第44話 弟

「カイル。カイン。これだけは約束してほしい。向こうに入っても絶対に敵意視しない事。相手の挑発に乗らない事」


「「…………」」


 やっと掴んだ機会を二人の弟のおかげでダメにしたくはない。


 というのも、僕の説得によりお父様と領民達を説得する事に成功した。


 さらにハーミットを経由して何とか隣国の商会の者と話す機会ができて、隣国の事情を知る事ができた。


 彼を経由して、隣国の王族に手紙を送り、その返答がやっと届いた。


 和平の件で話し合う会議が行われる事となったのだ。


「約束して貰えるな?」


「……兄上・・。一つだけ聞きたい」


「うん?」


「兄上はどうしてそんなに変わられたのだ?」


 えっと……これは多分キャンバルさんの事を話しているのかな?


「…………守りたいと思ったんだよ。こんな僕でも好きな人ができて、守りたい領民ができた。だから、僕なりに、僕だけができる事を考えたんだ」


「兄上だけができる事…………」


「恥ずかしい話、僕は昔から酷かったからね。それに――――毎日戦争で命のやり取りをしている弟達を何とかしたいと思っていたから…………」


 これに関しては本当の事だ。


 お父様の屋敷を訪れた日。


 聞かされたのは弟二人の事だった。


 辺境伯として期待され、二人とも戦える力を持つからこそ、誰よりも正義感に強く領民を愛しているからこそ、誰よりも最前線に立って戦う。


 今までは無事だったけど、それがいつまで続くかなんて分からない。


 もし次の戦争が起きたら二人とも命を落としていたかもしれない。


 お父様も二人に早く平穏な日々を送ってあげたかったと言っていた。


 それはどこか…………助けて欲しいとさえ聞こえていた。


 ジアリス街がどんどん発展する中、領民を守るためにずっと頑張ってくれている弟達がいるからこそ、僕はずっと後ろめたさを感じていた。


 実はセレナちゃんにはもうバレて、その事でずっと話し合っていたりする。


 毎日夜遅くまで、どうやったら僕達に平穏が訪れるのか。


 その道を示してくれたのも彼女だ。


 ――――「もし世界から争いがなくなって、みんな美味しい果物を食べれば笑顔になるんじゃないか」という言葉にスラム街からこちらに来た領民達の顔が浮かんだ。


「一度だけでいい。どうか僕の言う事を聞いてはくれないだろうか」


「…………兄上。失礼ながら言わせて貰う。俺は別に兄上に言われたから従うんじゃない。兄上の覚悟が……本物であると知る事ができた。昔の兄上はお世辞にもまともな人間ではなかった。だから兄上に代わり辺境伯として領民を導かなければならないと思っていた。でも少し分かった気がする。今の兄上は辺境伯としての器がある」


「!?」


「だから、俺は自分が感じた心で今の兄上に付いていく。言われたからじゃない。だからバルバギア王国に向かっても決して手を上げたりしないと誓おう」


「兄上。俺もだ」


「カイル……カイン…………ありがとう」


「ふ、ふん。今更だっての。今更…………こんなかっこよくなって帰ってくるなんてズルい」


「あはは…………」


 僕はずっと一人っ子だった。


 ここにきて、まさか弟が二人もいると知らず、兄弟がいるとは聞かされてたけど、中々現実味がなかった。


 お父様に出会ってから、どうしても二人と会いたかった。


 こんな僕にも弟が二人もできて、自然と笑みがこぼれる。


 その日、僕達はジアリス産果物を大量に積み、隣国バルバギア王国の王都――――アバルギア王都に向かった。

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