第2話 サダミツ、トキヒコと対策を練る

 モニターの黒い画面を見つめながら、サダミツは呆然としていた。通信の切れるブツッという音がまだ耳の奥に残っている。

 我に返ったサダミツは、火星基地と再度通信しようとしたが繋がらない。仕方ないので地球本部や月基地に繋ごうとしたが、やはり反応がない。どうやら回線が反乱部隊に妨害されているようだ。

(しょうがない、まずはトキヒコを呼ぶか)

 サダミツは立ち上がると、船内ラインで寝室を呼び出したが、反応はない。

(まさか寝ちまったのか?)

 再度呼び出しをかけようとした時、ブリッジのドアが開いた。トキヒコがノートパソコンを持ったまま入ってくる。

「先輩、これ見てください」

 あっけにとられるサダミツにかまわず、トキヒコはノートパソコンの画面をサダミツに向けた。

「暇つぶしに昨日タイタンポイントで回収した観測データの解析をしてたんですが、星図データにない光点が入ってるんです」

「それどころじゃないぞ。火星基地が反乱軍に占拠された」

「えっ!」

 トキヒコはノートパソコンを閉じると、サダミツに尋ねた。

「『タイタン』は3時間後に火星基地に帰還するんですよね。どうするんですか」

「とりあえず座れ。まずは情報を整理しよう」

 サダミツはブリッジのシートを指さした。


「残念だが『タイタン』の残りの燃料では、火星基地に戻るのが精一杯だ。月基地や本部にも通信が繋がらないということは、『改革隊』が同時蜂起していることも考えられる。ここは予定通り火星基地に帰還し、まずは『改革隊』の情報を入手しよう。その間に本部の救援部隊が来るかもしれないしな」

 サダミツは向かい合わせに座るトキヒコに自分の考えを説明した。トキヒコは一つうなずくと尋ねる。

「その『改革隊』って何なんですか」

「それが分かりゃ苦労しないよ。トキヒコ、お前が養成学校にいた頃、太陽系警備隊に不満を持っている奴らはいなかったか」

 トキヒコはしばらく考えてから話し出した。

「そういえば何度か怪しいメールを受け取ったことがありました。本部の年寄りどもは現在の宇宙の実態が分かってないとか、異星人の襲撃に備えて各基地の軍備を増強すべきとか、そんなことが書いてあって」

「そのメールはどうしたんだ」

「僕は事実無根の怪文書だと思って捨てましたけど、真に受けている生徒も何人かいました。もしかしたら『改革隊』のメンバー集めをしていたのかもしれません」

「なるほど。火星基地にも本部に不満を言っている隊員がけっこういたけど、まさか蜂起するとは思ってなかったよ。そもそも俺は異星人とはまず平和裏に話し合いたいしな」

「もちろんです。大体僕が宇宙に来たのもご先祖が会ったという宇宙人の手がかりをつかむためですからね」

 トキヒコは首に下げたピルケースを開けた。手のひらに緑色の石が転がり出る。

「ご先祖が宇宙人にさらわれた時に持ってたっていう石か。大学の研究所で調べてみたらただのガラス石だったんだよな」

 そもそもこの石の話にサダミツが興味を持ったことからトキヒコとの長い付き合いが始まったのだ。

「でも、戸籍を調べてみたら確かにご先祖の田城たしろまもるさんは子どもの時に失踪しているんですよ。詳しい話を士さんの奥さんが日記に残してるし、僕は信じてあげたいんです」

「戸籍を調べたら、俺とお前が遠い親戚だったのには驚いたけどな。とにかく、このまま燃料切れになったら宇宙人捜しどころか命に関わるぞ」

「折角先輩と一緒に仕事ができると思ったのに」

 トキヒコがため息をついたその時、再度通信機のコール音が鳴った。あわててサダミツが通話ボタンを押すと、褐色の肌と髪を持つ男性が映る。その顔にサダミツは見覚えがあった。

「私は『改革隊』の隊長、ネジギ・ハジャだ。すでに我々は火星基地を占領し、月基地、地球本部の回線も掌握した。現在火星基地司令官を始め、抵抗者は人質として拘束している。我々の要求を飲めば危害は加えない。だが外部から攻撃を行った場合、人質の生命は保障出来ない。太陽系警備隊の諸君が賢明な判断を取るよう願うものである。以上」

 画面が消えた。サダミツは眉間に指を当てるとつぶやく。

「まさかハジャ副司令官が今回の首謀者だったとはな」

「僕が来たとき、入れ替わりでシャトルに乗った方ですね。いつ戻ったんでしょう」

「分からん。シャトルごと乗っ取ったのかもしれんな」

「先輩、このまま戻ったら僕たちも捕まるのでは」

 トキヒコがサダミツの顔をのぞき込む。

「真相は分からんが、俺は『改革隊』のやり方には反対だ。かといって二人だけで抵抗しても結果は決まってるようなものだし。ここはいっそ、おとなしく捕まるか」

「先輩が言うなら従いますけど、その後どうするんですか」

「それからは、それからさ」

 サダミツは立ち上がった。

「トキヒコ、火星基地に戻る前に少し腹ごしらえしておこう。捕まったらどんな真似されるか分からんからな」

「では僕は、さっきのデータ解析の続きをしてますね」

 ノートパソコンを広げ直したトキヒコを見ながらサダミツは心中でつぶやいた。

(こいつ、本当に今起こってることの意味、分かってるのかね)

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