第7話 誰もいない酒場

「…………!……

 軍曹?!

 いや、これは……」

「ここは取り扱い注意の危険兵器置き場だ。

 兵長クラスじゃ入れないハズだが…………

 と言ってもアンタ輜重課だったな」


「え、ええ。まぁ……」


岩石人間ロックマンの軍曹が兵器倉庫にズカズカと入って来る。

灯りまで着けようとするのでセルゲイは止めさせる。


「なんだよ、こんな夜中に?!

 何をコソコソとやってんだ。

 輜重課のオシゴトなら昼間やればいいじゃねぇか」

「いえ……ですからあまり大っぴらにしたくないと言いますか……」


「あぁん?」


岩で出来た顔だと言うのに、器用な事に軍曹はセルゲイに眉を跳ね上げてみせるのだ。

 

「…………そんなに数が合わねぇのか?」

「はい。

 小銃程度ならともかく。

 機関ガトリング砲まで足りない。

 あんなの簡単に行方不明になったりはしません。

 爆弾だって足りない。

 火薬類に至っては記録の半分以上がどこかに消えている」


「…………誰かワザと持ち出してるってか……」

「そうとしか考えられません」


「本部にはもう報告したのか?」

「まだです。

 何が幾つ無くなったのかもハッキリしてなきゃ、誰が犯人かも分からない。

 こんな状態で報告書上げたら…………

 無能!

 ってドヤされます。

 まぁ今回無くなった物のリストは作成出来ました。

 これで一度報告書上げますかね」

 


「…………実は俺も気になっていてな……

 こんな話、仲間を売るみたいで気が引けるんだけどよ……」


ラスカリニコス軍曹によるとリザードマンの上等兵の行動がおかしいと言う。


「あいつ……非番の夜はいつの間にか基地を出て、街で寝てやがるんだ。

 女の家に転がり込んだんじゃねぇ。

 街の一等地に自分の家を買いやがったんだ。

 そこに毎晩のように女を連れ込んでるらしい。

 しかもおかしいのは……それを他の兵隊どもに自慢してやがらねぇ。

 あいつは勇敢だし、戦闘力も高ぇ。

 ちょいと無理すりゃ家だって買えねぇ事も無いだろう。

 だけどな。

 兵隊がワザワザ有り金はたいて高い買い物したんなら、他のヤツらに見せびらかさないハズが無いんだよ!」


「どこかで内緒にしたい臨時ボーナスを得てる。

 ってワケですね」

「ああ。

 黒小人の落とし物でも拾って小遣い稼ぎする位なら大目に見るんだがな。

 軍の新兵器まで金に換えてるとなっちゃそうも出来ねぇ。

 なによりその売った兵器が味方の兵隊も傷つけるのかもしれない、となっちゃぁよ。

 見て見ぬふりは出来ねぇんだよ」



「…………

 シブイ!

 シブ過ぎるぜ!

 軍曹、アンタ最高だ!!!」


小声でつぶやいてしまうセルゲイである。




「兵長…………

 上等兵が買ったと言う家に行ってみるか?」


ラスカリニコス軍曹に言われて、セルゲイは素直に頷いた。


そのまま、岩石人間ロックマンがズシンズシンと歩く後を着いていく。


基地を出る時、犬の顔をした一等兵は軍曹を見て硬直して敬礼していた。

その後ろを歩く眼鏡の青年には多分気が付いていない。


セルゲイは石畳の街を歩いて行く。

途中でいつもの地下酒場を通り過ぎる。

すでに店を閉めたのであろうか。

地下へと続く階段のランプは灯っていない。





眼鏡の青年が通り過ぎた地下の空間では、音楽が鳴っていた。

老人の奏でるアコーディオン。


既に騒がしい酔客はいない。

色気を漂わせるウサギ耳の女性も帰宅した。


暗い店内で老人は左手で蛇腹を動かし、右手で鍵盤をなぞる。

空間に広がる静かな序曲オーバーチュア


黒い制服を着た子供は静かに目を閉じる。


老人の腕の動きに合わせて、音が転調する。

徐々にテンポが速くなる行進曲マーチ


子供はゆっくりと目を開ける。


最初から白い顔が、白い絵の具で塗られている。

目の周りだけ赤く縁どる。

左目の下には水滴のマーク。

赤い涙の様にも見える。


曲はすでに最高潮クライマックス

老人の指先が忙しく鍵盤を走り回る。


子供はもう制服を着ていない。

その身に纏うのは白いタイツに赤い布。

真っ赤な帽子を被れば。



ハイ!

出来上がり!



「ケヒャッ!

 ケヒャハハハッハヒャハハハハ!!!

 道化師クラウン様のお通りだ!

 良い子は寄っといで。

 アメをあげよう。

 悪い子には…………

 何をあげると思う?」

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