第21話 ダンジョン3

「これで何回目ですかね。ルナお姉さん。」

あれから、何度も行き止まりにたどり着き、そのたびに何度も、何度も心が折れそうになった。そして再び行き止まりに遭遇した。


「20回目から数えるのは辞めましたよ。徹。大丈夫ですか?私も降りて走りましょうか?」

ルナさんを抱え続けていた。まあ疲れはしないので問題はない。むしろ、むしろ


「もう、絶対に下りないでください。馬鹿みたいに運動できないんですね、あなた、むしろ大変なことになるので。」

彼女の身体能力は全くないといっても過言ではなかった。


「…………徹、私に一つ案があるんだけど。私が魔法で壁をぶち破ろうと思うんだけど。」

ルナさんはそう言ってあほそうな提案をした。


「てか、そんなこと出来るんですか?それなら、最初から言ってください。」


「それは、まあこの壁をぶち破るにはそれなりの魔力が必要で魔法を使うのに溜め時間と準備が必要だから。徹がその間、あの大軍を止めることが出来れば…………」

なるほど、なるほど、そういうことか。魔法をするのに時間がかかって隙をつくれないから使えなかったと。これ以上走り回るのもかなり苦痛だし、そうだな。


「何分ですか?」


「1分で、魔法を発動させます。」

ルナさんが一分というので、とりあえず、ルナさんを地面におろして、魔物の集団を迎え撃つことにした。倒すことは難しくない、魔物を殺さずに、それでいて、大量の魔物を足止めするのは、あほみたいに大変だと思う。


「頑張ってみますよ。」

そういって、とりあえず、剣では攻撃力が高いので拳をぶつけることにした。

痛い、あほみたいに手が痛い。

魔物の強度は素手で殴るには明らかに硬すぎた。ダメージはないが殴るたびに痛いのは、少し嫌である。


一瞬振り返るとルナさんは魔法陣のようなものを描き、そして杖を構えていた。何気に初めて杖を構えているところをみた。この世界の魔法は杖など使わないと思っていたが、単純にルナさんが杖を使わずに簡単な魔法を発動させていただけかもしれない。

そんなことを思いつつもひたすら魔物を殴り続けた。

途中で嫌な音とともに手に液体がつくことがあったが、それはまあ仕方ない。

何とか時間は稼いでいたが、少しずつ押されていき、ついにルナさんの近くまで来てしまった。その時にルナさんの


「無に帰せ ゼロ」

そんな声が聞こえた。

それから爆音が響き、爆風が起きた。


その爆風で、魔物は飛ばされて、僕は咄嗟に地面に剣を突き刺して、飛ばされずにすんだ。振り返ると、行き止まりだった、壁に大きな穴が開いていた。壁だけでなく、その直線状すべてに円状の穴が開いており、ありとあらゆる障害物が消滅していた。


何があればこんな風になるのだろう。いや、さっきの魔法だろうけど。でもこの壁僕が死ぬ気で全力で体当たりしてもひびすら入らない代物だよ。

「徹、言い忘れてたけど、これ魔力全部持っていくから、私一時動けないから、頑張って私を抱えて逃げ回ってくださいね。」


ルナさんは真っ青な顔でそういった。

そう簡単に使える魔法ではないらしい。


「とりあえず、行けるところまでまっすぐ進みますよ。」

真っ青なルナさんを抱えてまっすぐ走った。


「……任せました。」


「それで、どのくらい時間を稼げばいいんですか?」

ルナさんのサポートなしに追いかけっこを続けるのは地味にきつい。


「大体、8時間です。」

無理ゲーでーす。8時間逃げている間に絶対に行き止まりに追い込まれる。魔物を倒しすぎたら、ルナさんと僕がバラバラになる。ルナさんは魔力が残っていないから、やばい。


「どこか隠れられる場所ってないんですか?このダンジョン。」

しんどそうな、ルナさんに聞くのは気が引けるが、聞かないと話が進まない。


「ないです。徹だったら、逃げ切れるでしょ。」

ルナさんはそう言って青白い顔でニコッと笑った。信頼はどうもありがとうという感じだが、それは過信だった。


「無理です。僕一人で逃げるなら大丈夫ですけど。ルナさんと一緒に逃げるとなると無理です。」


「……なら1時間ぐらい待ってくれれば、私の魔力が一部回復して、隠れる用の結界ぐらいは張れるので、一時間は頑張ってくださいよ。大体一時間後に起してください。」

ルナさんがそう言って目を閉じた。

よくここで寝れるよ。本当に、まあそう言われたからにはとりあえず、1時間は頑張ろう。1時間は逃げ切ろう。








大体1時間後………

僕とルナさんはダンジョンの横穴のような小さな空間にいた。

狭いが、結界を張る魔力が足りないからしかたないらしい。

ルナさんは魔法で寝袋を出して、横になっていた。


「ねえ、徹。今度から、もっと考えて魔法を使おうと思ったんですけど。どう思いますか?」

ルナさんは寝ころびながらそう言った。


「それは僕も賛成です。これからは、あの魔法は基本的になしで行きましょう。ルナさんが倒れると凄く困ります。」


「そうですね、徹。おやすみなさい。」

そういってルナさんが目を閉じるので、僕も眠くはないが体育座りで目を閉じて寝ることにした。ダンジョンに来てから、寝る必要がなかったので寝ずに本を読んだり訓練をしていたので久しぶりの睡眠だった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る