恋する乙女パワー③

 心臓がバクバクと音を立て、顔に熱が集まっていきます。ハクハクと声にならない声を出す私は滑稽でしょう。


「ハナは……とても、綺麗だ」

「っ!?」


 だからっ! 私は! 人を褒めるのは大得意ですけれど、褒められるのはとても苦手なんですってばっ!!


 ボフッと音が出たんじゃないかってくらい急激に顔が熱くなりましたよ! もはや言葉になりませんっ!

 しかも、言った本人であるエドウィン様も恥ずかしそうに耳まで赤くなっていますし! ひぃ、かわいいっ! そろそろ心臓が持ちません!


 しばらくの間、私たちの間に何とも言えない気まずい沈黙が流れました。

 褒めてくださったのですから感謝の言葉を、とどうにか告げはしましたが……生まれてこの方、出したことがないほどの小声だったのでお耳に届いたかは不明です。ああ、私のお馬鹿さん。


 それから少しして、ようやくエドウィン様が再び話し始めてくださいました。ひぇ、今はお声を聞くだけで心臓がどこかに飛んでいってしまいそうです。


 落ち着いて私。冷静に、冷静に。スーハー。


「わ、我が領地は、知っての通り襲撃が多い。領内の平和は守ると誓っているが、何ごとにも万が一は起こり得る。そうした万が一を繰り返したからこそ、ギャレック領の守りはその度に強固なものとなっているのだが……リスクがあるのは事実だ。領民もそれは承知の上で暮らしている」


 それはそう、ですよね。ギャレック領は王都に次ぐ平和で安全な場所だと言われてはいますが、それもこれも守ってくださるエドウィン様やスカル師団の皆さまのおかげなのです。王都の安全だって、騎士様たちのおかげですしね。


 ただ、おっしゃる通り襲撃が最も多い地でもあります。敵国はもちろん、魔物だって。危険な場所であることに間違いはないのです。


 それは重々承知しているのですが……不思議なものですね。かわいらしいお姿を見た後も、エドウィン様がいらっしゃれば大丈夫だと無条件で信じられるのです。


 容姿は関係ありません。彼から漂う頼もしさは、それだけで消えたりしないのです。

 それを、エドウィン様はお気付きでないのかもしれませんね。


「彼らはありがたいことに、いつでも危険と隣り合わせだという自覚を持つ者たちだ。その上で陽気に笑い、明るく健やかな生活を送っている。だから俺は……君の明るさを好ましい、と思った。我が領地でもきっと明るく笑ってくれるだろうと」


 あ、それに関しては自信がありますよ! なんといっても元気だけが取り柄、人生楽しくがモットーですからね。大変な時ほど明るく笑顔でいようと心がけていますよ。


 そう考えると、エドウィン様が私を選んでくださったことにも説得力が出てくるというものです。私の明るさを買ってくださったのなら、その期待にはお応えしたいです。


「そんな危険でもある領地に招こうというのだ。きっと不安もあると思う。だが、ハナのことは絶対に俺が守る。危険な目には遭わせない、とまでは言えないが……必ず守り抜くと約束する。だから、ハナ」


 エドウィン様は一度言葉を切ると、ソファーから立ち上がって私に近付いてきました。

 そして私の前で跪き、片手を胸に当てながら真っ直ぐ私を見上げて来ます。


 こ、これはーっ!!


「どうか俺の婚約者として……共に、領地に来てくれないか」


 王子様ーっ!? もうこれは完璧な王子様ですよっ! 夢? 夢でも見ているんでしょうか私は?


 っと、いけません。これは私の人生で最も大切な瞬間というやつです。

 さぁ、差し出された手を取るのです、ハナ・ウォルターズ!


 情けないことに、私の手は震えていました。でも、せっかくエドウィン様が買ってくださった明るさをここで見せないわけにはまいりません。女が廃るというものです。


 緊張で手どころか全身が震えていますし、正直あまりうまく笑えていないかもしれませんが。


「は、はいっ。喜んで!」


 私が彼の手にそっと自分の手を乗せて答えると、エドウィン様はふわりと微笑んでキュッと優しく握ってくださいました。あっ、心臓まで握られた気がします。


 安心したように微笑むエドウィン様は、照れたお顔や真剣なお顔以上に私の心を揺さぶりました。


 ああ、本当に私はこんなにも素敵でかわいい領主様のお嫁さんになれるのですね……! 今すぐ頬を抓って夢ではないことを確認したいのですが、それは後でこっそりやることにします。


 こうして私は無事、ギャレック辺境伯の婚約者として迎えられることとなったのです。

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