17. 取引をしましょ

17. 取引をしましょ




 そして約束の日。オレたちは王立図書館前の広場に向かう。


「ここが王立図書館……」


 オレは目の前の荘厳な建物を見上げる。それはまるで、この国の歴史そのものを体現しているかのようだった。

「レオン君はまだ来てないみたいですね?」


「そうみたいだな。遅刻か?あれだけ偉そうに言って」


「誰が遅刻だって?」


 後ろから声をかけられ振り返ると、そこにはレオンがいた。どうやらギリギリで到着したようだ。


「おはようございますレオン君!」


「あぁ……おはよう……君は朝から元気だなカトレアさん」


 眠そうな顔で挨拶をするレオンだが、どこか様子がおかしい。それに気が付いたのかカトレアも首を傾げる。


「んー?どうかしたんですかレオン君?」


「いや……なんでもない。それより早く行こう。魔法競技大会を勝つ方法を説明をする」


 そう言うとレオンはスタスタと歩き出す。その後ろ姿からは迷いのようなものを感じた。何かあったのだろうか?


「あっ!待ってくださいよ〜!」


 カトレアは慌てて後を追いかける。その後をオレとギルが歩いていく。王立図書館の中に入ると、そこは別世界のような光景が広がっていた。天井まで届くような本棚には本がびっしりと並べられており、通路にも大量の本が積み上げられている。


「これはすごいわね……」


「はい……こんな量の本初めて見ました……」


「さぁこっちに来てくれ」



 呆然とするオレたちを先導するように前を歩くレオン。しばらく進むと大きな机のある部屋にたどり着く。そこには何冊もの分厚い本が山積みになっていた。


「ここでなら落ち着いて話せるだろう」


「確かにそうだな。それじゃあ早速教えてくれ。どうやって優勝すればいいんだ?」


「その前にステラ。ボクたちはクラスとして勝つのか、個人で勝つのか教えてくれないか?」


「えっと……もちろん私たちはクラスとして勝ちたいですわ」


「わかった。それではまず個人ではなくクラスとしての作戦を説明しよう。といっても難しいことじゃない。ステラ。実力を考えれば君が星を集めるのが一番早い。そしてそれをボクたちに分配すればいい。最後の時間までボクたちは逃げ、全員が残れれば四大との戦いでも勝機はある」


 なるほどな。本物のステラ=シルフィードならそれでいいが、オレは偽物だからな。オレの魔法で相手を倒して星を集められるとは思わないんだが……。


「でもそれじゃステラ様の負担が大きいですよ!?」


「そうだぜ。」


「バカか君たちは?ボクたちがやることは必ず最後まで残る四大との戦いまで、脱落せずに残ることだ。いくらステラでも四大と単独で戦って勝てる保証がない以上、ボクたちと一緒に戦う方が勝率は高い」


「たしかに……」


「そりゃそうか」


 二人は納得してるようだけど、それはステラ=シルフィードが本物ならの話なんだよな……かと言って偽物とは言えないし。どうしたものか。まぁ考えても仕方ない今はとにかく魔法競技大会を勝ち抜くことを考えないと。


「……その作戦だがどうだステラ?いけるか?」


「えぇ大丈夫ですわ。任せてくださいまし!」


「……一応協力はしてやる。ボクも結果は残したいからな」


 そう言うレオンはどこか表情を曇らす。やはり先程からの態度といい何かありそうだ。そのあとはレオンと別れ解散になった。オレはやはりレオンが気になるので後をつけることにした。


「ふぅ……」


 人気のない路地裏に入り一息つくレオン。そのまま壁に寄りかかりズルズルと座り込む。


「……これでいいんだ。ボクは自分の力を証明しなきゃいけない……利用できるものは利用するさ」


 やっぱりな。なんとなく作戦を聞いて理解はしていたが、本人の口から聞くとより現実味を帯びてくる。このまま放っておくわけにもいかないよな。


「最後に適当な理由でカトレアとギルの星を預かって自分が上位にいこうとしてるのかしら?」


「ッ!?」


 突然の声に驚いたのか勢いよく立ち上がるレオン。そしてオレの顔を見ると目を丸くした。


「ステラ……」


「星を私に集めさせ、自分は逃げるつもりかしら?別に責めているわけではないわ。効率がいいものねその方が?ただ私はあなたに聞きたいことがあるのよ。どうしてそこまで焦っているのかを」


「…………」


 無言のままこちらを見つめるレオン。その瞳には戸惑いの色が浮かぶ。どうやら図星のようだ。


「頭がいいと言うかずる賢いと言うか。私はそういうやつ嫌いじゃないけどね?もう少し素直になりなさいよ?」


「うるさい!お前に何がわかる!ボクは平民とは違う!貴族なんだ!だけど、そのためには努力をしないといけない!周りを蹴落としてでも!」


 顔を歪めながら叫ぶレオン。その姿はとても痛々しく見えた。そんなに実績が欲しいのか。でもレオンには迷いがある。だから言ってやることにする。


「なら取引しましょうか。」


「なに?」


「これは、私もあなたもお互いのためになる取引ですわよ?」


 そう言ってオレはレオンに取引を持ちかけるのだった。これはオレたちが勝つための取引。

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