奈落猫 は 雑踏の向こうでほくそ笑む

Y4_弌Q嘶伍(やーいちきゅうよんごう)

第0話 裏表紙の下側に

私はアビス、奈落猫。

ずっと深い、世界の底に、辿り着いた

一人の男と、深淵の神が"愛"を知り得て

産まれた2柱の1欠片。

それが私。それだけでいい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

          そうだ

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[おはようかあさま]

[おはよう母さん]

私とカイルは兄弟で、二人揃って奈落の子。

私は白猫で、カイルは黒猫。

お互い反対の衣(いろ)を身につけている。

[(うん)]

母の名は"アザトース"深淵の星、父に見つけられ、そして最初で最後の愛人(まなびと)。

[じゃあ、二人とも、行ってきます]

[うん、ルカ、気をつけてね]

[(半目で手を振る)]

[(頷いて手を振る)]

今日以降、ここに来るのはしばらく後になる、だけど心配することはないと思ってる。

きっとカイルやとうさまが、母や奈落を護ってくれるし、私は皆が居るから寂しくないんだ。

[よし………]

心を決めて地上に出たが、地上は閑散としていた。

"ティアマト神の眠り"は良くも悪くも、このバビロニアの人々を動かしてしまったらしい。

[ルカ、、、すまない、、、]

司祭長のベルさんだ、私を"裏"に行かせるのが申し訳ないらしい。

[いいんです、私は誇りを持って、ケルルクを作ってみせますから]

[それに、母もカイルも、グゥだって後々来るんです、私は何も辛くはない…だから、そんな顔をなさらないで]

私の言葉を聞いて更に額に影を作るベルさん、それもそうだ、今から、さほど歳も行かぬ容姿の娘子供に手錠をかけて檻に入れねばならないのだから。

[ベルさん、お願いします]

[あぁ、、、]

ガチャ………という、檻が閉まる音が聞こえてからしばらく経つ。

[………外はどうなってるんだろう]

迎えも来ないし、音もしない。

[、、、あぁそうか、、、]

私は察した。

恐らく裏に私を連れて行くのに反対する人々との抗争だろう。

見兼ねた誰かが"どこか"へやってしまったんだ。

[(ガンッ!ガンッ!!)]

本気で引き押しするも手錠も壊れないし、きっと、バルバトスやヒノメヅカ達が迎えに来るまで退屈するなと思っていた矢先に

[カツ……カツ……カツ……]

私は突然の足音に驚いて、取り敢えず影に隠れた。

[(ガチャ)(キィー………)]

扉が開き、入ってきたのは青髪の体格のいい不思議な格好の男だった。

鍵を持っているし、ベルさんの知り合いだろうか。

[(な〜んだ、民間人か…なら………よし)]

私は彼を脅かしてやろうと、背後から近寄り膝めがけて膝うちをしようとした。

[えい]

がしかし彼は、ばっ!と振り向き私を抱き上げ、

[よっと!いたずらっ子め!]

咄嗟に私は、

[わっ!ぅぉ……不敬ー!不敬ー!]

と意味不明な鳴き声を上げてしまった。

[ははは、元気がいいな!]

青髪の彼は私を見て言う。

少しして彼は私を降ろした。

[むーー!]

ムッとして私は再度意味不明な鳴き声を上げた後、

[名乗りなさい]

と、今更取繕い聞く。

彼は、

[あぁ、私は みなもり かずと 、カズトと呼んでくれ]

と名前を教えてくれた。

いわゆる東洋人………なのだろうか、恐らくウルクやバビロンの民ではないしベルさんの知り合いでもないだろう。

[私はアビス・ヤルカスター、王権冠位者だよ]

私も軽く自己紹介を済ます。

そして、

[フン!つまり私はおうさま!]

等と軽口もたたいて見せる。

すると彼は はっ とした様子で

[……!そうか、そうか……はははっ!これはこれは、失礼しました、王様]

………なにか少し引っ掛かる言い方だったが、彼は悪い人ではないみたいだ。

それに、私を王と認めたなら彼は私の家臣だ。

[む、むー………よし、ならば、家臣よ]

[私のこの手錠を外しなさい、なんか取れないのよ、本気で殴っても取れなかった]

何故か自然と口調が崩れてしまったが、彼は、

[いいのですか?他の家臣が着けたものでは?]

[みんな…もう居ないからね]

そうだ、もう、匂いも気配も微塵もない。

[……そうでしたか、では、外しましょう]

続けて私は

[多分、もう5人しか居ないよ、私を含まないで]

と、バルバトス、ルーク、ヒノメヅカ、カイル、そしてキングゥ………彼らは残っているだろう。

[ふむ……では、その5人を探しに行きましょうか]

[いや、次期に来るよ………多分、少ししたら迎えにくる]

恐らくもう少しでくるだろう、とはいえしばらく時間がある、すると彼が、

[迎えに……そうですか………では、それまで何か遊びましょうか]

私はそれに少しばかり心躍ってしまい、またしても、

[おっ 遊ぶ!たたかいごっこ?わたしつよいよ!]

意味不明な鳴き声と、子供のような口調で喋ってしまう。

[ちんちろ?お母様がいうには、賽をまわして遊ぶんだって!]

東洋の文化らしい、昔母の中で眠ったとき聞いたのだ。

[それもいいですが、今回はそうですね、ヨットでもしましょうか]

[なにそれ?]

私はそのゲームを知らずにふと聞いてしまった。

やってみると中々に難しい。

[おっお………難しい………]

[はは、王様であれば、ルールを理解して戦略を練れねばなりませんよ]

その通りだ、割と運が絡むゲームではあるが、根本

には作戦が必要なゲームなのだろう。

[ぐぬぬ………]

私はまた意味不明な鳴き声を出しつつ考える。

[せい!]

願いを込め ぱっ と私は彼の賽を振る………

[いや、3回目で負けるとは!王様は凄いですね!]

割と彼は手を抜いていたように思う。

[ムー………ムン………]

少し悩んだが、素直に喜ぶことにした。

[へへーん]

………彼と居るとおかしな声を出してしまう。

[いずれ、立派な王になりますよ。本当に、立派な王に]

………ああ そうか

[もちろん!]

そして、

[ああそうだ………貴方は、異邦人よね]

満を持して聞いてみる。

[おや、気付いていましたか]

[もちろん、王だから!]

多分、民でも気付くと思うが、そう言ってみる。

そして私は何を思い立ったか、

[アッカド語は読める?]

[いや、読めないですね]

[教えてあげる!]

……………暫くの時間がたった、楽しい一時だったが、その次の瞬間、外側から

[(ドォン!!)]

多分エルキドゥだろう、しっかり殺意がある。

[あっ バルバトス達じゃない 誰だろう?]

殺意に押されて軽く現実逃避をしてしまう。

[見に行きましょうか。……王様も来ますか?]

彼はそう言って前に行こうとする。

[いや、もちろん………私が前だよ]

[民草は王の後ろに居るもの]

[だから平気だよ?]

私は彼を安心させるために、心からそう言う。

[そうでしたね。では、せめて背中は支えましょう]

彼は、

[エルキドゥ…]

予想通りだ。

[やぁ、アビス君]

魔力回路が剥き出しだ、反撃を食らったのだろう。

"神代最強の兵器" "ウルクのキレた斧" そんなものに人間が挑めば、塵も残さず殺される。

[私は王だよ、もう既に、そのために皆冥界へ下った]

そうだ

[私は民草を守り、この方舟を、この時代を切り取り、世界の揺りかごにする義務がある]

そうだ、私は

[私を、王と認めてくれるね?カズト]

そう

[もちろんですとも。貴方ほどの王はこの世に居ないと、断言して見せます]

王なのだから。

[いい臣下だね、じゃあ見せてよ、ヤルカスター、ケルルクの王として]

[母の眠ったこの世界で歩む力を!]

炉心が溶(も)える。

今なら歩める、黄金の鍵(イー=バウ)がそう叫ぶ。

だから、私はそれを空にかざす。

[原初を語る、天上の地獄とは創生前夜の祝着。

それでも私は星を探す。]

天、地、冥界を司る三椎の剣

[これは、人理を衞る乖離剣、王の証]

[私しか抜けないもの]

だから、歩めるんだ。

[[これでいいかい?]]

[私は冥界のみんなに話さないと、私の、これからを]

そう、これでいい。

[仕方ないなぁ………僕も折れるよ、じゃあ………お行き、裸の王様]

彼は津波のずっと奥へ消えていった。

するとすぐに彼らが来た、バルバトス達だ。

[………]

カズトは彼らに、私にしたように自己紹介をする。

[みなもり かずと だ。皆、よろしく]

すると皆は

[………よろしく]

[コクコク]

[よろしく!!!]

一息飲んでして、私は、

[さぁ、じゃあケルルクへ帰ろうか]

[王任最初の仕事をしなきゃ!!]


冥界を下り征く民を、皆を、見送る。

こうなると、きっとみんな知っていた。

だけど、私は彼らに、最期だって笑っていてほしいんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     これは、それだけの物語………

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[今や星は陰り、天上の創生は終わりを告げ原初の海は責務を終え眠りについた………]

それでいいんだ。

[しかし!これよりは人の時代!]

[人の王が都を統治し、我々は人の時代を始める!]

そうだ、彼がそうしたように。

[我々の文明は’’この世界’’から隔離されようと!]

[この歴史は未来に人の手によって紡がれる!]

さぁ、始めよう。

[前を向け!我がケルルクの精鋭たちよ!]

………

[およ?これはこれは………そっちからくるとかすごいね]

自然と声が出てしまう。

[ああ、王様、元気にしてましたか?]

………

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

    そう、それは、それだけの物語だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

                    つづく

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