第36話 監獄2

監獄は暇である。まあ監獄というか普通のただの牢屋があって交代で見張りがやってきて、定期的に、団長であるバレットさんに僕の目的とかを聞かれるだけなんだけどな。ほとんどの監視役でやってくる人は、僕にビビっているのか分からないが、近づいてこようとしないが、一部の人間は話しかけてきた。


「なんで?あの時に、逃げなかったんですか?正直手錠ぐらいされても逃げれそうですし、私を人質にでもすれば、兄は……団長は手出しが出来なかったですよ。」

僕に手錠を付けた少女も話しかけてくる一人だった。名前をアインと言うらしい。


それは、ちょっと自分が強くなったと思って、調子に乗っていて、謎に痛い発言をした直後に完全に不意を突かれたから、恥ずかしさで、気持ち的に負けたような気がした。などとは、恥ずかしくて言えない。


「…………まあ、疲れたので」


「そうですか?息切れもしていませんでしたよ。」

うわーこの人鋭いな。それとも純粋なのか。どちらにしても兄よりはしっかりしてそうだった。まあ兄も悪い人じゃなさそうだが。


「……それで、何か用事ですか?僕を外に出してくれる気になりましたか?」


「それは無理ですよ。私にそんな権限ありませんし、ああもちろん団長にもありませんよ。」

じゃあ、誰にその権限があるんだよ。そう思って。


「じゃあ、誰にその権限があるんだよ。」

そう言っていた。


「………それは、族長です。あまり大きな声で言えませんけど。今の族長は、最悪ですから。」

12歳程度の少女と思えないぐらい、アインさんは冷静な人間だったが、この発言に含まれる殺意は、12歳程度の人間が持つものでなかった。話題を変えよう。


「…………そういえば、この里の騎士団?まあ何の組織かは良くわかりませんけど。こんなことを言うのは失礼ですけど。若すぎませんか。」


その言葉に彼女は、少し遠くを見た。

「暇ですよね。捕まっているから、貴方を良い人と見込んで、私の話を聞いてくれませんか?」

あれ?なんか地雷踏んだなこれ、ああ地雷踏んだよ、うん完全に地雷踏んだ。


「僕が良い人と見込んでいいんですか?」


「それは、大丈夫です。私人を見る目はあるので、それに騎士団の団員はみんなダメージは食らっていても、死ぬほどの致命傷を負ってませんし、貴方は剣を抜いてなかったじゃないですか。それで、私の話を聞いてくれますか?」


「…………まあ、迎えが来るまでは聞いてあげますよ。」

まあ、この世界のことを何も知らない僕からしてみれば、話を聞けるのは悪い話ではない。ついでに僕が問答無用で捕まった理由が分かるかもしれないし。


「アイン?何をしている?」

そんな時にちょうど水を差された。話を聞けなかった。団長ことバレットさんが戻ってきた。


「兄……団長。どうしたんですか?」


「それは、お前が余計なことを喋るんじゃないかって思ってな。」

兄弟ってやっぱりこういうものなのだろう。


「………別に良いじゃん、話しても。ほらせめて、なんでこんなに急に捕まっているかは教えてあげよう。昔は、世界樹の森に迷い込んだぐらいで捕まえることなんてなかったじゃん。かわいそうでしょ。」

そう妹の少女が言うと兄の方のバレットさんは少したじろきながら、


「迷い込んだだけじゃないかも知れないから、捕まえているのだが。はぁあ、貴様にでは話してやろう。約半年前にこの里で起きた話を」




この里は、半年前、半年より少し前は、人が多くて活気があって、子供から老人まで幅広い年代が平和を享受しながら生きていたらしい。もちろん全く問題がなかった訳ではないが、族長と呼ばれる仕切り役と、バレットさんとアインさんの父親だった騎士団長などの人徳によってそれなりの平凡な平和を享受していたらしい。


全ての崩壊は里に現れた一人の人間の青年から始まった。その青年の宣言から始まったらしい。

「俺は、頼まれた為と戦いを望みここにやってきた。俺は力を望むもの、だが、俺も極悪非道で手当たり次第ぶっ殺す訳ではない。若い者は助けてやろう。」


その青年の強さは異常だった。異常に強かった。そもそも獣人族は人間と比べても身体能力が2倍から3倍違うと言われている。だから、普通は、単純な力比べて獣人族が負ける訳がない。負ける訳がないのだ。その青年はこの里の最高戦力だったかつての団長、バレットさんとアインさんの父親を、バレットさんより圧倒的に強かった瞬殺したらしい。それらもその青年は残虐の限りを尽くして、この街から戦える者は、若者以外はほとんど死に絶えたらしい。その青年を手引きした人以外は、今のこの里の族長以外は。



僕は思わず話の途中で口を挟んだ。

「ちょと、待ってください。なんで、手引きした人が今の族長なんですか?」

意味不明である。


「それは……そういう決まりなんですよ。この里と世界樹の女神との結んだ契約、決まりの一つです。族長を殺したものが次の族長を指名できるっていう。それが誰であっても。そういう決まりなんですよ。それがずっと、続いてきた決まりなんです。それに神様と結んだ契約を破棄すれば………」

そう、アインが呟いた。そんな決まりならそんなクソみたいな決まりは、


「どうして、その決まりを破らないんですか?可笑しいですよね。悔しいはずなのになんで?…………ああ、いえすいません、全員がずっと守ってきた決まりを破るのはまあ、怖いですよね。」

今の僕なら、いろいろ振り切れた僕ならば、反逆することを決めた僕ならば、すぐに、こんな決まり破るべきだって言えるが、昔の僕なら、優斗に全てをゆだねて、自分が選択せずに逃げていただろう。とりあえず、世界樹の女神もぶっ飛ばしてやりたい。なんだ、このクソみたいな約束は、意味不明である。

ふう、つまり、この里は滅びかけである。それと多分、いや確証はないが、この里を襲ったのは、時間的にあり得るか微妙だが、あの時に半年前に僕を攻撃してきた、前の異世界から来た勇者、川野 レイジ、強欲かもしれない。これは言うべきでないか。


「…………話はもうこれで終わりだ。貴様、それでそろそろ目的を言ったらどうだ?貴様は、この里を脅かしに来たのか?それとも世界樹を破壊でもしに来たか?そろそろ答えろ。」

少しなんとも言えなくなった空気をバレットさんがそう言って変えた。


「まじで、目的とかないので、とりあえず、そろそろ出してくれませんか?」

そう呟いてみた。

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