第13話 ジャスパーからの帰路、バンフへ

 あ~あ、大失敗。朝、ゆっくりジャスパーを発つ。コロンビアアイスフィールドまでは、ずっと上りになる。のんびり行こう。「のんびり」と「ぼ~っと」は見かけは似ているが、かなり違う。

 ビューポイントでTシャツを着替える時、うっかり広角レンズを置き忘れたようだ。アサバスカフォールで気が付き引き返したが、時すでに遅し。


 こうなりゃ、スンワプタ・バンガロウで一泊する事にする。近くにあるスンワプタ・フォールの駐車場で又々熊さん発見。人間どもには目もくれずあちこちとエサを求めて歩き回っていた。

 1~2時間後、鉄砲を肩にしたオッサン達が何かを探して歩いていたが、熊を射殺するつもりなのか⁉ こんな可愛い熊を殺す必要は全くない。バンフのサンシャインスキー場の女性が言ってたように我々はFriendlyである。

 それはそれとして、バンガロウは林の中の小さな小屋である。もっと大きな熊に襲われたら一たまりもない。今夜はスリル十分だ。

 

 翌朝、無傷で起床。ゆっくり出発し再びコロンビアアイスフィールドに到着した。再度雪上車に乗ったが今回も感激はない。


 翌日、再びボーレイクのロッジに到着するまでにいろんな動物に遇った。

 途中のコロンビアアイスフィールドを出発してまもなく、草むらで見つけたのはキツネのようだ。リスか野ネズミを咥えていた。


 次が黒熊。6月19日に初めて遇ったのと非常に近い場所で遊んでいた。何と3匹。子熊だけで親の姿が見えない。停車中の車によじ登ったりして可愛い事この上ない。生後8~9か月、4~5か月、4~5か月ぐらいだろうか。毛色は4~5か月の1匹が黒で後の2匹は茶色だ。その茶色の1匹が真っすぐこちらに歩いて来る。私の右足の靴を舐めた後、真ん前で両手(両前脚)を上げて立ち上がってみせてくれた。何とも愛嬌たっぷりで可愛い。

 車から降りて見ていた白人の上品な奥様がニコニコしながら私に一言。”Bear like You.” 私は微笑み返しで応対。


 アッパー・ウォーターフォウル・レイクでムースを探してみた。まもなく水際で親子のムースを発見。残念ながらすぐ逃げてしまった。

 その後、ピート・レイク近くで今度は堂々たる角を生やした1頭のムースを発見。こちらは余裕で草を食んでおり、大勢の見物客が見ていた。成長した角のあるムースを見たのはこれが初めてである。


 6月28日。

 バンフへの帰路はレイク・ルイーズから右折してカナディアン・ロッキーを裏から眺めながら帰る事にした。脚はもうすっかり慣れていて問題ない。途中、ヘリスキーで訪れたゴールデンの町も通る。

 この日はレイク・ルイーズに向かう途中でキツネを1匹見ただけで、ただひたすらペダルを漕ぎ続けた。エメラルド・レイク経由でフィールドに到着。ホテル、レストランが1軒だけの小さな田舎町だ。店じまいが早く、夕食にありつけなかった。


 6月29日。

 今日から、カナダ日記も2冊目にはいる。2冊目の日記はバンフで買ったものだ。日本を発つ時は2冊目は考えてなかったが、今良い旅をしていると思う。

 この日はランチをゴールデンで取った他はラジウムホットスプリングスに到着するまでただひたすら走りっ放し。ゴールデンからは静かで平坦な道になり、所々に小さな部落や牧場もあった。いかにも田舎的で長閑である。人間嫌いには最高であるが、ちょっと不便かな…。


 ラジウムホットスプリングスのホテルにチェックインする時、少し面白い事があった。こんなやりとり。


"Hello, Can I stay here tonight?"

"Yes."


"How much a night?"

"20 dollars."


"O. K."


 で、20ドル払おうとして財布を取り出してたら、先方の請求額には$40.00となっていた。


 (えっ、何で?)

"A...,excuse me. You said 20 dollars. 40 dollars?"

"Two night. 40 dollars."


"Oh...,I see. I said tonight. not two night."


 こんなやりとりがありました。後で振り返ると、観光地での景観や博物館よりも人や動物との出逢いや笑える失敗やドキドキした事の方が強く思い出として残っているようです。


 翌日もヴァーミリオン・パスでのランチを挟み、単調な道を漕ぎ続けて、夕方18時50分、ヒロの待つバンフ、タウンハウスに無事到着。

 6月12日~6月30日の18泊19日の自転車一人旅、終了です。

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