【ポリコレJK】アラサー社畜OLはJKに転生してポリコレ棒を叩き折る!~あたしは女子マネになってイケメンのパンツを洗いたい~

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 アラサー社畜OL、JKに転生する

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 即死だった。


 人生最期の瞬間、あたしは久しぶりに女の子みたいな悲鳴を上げる。

 三井久美子みついくみこことあたしに、車が突っ込んできた。

 会社からの帰り道だ。

 連日続く、残業に次ぐ残業の日々……。終電を逃し、タクシーで帰る日もあった。

 今日は久しぶりに定時で上がれたから、半年前に買ってから一度もプレイしていない乙女ゲーをやるつもりだったのに、車は赤信号を無視して突っ込んできた。

 まるで何百年も、あたしを轢き殺すのを待っていたかのように、まっすぐあたしだけをめがけて飛び込んできた。

 ササーッと、人生の幕はあっさり下りた。



 ◇◇◇



「起きなさい、起きなさい。三井久美子氏」


 うーん……。

 誰かの声が聞こえる。爽やかな若い男の声。ずいぶんイケボだ。

 身体が暖かくて心地いい。ここは天国かもしれない。前世で馬車馬のように働いてきた。だからカッコイイ天使が、塵芥ちりあくたの地上からあたしを引き揚げてくれたんだ。

 眠い目を少しづつ、開ける。

 男が、あたしの顔を覗き込んでいた。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 丸々太った豚のような顔。曇った眼鏡。顎はダルダルで、溶けたお餅みたいだ。

 タンクトップにリュックサックを背負っている。ぽこっと出たタヌキみたいなお腹。ヘアバンドで、ベトベトの髪をオールバック?にまとめている。

 鼻をつく、酸っぱい汗の匂い……。

 あ、これは――キモオタだ!

 それも古いタイプの、ザ・キモオタって感じのおっさんのご尊顔が、あたしの間近にあった。とっくに絶滅したはずの、ドラマの電車〇でしか見たことがない生き物が、目と鼻の先にいるのだ。


「せっかく助けましたのに、そんなに引くことないでしょう」


 丁寧な言葉遣いのイケボ。それと対照的な見た目。

 ギャップ萌えするには、落差が異次元すぎる。

 這いつくばって、キモオタから逃げようとした。


「どこへ行こうというのです?あなたはどこへも行けませんよ?」


 周囲を見渡した。どこまでも続く真っ白な、何もない世界。何もなさずぎて目が回って気持ち悪くなってくる。


「ここは……いったい?」


彼岸ひがん此岸しがんの中間、あの世でもこの世でもない場所です」


「あたしはまだ死んでないってこと?っていうか、あなたはどちら様?」


「わたくしはネトウヨしんと申します。日本にいる八百万やおよろずの神のひとりです。三井久美子氏、あなたはすでに死んでいます」


 相変わらず、顔に似合わないイケボだ。背中がゾワゾワする。これはたぶん慣れないだろう。

 あたしは死んでしまったんだ。他人からはっきり言われると、胸にずしんと来る。身体は死ぬ前のままだから、ついつい、気がついたら病院のベッドで目を覚ましたけど、記憶喪失で愛するイケメン彼氏のことを忘れていて――みたいな展開を妄想しちゃった。


「あたしは……これからどうすれば?」


「あなたには、2つの選択肢があります」


 変な名前の神様は、立派なお腹と二重顎を震わせた。

 っていうか、「ネトウヨ」って何?


「ひとつ目の選択肢は、このままあの世に行くことです。あなたは三途の川を渡って、天国へ行くのです。ふたつ目の選択肢は、これを着て転生することです」


 ネトウヨ神は、あたしに服を手渡した。

 この服は、甘酸っぱくてほろ苦い、青春の象徴。

 この服を着ていた時代を、人は一生忘れることができない――

 それは……セーラー服!!

 しかもあたしが通っていた、私立綾瀬川高校の制服だ。

 

「なんであなたがこれを?」


「ふふふ。三井久美子氏、あなたをここへ連れてきた理由は、まさにこれのためです」


 ネトウヨ神はジーンズのポケットからスマホを取り出した。

 

「さあ、セーター服を着てください!それから撮影会をしましょう!」


「はあ?絶対いやよ!」


 きつすぎる。アラサーで高校の制服を着るなんて。もう本物のJKみたいに声は高くないし、肌も体形もあの頃と全然違う。

 いやいや、あの頃も今もそんなに変わんないかもれなけど……。

 そうじゃない、そうじゃない。絶対、無理だ。こんな羞恥プレイはあり得ない。


「三井久美子氏、恥ずかしがってますね。彼女いない歴1000年のDT神のわたくしでも、あなたのご年齢でセーラー服を着るのが恥ずかしいのはわかります。ただ――あなたのその恥じらいに、わたくしは激しく萌えるのです。もう制服なんて着る歳じゃないのに、イヤイヤ無理やり着せらせて、でも一度着てしまえばあたしもまだイケるかも?と勘違いしちゃって、そんな舞い上がった自分に気づいて自己嫌悪して……ああ、萌えます!」


「キモッ……」


 キモヲタらしい発言だけど、それをイケボで言われるから洗脳されそうだ。

 あたしは心の中で、キモッ、キモッと念仏のように繰り返し唱える。


「キモイとはなんですか!ああ、どうしてまんさんはいつも男を無下にするのでしょうか!まんさんのキモイの一言で、どれだけの男が人生の絶望したことか!」


「だってキモイもんはキモイし……」


「もったいないですねえ。お世辞にもリア充とは言えない三井久美子氏が、めっちゃかわいいJKに転生できるというのに……」


「JKになれるの?」


「これを着れば、めちゃくちゃかわいいJKに転生させてあげましょう」


 ネトウヨ神は、セーター服の肩を持って、ひらひら振ってみせる。

 もし本当にJKに転生できるのなら……。

 彼氏いない歴=年齢で、マッチングアプリで残念なスペックの男に「俺でもイケる!」と思われてしまう、悲しい人生じゃなくなるかも。

 JKから人生をやり直せるなら、できなかったことを全部やってみたい。


「わかった。着る!着ればいいんでしょ!」


 どうせ一回死んだんだ。変な神様がアラサー女のセーラー服姿には興奮するだけじゃんか。

 自分で自分の姿を鏡で見るわけじゃない。自分が見なきゃそれでいい。

 ヤケになったあたしは、セーラー服をひっつかんだ。







 


 

 



 





 

 


 

 

 

  

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