に帰って来た面々で食事を取るのだが、この街には孤児も沢山いたりする。


 そんな孤児達の食事はもちろん街の女の大人達が作ってくれて、それを全部噴水の前に持ってくる。


 お昼の噴水の前には共に食事をする子供達や独り身の人が沢山集まる。


 実はこの中から夫婦が生まれたりもする。


 彼らは食事を取りながら、その日あった事を話し合ったり、たわいない事を話し合ったりしながら、おいらに魔石を食べさせてくれる。


 最近おじさんズの連中が、人間にしてはとんでもなく強くなり過ぎて、普通の魔石の上位である皇魔石を持つ上位魔物を余裕で倒してくる。


 皇魔石を毎日食べられる生活って神からしても、あまりに贅沢で今でもこの生活が信じられず慣れないが、日々人々と接する生活はとても充実している。




 神の力の源となるのは、祈りだ。


 もちろん、内部的な要因として、魔力を必要とするから魔石を摂取する必要もある。


 だがそれだけでは腹は膨れても力が増えるわけではないのだ。


 だからこそ、神は多くの人に直接・・祈りを貰う事で、その力を増大していく。


 おいらは――――かつてないくらい力を増大していた!


 なんとジアリス町ができたばかりと比べると数百倍くらい強くなって、ジアリス街周辺の魔物を全部追いやってしまった。


 おじさんズは魔物が逃げた理由を知らないようで、最近は狩るモノが少ないべ~とか言っていたけど、君達……毎日魔石数百個持って帰って来てるよね?


 お昼が終わって、食事時間が終わると、また仕事の時間となる。


 子供達は指定された場所に向かう事になっていて、そこではこの街の陰の実力者であるセバスが待ち構えている。


 そして始まるのは――――勉強会である。


 それはここの領主が決めたやり方で、子供達に勉強会を開き、彼らを育てる事でジアリス街の未来に繋げたいと話していた。


 おいらからしたらまだ青二才のはずなのに、どうして考える事はこんなに立派なのか。


「セレナちゃあああああああん、ご、ごめんあさい!」


「もぉ!」


 右頬が赤く膨れ上がった領主が泣きながら可愛らしい女を追いかける。


 はぁ、お前、また同じ事やったな?


「キャンバル様? 急に触らないでって言いましたよね!」


「ご、ごめんよ……気づいたら手が勝手に…………」


 そういう領主は申し訳なさそうに女に何度も謝る。


 それにしても何度目なんだろう。


 今でもあの子が立派な領主だとは誰も思えないのだが、あの領主は時折とんでもない行動力を見せるのだ。


 それがジアリス街をここまで広くし、聞く話によれば、隣の国と和平条約を結び、両国の大勢の人から慕われる存在となっているそうだ。


 そんな素晴らしい領主は、今日も大好きな彼女の胸を勝手に触っては怒られている。

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