第5話 ボロボロの服は直してあげます

 僕が女の子とミアさんにぶつかって、彼女達の服を直してあげる事がきまって、その場にいた全ての人達にもわざわざぶつかりに行った。


 というのも、ミアさんに連れられて向かった靴部屋に、靴が山ほどあるのに、ここにいる人達って靴一つまともな靴を履いてなかった。


 みんなボロボロの靴と衣服。


 そんな彼らにも僕からぶつかって、いちゃもんをつけたのだ。




「っ!? きゃ、キャンベル様!? これはどういう事なのでしょう?」


「あ~セバスお爺さん~僕からぶつかっていちゃもんをつけて連れて来ました」


「い、いちゃもんをつけて連れて…………」


 執事服燕尾服をビシッと決めたセバスお爺さんは悲しそうな表情に染まっていった。


「ミアさん。これからみなさんの服を直してあげてくださいね」


「か、かしこまりました!」


「!?」


 そのままメイドのミアさんに頼んで彼らを連れて、布がいっぱい詰まれていた部屋に向かうのを確認した。


「セバスお爺さん。朝ごはんはまだですか?」


「じゅ、準備しております。こちらにどうぞ」


「やった~!」


 昨晩めちゃくちゃ泣いていたアレクお兄さんのご飯がまた食べられると聞いて、嬉しくなって鼻歌を歌いながら廊下を進んだ。


 セバスお爺さんに案内されて、昨日ご飯を食べた同じ部屋に入り、昨日と同じ長い食卓の端に座る。


 それにしても、こんな大きな食卓に僕一人座っていると、凄く恥ずかしいというか、なんというか。もっと小さなテーブルにしてくれないだろうか。


 少しして、アレクお兄さんが料理を運んで来てくれた。


「アレクお兄さん! おはよう~」


「お、おはようございます! 朝食をお持ちしました」


「凄く楽しみにしてました! 早く~」


「かしこまりました!」


 素早く料理を並べてくれるアレクお兄さん。


 ミアさんではない違うメイドさん達も手伝ってくれて、僕の前には数点の食事が並んだ。


 開けられた蓋からは、どれも美味しそうな匂いがして、僕の腹が太鼓を叩くのは時間の問題だった。


「ど、どうぞ。お召し上がりください」


「いただきます!」


「「「!?」」」


 目の前の朝食を一つ一つ食べていく。


 昨日とは打って変わり、とても美味しい味付けに、思わず顔が綻んでいく。


「アレクお兄さん! めちゃくちゃ美味しいです!」


「あ、ありがとうございます!」


「えっと、お昼と夕飯と作ってくれるんですか?」


「もちろんです!」


「やった~! 楽しみにしてますね!」


 アレクお兄さんはまた泣きそうになりながら嬉しそうに「はい! 全力で作らせて頂きます!」と言ってくれた。


 美味しい朝食を食べ終えて、ミアさんが向かった部屋を覗きに向かう。


 そこにはボロボロだった服を綺麗に直した人達が、鏡を見ながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「!? 領主様!」


「あはは~服綺麗になりましたね」


「ありがとうございます! こんなに綺麗な服は初めてです!」


「えっ? 初めて?」


「はい……うちの村は貧乏で…………中々綺麗な服を着れなくて……」


 病院に住んでいると衣服とかはいつも洗濯してくれたから気にしたことなかった。


 それにどれも同じ衣服だから、綺麗でもそうでなくてもあまり気にならなかった。


 でもここに来て、自分が着ている服が凄く派手だったり、僕が最初にぶつかった女の子の服がボロボロなのは一目でわかった。


 ミアさんや他のメイドさん達が頑張って直してくれた服はとても綺麗で、多くの人達が嬉しそうに笑みを浮かべているのが、僕も嬉しくなっていった。


「えっと、名前を聞いても?」


「はいっ! 私はセレナと申します」


「セレナさ――――」


「呼び捨てにしてください! とんでもありません!」


 セバスお爺さんとは違い、セレナさんからはものすごい笑顔で迫られた。


「領主様にそう呼ばれるのは、とても申し訳がないんです。どうか呼び捨てにしてください」


「う~ん。分かった。セレナちゃん!」


「はいっ!」


「えっと、ちょっと聞きたいんだけど、村で服がボロボロで服をちゃんと直せない人ってまだいるの?」


「は、はい…………まだ30人程…………」


「そんなにいるんだ! ミアさん!」


 僕は一所懸命服を直しているミアさんを呼んだ。


「はいっ! キャンバル様!」


「残り布であと何着くらい直せますか?」


「えっと、大体150着くらいでしたら…………」


 布の山を見ると、こんなに布が余ってるのに、どうして直してあげなかったのか、昔のキャンバルさんは不思議だなと思いながらセバスお爺さんに向かう。


「セバスお爺さん」


「はっ」


「倉庫にある布で村人達の服を直します。みんな呼んで来てください」


「!?」


「あっ! いちゃもんつけないと……だめ?」


「…………キャンバル様。あの布はキャンバル様の服のために用意されている布でございます。本当によろしいのですか?」


「え~でもタンスの中に僕の服なんて何十着も入ってたから、そんなに要らないです。あの布で村人さん達の服を直します!」


「……………………かしこまりました。今すぐ村人達を連れて参ります」


「お願いします~」


 セバスお爺さんは深々と頭を下げて、屋敷を後にした。




 それから数十分後、全ての村人達が屋敷に来てくれて、次々ボロボロになった服をメイドさん達に直して貰った。


 その中でも服が直せる村人達も手伝ってくれて、布が置いてあった倉庫には笑い声がたくさん響いた。

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