第21話 みんなのための水路

「えいっ~!」


 噴水を囲っている石畳みに右手と、左手を地面に当てて気合を入れる。


 僕の身体から大地属性を示す色の土色の光があふれ、地面が石畳みと同じ材質のブロック石に変わる。


 さらにブロック石となった地面から50センチくらいの壁が上がって――――水路が完成した。


「凄い~! これは水路ですね?」


「そうだよ~これがあれば、アクア様も好きな場所に移動できると思うからね! これからどんどん伸ばすよ~!」


「は~い!」


 セレナちゃんと共に水路を伸ばしていく。


 水路を伸ばす場所にセレナちゃんが先行して道を開ける。


 急に人が飛び出してきて石にぶつかったら痛いからね。


 水路はどんどん続き、町の至る所まで伸びていった。


「ふう~一日で完成した~! 町壁よりは楽だったかな?」


 町の壁は3メートルを超えているので、作るのに中々時間が掛かったけど、水路は高さが低かったので作りやすかった。


 それに壁を作っていた頃よりも、沢山作れるようになったから楽に感じる。


「さて、最後は水を通すだけだね」


「アクア様もきっと喜ばれますよ~」


「そうだね! それに水が通ってくれたおかげで、住民達がわざわざ噴水まで水を汲みに来なくてもよくなったね!」


「!? もしかして、キャンバル様……それを見越して作られたんですか!?」


 驚くセレナちゃんだけど、実はこういう水路があったらいいな~くらいは思っていた。


 せっかくアクア様が自由に動ける水路を作るならと、全ての住民達が平等に使えるようにできるだけ水路を沢山設置したのだ。


 ただ水路が多すぎて、以前のように町の中を縦横無尽に走り回る事はできない。


 なんだって水路の壁が邪魔になるからね。


 水路を超えるために各所に橋も作っている。


 橋は緩やかなアーチ状の物にして、荷物を運びやすくしている。


 階段だと段差があるから大変だと思うからね。




「アクア様~これから水路に水を流すので、噴水の水を調整してくださいね~」


「あいわかた~!」


 アクア様も興奮気味で水路がとても楽しみみたい。


「じゃあ、噴水を囲っていた石畳みの水路が繋がっている4か所を崩します!」


 崩すのも叩いて壊すより、魔法で崩す事によって、変なガレキが出なくていいと思うので、魔法で水路部分の壁を失くした。


 噴水の中に目一杯入っていた水が勢いよく水路に流れて水位がどんどん下がるけど、噴水から溢れる水は止む事なく溢れ続け、やがてただの白い水路には太陽の光を受けて光り輝く美しい水が繋がり始めた。


 ものの数分で水路に水が行き渡り、遂に全ての水路と噴水の水の高さが同じ高さとなった。


「完成だ~!」


 いつの間にか集まっていた住民達や爺達も一緒に手を上げて喜んでくれた。


 その中、水路を猛スピードで駆け出すアクア様は、目をキラキラさせて喜びを露にしてくれて、みんなも嬉しそうにアクア様に「おめでとうございます」と言葉を投げかけていた。




 ◇




「キャンバル様。どうぞ」


 そう話すのは、爺。


 僕の前に水が入った透明なコップを置く。


 実は壁を作っていた二十日間。


 爺からあるお願いをされていたのだ。


 それは――――呼び方の問題であった。


 例えば、僕はジアリス町の領主という身分らしくて、本当は母さんから言われた目上の人には礼儀正しくを守りたかったけど、爺曰く、この世界では身分が年齢を凌駕りょうがする礼儀のようで、領主が住民や下働きの人達に丁寧語はいけないそうだ。


 爺がそこまで言うならと、断ることができず、今では丁寧語はできるだけ使わないようにしている。


 アクア様は神様なので特別だけどね。


 それと、爺の呼び方も変えて欲しいと頼まれた。


 昔のように――――爺と呼んで欲しいと。


 なので、セバスお爺さんを爺と呼んでいる。


 そんな爺が目の前に置いた水は、以前にも試した事がある魔力量を測る水だ。


 普通の水ではなくて、特殊な水らしく、魔力に反応してその人の魔力量を正確に測ってくれる優れものだそうだ。


 前回同様、コップを両手で包む。


 すると前回とは打って変わり、今回は大きな光が輝き始めた。


「やはり……そうでございますか……」


 爺はなにか納得したかのように、考え込み始めた。


 前回の光はダンゴ虫くらいの小さな光だったのに、今回はコップ一杯の水が輝いている。


 もはやこれ以上光らないんじゃないだろうかってくらい、水全体が輝いているのだ。


「ありがとうございます。キャンバル様」


「うん。これって僕の魔力量が増えたって事だよね?」


「そうでございますね」


「最近魔法を使っても使っても使えると思ったら、魔力量が増えてたんだね~」


「はい。しかし、問題はその原因でございます」


 たしか、爺は以前魔法ギルドってところでその研究がなされているって言ってたよね。


 そこで僕が思っている事を話してみる。


「もしかして、魔法を沢山使えば、魔力量が増えるとか~?」


「いえ、それなら世の中の魔法使いはどんどん魔力量が増えるはずです」


 これは違うか。


「じゃあ、使い切るとか?」


「それも考えましたが、実は魔力量を増やす研究で真っ先に上がった可能性がそれでございます。そして研究の結果、魔力を使い果たして気絶を繰り返しても魔力量は一切上がらなかったという事です。が、その中に微妙に上昇した者もいたのです」


「微量?」


「はい。わずかな差だったそうで、キャンバル様のように明らかな上昇ではなかったようですね。それにこの増え方。魔法を知っている人ならみんなが口をそろえて言うでしょう――――異常であると」


「い、異常…………」


 爺の表情が少し怖い。


 でも増えてしまったんだから、僕にそう言われても…………。


「そこで私に一つ考えがございます」


「考え?」


 爺は何やら怪しい笑みを浮かべて僕にとある提案をしてくれた。

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