道具屋店主はもう恋なんて絶対しない!

北海

第1話:ネームド・モブの恋愛事情

『アンタは男で身を持ち崩すんじゃないよ』

 もの心つくかつかないか、それこそ耳にタコができるくらい何べんも祖母に言い聞かされたこのひと言だけで、私のどうしようもなさが簡単に説明できてしまう。

 運命の相手と信じた男に駆け落ち資金だけ持ち逃げされた祖母、隣家の幼馴染と甘酸っぱい初恋を育み将来の約束までしておきながら王都に出稼ぎに行って以来音信不通、生まれたばかりの娘を抱いて様子を見に上京すれば、しれっと別の女と結婚されていたという母。さらにさかのぼれば曾祖母まで政略で迎えた入り婿が若くして病に倒れ、死の直前に妾とその子どもの面倒を頼まれるなど、とかく我が家は男運に恵まれない。

 親がこれぞと見込んだ男もだめ、自分で選んだ相手も、昔から家族ぐるみで付き合い気ごころ知れてる相手もだめ。さらにご先祖様の日記や記録をたどれば、どうやら代々跡取り娘はことごとくそういう悲劇に見舞われているらしい。

 ここまで来ると女難ならぬ男難の呪いをかけられているのではと疑いたくもなるというもの。ところが高い寄付金を払って神殿に詣でても、神官たちは気まずそうに顔を逸らすだけ。慢心せず信仰厚ければ商売繁盛子孫繁栄なんぞと言われても、代々実質女手ひとつ、商会長兼シングルマザーの運命なんて正直ごめん被りたい。

「だから私はもう恋なんてしないのよ、絶対に!」

「お姉さん前も言ってたよねそれ」

 懲りないなあ、振られるたびに言うんだから。なんて生意気な口を叩くのは上得意客の少年少女。割と頻繁に滅亡の危機に直面するこの世界の、二番目か三番目の救世主ご一行だ。

 麗しきかなエル・ドラド、翼持つ竜種と地を這う獣たちがそれぞれか弱き人種を庇護し、世界の一部でありながら自我と肉体を獲得した妖精種たちと力を合わせ、魔族と総称される異界からの侵略者たちと終わらない戦いを続ける理想郷。

 吟遊詩人が歌う英雄叙事詩ほど壮大でもなく、神々も巻き込んだ冒険だって早々ないけれど、国や大陸の存亡がかかった騒動はポツポツ発生し、その度にどういうわけか運悪く騒動の中心になる土地の支店長を勤め、そのせいか今のところ全ての騒動解決の立役者、英雄たちがご贔屓にしてくださっている道具屋のお姉さん――つまりそれが、今生の私なのである。

「ユリアさん、今度こそうまくいく、結婚の約束だってしたって言ってたのに……」

「またいきなり音信不通になったんですの?」

 無神経な男どもの足を踏みつつ、女の子ふたりが気づかわし気に尋ねてくる。

 年下の女の子たちから向けられる優しさにうっかり緩みかけた涙腺を引き締めて、私はふいと遠くを眺めた。

「なんかね……私と同年代の娘ハーレム全員に告白されたんだってさ……ふふっ……」

「うわあ……」

 血縁関係のない養い子たちがいる、というのはもちろん聞いていた。

 こんな世界だから、身寄りのない子どもというのは別に珍しくないし、友人の忘れ形見だなんて場合には引き取って義理の親子関係を築くことだってよくある話だ。

 よくある話だから、父娘というよりは兄妹と称した方が正しいような年齢差の義娘が四人だか五人いると聞いても、責任感のあるしっかりした人なんだなあって……納得どころか尊敬していたんだよ私は……!

 そんな年齢だし、今さら父親の奥さんになりまーす、なんて言っても受け入れ難いかもしれない。でも私と同年代ってことはもう立派な社会人だろうし、あの人だって娘たちが手を離れたから自分の将来を考えて、なんて言っていた。子育てはそこそこベテランだけど、奥さんをもらったことはないから、って照れくさそうにはにかんでたのに……!

「……自分たちは所詮義理の娘、恋愛対象にはならないと諦めていたところに義父が同年代を連れて来たもんだから、これはイケると踏んだんだろうな、それ」

「それでどうしてお姉さんが振られるんですの!?」

「振られてないから!! そんな事故物件こっちから振ってやったのよ!」

「事故物件って」

「首尾よく結婚できても絶対に小姑五人の味方にしかならない旦那なんか事故物件でしかないわ」

「瞳孔かっぴらいてまで主張することかなそれ!?」

 もちろん、これがまだ幼い娘たちだ、っていうなら話は別だった。本心はどうあれ、庇護すべき年齢の子どもに嫉妬むき出しなんて私のプライドが許さない。

 だがしかし。だがしかし! 現実には下は私の三つ下、上は五つ上の義娘たち――お色気系からつるぺた系、メガネっ子に不思議ちゃんなど基本を抑えた美女ラインナップだった――がひとつ屋根の下、自分こそが義父に選ばれようと色仕掛けまで駆使する始末。それをあの男、諫めるどころか困ったなんて口だけでデレデレ脂下がっていやがったのだ。

「百年の恋も冷めるってのはまさにあのこと!!」

「ユリアお姉さん、だいたい二、三年スパンで百年の恋から冷めてない?」

「こらダイナ、しー!」









 この世界、なんて言い方をしたけれど。

 そう言うからには私には別の世界の記憶があるわけだ。つまりは異世界転生。うっかり死んで生まれ変わったら、物や人、国の名前に感じる既視感デジャヴ。

 思い出せそうで思い出せないもどかしさを抱えながらすくすく育って子守唄代わりに母や祖母のダメンズ遍歴を聞き流し――なんとふたりとも、最初の失敗で懲りたかと思いきや何件も似たような修羅場を経験していたのである!――雑用から始めた家業の手伝いも一人前、そろそろどこかの支店を任せてみようか、なんて祖母の言葉に大喜びしたあげく風呂場でつるっと滑ってしたたかに弁慶の泣き所を浴槽にぶつけ――弁慶の泣き所ってなに? となって思い出したのだ。この間抜け具合、実に私らしい。

『最近西の坑道で崩落があったから鉄鉱石は切らしてるの。ごめんなさいね』

『はあ、困ったわ……モニンの実を切らしてるのに、南の街道に盗賊が出ただなんて』

『王都では傷薬が品薄なんだそうよ。ここでたくさん買って、向こうで売り払うのもありかもね』

『さあ、もうすぐ収穫祭よ! 宿はもう見つけた? 早くしないと街壁の外で野宿するハメになるわよ!』

 これ全部、走馬灯かな? とばかりに一気に脳内によみがえった、とあるゲームの中の私のセリフ。攻略掲示板なんかでは「時報さん」なんて呼ばれていたっけ。

 流行りのオープンワールド系RPGは、昔のゲームに比べてマップ移動の制限は少ない。初期装備ですべてのストーリーをすっ飛ばしてラスボス戦に突入、なんて無茶ぶりだって可能だったりする。実際、チャレンジ動画を上げてる動画配信者もいたはずだ。

 でもそうやって自由度が高くなると、本来のストーリー順にメインクエストをこなしていくのも難しくなってしまう。ストーリー中で次の目的地は指示されるけど、じゃあもっと先の街に行けないかと言われればそんなことはない。そんでもって、本来もっと後で行くはずの街にはより強い武器防具だったり、上位互換アイテムだったり、経験値が美味しいモンスターだったりがいるわけだ。そりゃ嬉々としてストーリー無視してどんどこ先進むよね俺TUEEしたいもの。

 ところがそうやってストーリーを無視しているばかりだと、もちろんデメリットだってある。ストーリー進行に合わせた特殊イベントだとか、ストーリー中でしか手に入らない特殊アイテムなんかがそれだ。そして長いことストーリーを放置してヒャッハー! していたプレイヤーがはまる罠(私調べ)といえば、そう。肝心のストーリーを進める条件をすっかりうっかり忘れてしまっているのである……!

 峻険な雪山に挑むための防寒具をくれることになっている商家のご隠居がいつまでも関係ない世間話しかしなかったり、封印の森にこっそり案内してくれる隠れ里の子どもにそもそもエンカウントできなかったり、次の展開に進む条件を満たしているのか、そもそもどうすれば満たせるんだったか、わからなくなってしまうのだ。

 そういう時にプレイヤーたちが目印にしていたのが、ある特定のNPCたちのセリフの変化だ。

 例えば、私が「王都で傷薬が品薄だ」と言った後に王都に向かうと、狼型魔獣たちの群れが王都外壁を急襲しているところにでくわすことになる。当然、イベント戦闘に強制突入だ。

 魔獣の数は多いし推奨戦闘力もそこそこ高く、さらに途中で「傷薬がなくなった!」なんて表示が出て回復不能のまま戦闘続行、なんてストーリー序盤にある割になかなかな鬼畜イベントなものだから、事前準備なしに突入してあっさりゲームオーバーになるプレイヤーが続出した。フラグ管理大事、NPCとの会話読み飛ばしは死亡フラグ、なんて文言が攻略掲示板では飛び交ったとか。

 じゃあ王都に近づかないようにすればいいじゃないか、なんて意見もあったのだけど、このシナリオで王都の騎士団長たちと知り合っておかないと、貴重な回復職である王女様の王都出奔イベントがおきないのだ。

 王女様が王都を出奔しないとどうなる? 知らんのか、パーティに回復職がいなくなる。縛りプレイがしたいなら止めない。

 もちろん、「時報さん」は私ひとりだけじゃない。「ここは〇〇の村だよ」しか言わないはずの村人が「明日は兄さんが帰ってくるんだ!」と嬉しそうにしていたとか、新婚夫婦らしく家の中でひたすらいちゃいちゃしていた男女の片割れが、暗い部屋でじっとうつむいて返事もしないとか、「時報さん」はあちこちにいる。

(とはいえ私の時報さんセリフ、私自身に何か重大な出来事があった、みたいなのは皆無だったんだけど)

 例えば、「恋人と行くなら『鍵しっぽの猫亭』はやめとくべきね。……あそこの店員、美人だから」なんてセリフに「どうしたの?」と返すと、どうもデート中だった恋人が店員にひとめぼれして気もそぞろ、破局を迎えるかもしれない……なんて事情を説明してくるわけだが。

 このエピソード、その後一切! なんのメインクエストにも! それどころかサブクエストにも! つながらないのである!

 ねえいる!? NPCにも個性がなくちゃね♡っていうのはストーリー上重要なキャラだけでよくない!? なんで歴代作品ほぼ皆勤登場のくせに毎作毎作恋の始まりから破局まで脇で繰り広げなきゃいけないわけ!? シリーズ一作目、初登場時は十二歳設定だったから「まあ少年少女の恋ってのは寿命が短いもんだから……」なんてフォローしていたプレイヤーも、最新作で二十歳超えした途端「結婚に焦るお局」的扱いしてきやがってからに……!

 いやまあプレイヤー側の気持ちもわかるのだ。なにせこの私、道具屋店主ユリア、男運がすこぶる悪い。というか多分、男を見る目がまったくない。

 現実世界準拠の時間経過をゲーム世界も迎えるわけだけど、道具屋が閉店した夜、広間にあるレストランのテラス席で、ぽつんとひとり座って誰かを待っていたりとか。

 恋人たちの祭りなんて言われる秋の収穫祭で、張り切って服を新調したのだと言っていたのに、お祭り当日も当たり前のように道具屋が終日開店していて、前日までの浮かれっぷりの欠片もなかったりだとか。

 いつ時報セリフが飛び出してくるかわからないと、NPCのセリフでも読み飛ばさずにしっかり読み込むプレイヤーたちがあっ、察し……となってしまう程度には、結構あからさまにうまくいっていない描写がちょいちょい挿入されるもんだから、もはやここまで来ると運営の悪意を感じざるを得ない……っ。

「おーよしよし。ささ、もっと飲んであんなクズ男のことなんて綺麗さっぱり忘れちゃうんだ。ユリアには私がついてるじゃあないか」

「うううううちくしょう普段だったらこんなエセ美女の胸なんてしんでも借りないのにいぃぃ」

「エセ美女だなんて失礼な! 文字通り傾国の美女たるこの私になんたる言い草。やっぱり致命的に目が悪いんじゃ?」

「うるせー中身がちょい悪気取ったひょろもやしエルンストだって知ってたらガワがどれだけ美女だってひょろもやしにしか思えないでしょこのTS(元男)魔術師!」

「魔術の実験には失敗がつきものなんだぜ☆」

 てへぺろ、なんてかわい子ぶってウインクなんてするんじゃない、視覚はともかく精神への暴力じゃ!

 このひょろもやし、もとい、腐れ縁幼なじみ魔術オタクは何を隠そうゲーム第一作目で特定のイベントをクリアしたら仲間になる魔術師だったりする。要は生意気な少年枠だ。今はもう青年、っていうか美女になってしまったけれど。

 前世の記憶をなんとなく持っていた私はともかく、この男、エルンストときたらそれはもう可愛くないクソガキだった。

 神童なんて言葉では生ぬるい。文字通りの天才だったこの男、十歳になる前にはもう師匠をコテンパンに打ち負かし、兄弟子たちなんて歯牙にもかけず、王都の魔術組合に道場破りよろしく特攻をかけたかと思えば魔術史上永年の課題とかいうやつを次々解決に導き、世界最高峰の頭脳を持つ魔術師たちと魔術問答を繰り広げ――結果、半年足らずでもう帰ってくださいと組合に所属していた魔術師全員に土下座で頼み込まれたとかなんとか、そんな無茶苦茶な伝説を持っている。

 悲しいかな、腐れ縁たる私はそれら全部が事実だと知っていた。誇張とか一切なし、いくらなんでももうちょっと、尾ひれ背びれとは言わないけれど、ひげの先くらい盛ってない? とか疑う余地もない。

 そんなわけで故郷に戻り、たった十二歳で楽隠居を決め込んでいたこの男をあの手この手で興味を引き、どうにか仲間入りさせたのが、ゲーム第一作目の主人公ご一行だったというわけだ。

 ひとつフォローするとすれば、エルンストには悪気も悪意も一切ない、ということだろうか。

 元師匠とやらは中央の権力闘争から弾かれた冴えない中年で、天才の弟子を理解できなかった。

 兄弟子たちは後から弟子入りしたクセに師匠の言うこともロクに聞かず好き放題する弟弟子が気に入らなくて、エルンストをあからさまに仲間外れにしようとしていた。

 王都の魔術師たちは日夜権力闘争に明け暮れて、魔術の研究なんて片手間以下、魔術の腕より政治力、なんて皮肉を否定し難い堕落ぶり。

 そんなところに、ただひたすらに魔術が好きで魔術の研究が楽しくて、しかも才能に恵まれまくったお子様が後先考えず突撃してすべてなぎ倒して来たわけだ。むしろお子様じゃなきゃ絶対許されなかった所業かもしれない。

 故郷に帰還したこの男、とっとこ我が家の商会に顔を出し、専属魔術師として雇わないかと交渉即採用。年が近い方がよかろうと前世の記憶持ちで年齢の割にしっかりしていた私が窓口役となり、至る現在。その前の友人……友人? まあ、友人付き合いから換算すると、だいたい生まれた時からの付き合いである。これを腐れ縁と呼ばずに何と呼ぼうか。

「美男が性転換して美女になるならともかく、精一杯ひいき目に言って清潔感のあるひょろもやしが肉感的美女に変わるとかこの世の理不尽詰め合わせかこんちくしょう」

「うーん相変わらずの口の悪さ。もうちょっと私に遠慮してくれてもいいんだぜ?」

「女が日々どれだけ努力して『まあ悪くないんじゃない?』な容姿をキープしているかまるっと無視のこの暴挙……!」

「聞いてないなこれ」

 エルンストは苦笑して、まあ飲みなさいよと新たに酒瓶を追加する。

 私はこれでも客商売で、そうなるとうかつに外で酔っぱらうわけにもいかないから、お酒を飲むのはもっぱら自宅だ。つまりこの酒瓶も自前。遠慮なくコルクを抜いて口をつける。

「ってこらこらこら。流石に直接はいけない。もう、ほら、ついであげるからさ」

 こんなことめったにないんだぜ、とか言いつつ、毎回私が恋人と破局するとふらっとやって来る腐れ縁エセ美女。ぼんやり眺めてもどの角度からでも出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んだ、陶器のお人形みたいに滑らかな肌の茶髪美女である。

 こんな傍若無人を絵に描いたような元男とどうして腐れ縁なんぞ続けているのかと言えば、話は曾祖母の世代にまでさかのぼる。

 まず始めに、曾祖母が歯を食いしばって意地で世話した妾の子が、祖母が家督を継ぐ時こちらこそ正統お前は外に嫁に行けだなんて頭の湧いたイチャモンを付けてきてすったもんだ。ところがどうしたわけか駆け落ちまで考えた男に騙された祖母のお世話をせっせとこなし、祖母がほだされかけた頃に子どもを認知しろと妾の子と昔付き合いがあったという女が乗り込んで来たものだから修羅場再び阿鼻叫喚。

 そうこうしているうちに祖母の妊娠も発覚して、ついでに妾の子、つまり祖母の異母兄だと思っていた男が実は曽祖父の種じゃなかったなんてことを臨終の床で妾がぺろっと暴露したものだから火に油。仲の悪いご近所さん程度のつかず離れずな付き合いをしていたら、両家の子どもは大人の思惑なんて無視して将来を誓い合ってしまったのだからややこしい。

 祖母もあちらのご隠居も、母たちの交際にはずっとぐちぐち文句を言っていたのだけれど、母の妊娠をきっかけにこうなったら仕方ない子どものために和解をするかと重い腰を上げたところで王都に出た息子が既にあちらで妻子をこさえたと聞いてご隠居憤死。怒り心頭で押し掛けた祖母に、子持ち未亡人と結婚しただけで母と妻の交際期間は被ってない、慰謝料代わりに持って行けと捨て猫みたいに投げ渡された幼子――それが目の前にいるこの元男現美女なのである。

「……こう思い返してみるとそっちの家もたいがい女運悪いんじゃない……? だいじょうぶ? 一緒にお祓い行く?」

「ウチの場合は安きに流れる根性なしだっただけかなー。ま、それも私で終わらせるけど」

「ああまあうん、物理的っていうか性別的にね……」

 女難の家系? それなら性転換して女になればいいじゃない! ってことなのか? そうはならんやろと脳内つっこみをしておこう。

 こいつもうなんでもありだな、と胡乱な目で見つめる私に肩をすくめて、外見のみ美女は頬杖をつく。

「ふふん。天才たるこの私が、既存の性転換魔術なんてもの、いまさら失敗するわけないじゃないか」

「どう見てもご立派なお胸ぶら下げてるじゃないの」

「実は足の間のものもちゃんとあるんだなあこれが」

 数秒、沈黙。あまりといえばあまりの下ネタに私は酒を噴出した。なんてこと言うんだこのエセ美女!

「男なら女難、女なら男難……つまり、男でもあり女でもある究極生命体になれば万事解決子孫繁栄! っていう計画だったのさ!」

「いやそうはならんでしょ!? ならないよね!?」

「でも実際、こうなってから男女関係のトラブル一切ないんだなあこれが」

「うそでしょ珍獣チャレンジ過ぎるからなの……? 外見だけは絶世の美女なのに……?」

「ふっふっふ」

 にんまり。いくら美女でもちょっと台無しなくらい、満面の笑みを浮かべて。

 ロウソクを節約して月明りしかない室内で、エルンストはうっとりと、夢見るように私を見つめた。

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