第23話 柔らかい感触と頑固たる意志

 とあるくらい部屋の中。


 テーブルの上にロウソクが怪しい光を灯らせ、僕達の顔を照らす。


「ば、バルくん…………ゴクリ」


 バロンくんと友人達が息をのんで僕に注目する。


「ど、どんな感じだったんだ?」


「う~ん。ものすごく――――――柔らかかった!」


「「「「おおおお!」」」」


 暗い部屋の中、歓声があがる。


 というのも、仲良くなったバロン達――――他二人は、僕達の中で一番身体が小さいクルくん、一番やせ細っている長身がベアくんだ。と共にセレナちゃんの胸を触った感触の感想会を開いている。


 お昼の出来事。最近おじさんズを手伝うためにバロン達も訓練に混ざるようになったのだが、休憩中にバロンくんから「なあなあ、女の子の胸ってすげぇらしいぜー」と言われ、「僕、触った事あるよ」と答えると詳細を聞かれ、今に至る。


「でも何というか……パンとか果物とかと違う柔らかさでな? 水よりもふわふわしてて触った時にむにゅってなって。何より――――」


「「「何より?」」」


 みんなが次の言葉を急かす。


「凄く気持ちいいんだ!」


「「「うわあああああああ」」」


 みんなが頭を抱えて大声をあげると、勢いでテーブルのロウソクが消えて部屋が真っ暗になった。


 僕は黄色の魔力を灯らせて、電撃魔法の一種である小さな灯火の魔法を発動させる。


 向こうでいう電球みたいな感じだけど、不思議と明かりは真っすぐ見つめるくらいの明るさなので部屋全体が明るくなる。


「魔法って便利だな~いいな~バルくんは」


「みんなは使えないんだっけ?」


「さあ~測ってもらえるのって貴族様やお金持ちくらいだからな」


「そうなの? あれ? もしかして、魔法ってそもそも使えるかどうか調べるのもみんなやってない?」


「ああ。そうだよ」


 てっきり、みんな試すもんだと思っていた。


 これで明日のやりたい事が決まったな。


「あ~いいな~俺も胸、揉みてぇ~!」


 バロンくんの空しい叫びが部屋に木霊した。




 ◇




 次の日の朝。


 僕は爺に頼んで、町民達を一か所に集めた。


 ちなみに、こういった集まりを集会といい、緊急集会も通常の集会もいつも噴水の前となっている。


 アクア様もジアリス町の一員だから、除け者にしたくないからね。


「ごほん。こちらの水晶は『魔力の水晶』と呼ばれている水晶で、その者が持つ魔法の才能を導き出せる代物となっている。本日は全員がこの水晶を使い、魔法の才能がある者はこれから魔法の訓練を受けてもらう!」


 ジェラルドの大きな声に住民達がざわつく。


 爺からも、魔力の水晶で平民を測るなんて聞いた事もないみたい。


 その理由も、実は暗い理由があって、魔法は言わば絶対的な力であり、強い力に目覚めた平民が貴族を討つ場合もあるらしくて、貴族の独占が始まったそうだ。


「皆の者! 一つだけ約束して欲しい。この中に強い才能を秘めている者がいる可能性も十分にある。急な力を得た者は力を使い、他人を力でねじ伏せ従えさせる事もある。――――――昔のキャンバル様のようにな」


 一気にざわつきが広まる。


 僕ではないキャンバルさんはそれは酷い事を沢山してきたからこそ、今の僕とは差別したいけど、それは僕がそう思っているだけで、住民達からすれば、昔も今も僕はキャンバルさんに変わりはないはずだ。


 その時、セレナちゃんが手を上げる。


「あ、あの! 確かに昔のキャンバル様は……毎日酷い事ばかりしてきました。毎日町の人達が泣いているのを見ました! 私も…………毎日泣いていました……でも、でもっ! 今は違います! 昔の事が消える訳ではありませんが、私は今のキャンバル様を素晴らしい領主様だと思います! 畑を耕してくれたのも、町を広げてくれたのも、アクア様を連れてきたのも、水路を作ってくれたのも――――魔法を教えてくれるのも全部キャンバル様の意志です。私は一生忘れません! 毎日汗を流しながらあの高い壁を作られて、私達の安全を守ろうとしてくださった優しいキャンバル様を! だからっ! 私はこれからもキャンバル様に忠誠を誓います!」


 セレナちゃんに続いて、周りから「そうだそうだ!」「今の領主様は最高だ!」と声が上がり始める。


 その中、一人が手を上げる。




「だが、昔やった事は変わらない」




 重苦しい空気が押し寄せる。


「俺は、領主様のせいで妻を亡くした」


 彼の名は『ベリル』。彼が言っている事は事実で、爺から先に教えて貰っている。


 それは住民達も全員が知っているし、キャンバルさんがここにやってきた2年間で、彼の奥さんだけでなく、数人命を落としている。


 直接的な理由ではなかった。でも、間接的な理由だったとしても、キャンバルさんがここに来てやった事で亡くなったのは間違いない。


「でも…………俺の……俺達の娘を助けてくれた」


 ベリルさんの足元にまだ6歳の娘が顔を覗かせてこちらを見つめる。


 彼女はピナちゃん。


 先日、子供にだけ発症する全員に黒い点が現れ高熱にうなされ、高い確率で――――死を迎える『死神病』に掛かってしまった。


 この病は移る事はないが、子供にだけ発症してその命を狩る。


 そんな絶望の淵に堕ちていた二人に、僕は全力で回復魔法を繰り返し、遂には回復させる事ができた。


 特効薬もないというこの病気を、魔法で治せた事は大きいと爺は喜んでいたけど、僕としては小さな命が助かったのが一番嬉しい。


 それからピナちゃんとは時々うちでデザートを一緒に食べる仲となっている。


 最近は「大きくなったらバル様のお嫁さんになる~」って言ってくれたりもする。


「俺はキャンバル様が大嫌いだ! でも……娘を助けてくれた恩義がある! もし力に目覚めてキャンバル様に仇名す者がいるなら、俺が全力で止める」


 ベリルさんの覚悟がひしひしと伝わってきた。

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