【ショートショート】狩猟の季節【4,000字以内】

石矢天

狩猟の季節


 ――2×××年


 ついに我々は外宇宙への進出を果たした。

 無数の星々の中には、長年探し求めていた『知的生命体』の存在も確認された。


 残念ながら、我々と同程度の技術力を保有する存在を見つけることは出来なかったが、様々な未知の生命体の発見は『外宇宙レジャー』の発展へと繋がった。




 季節は秋。私はこの季節が大好きだ。

 なぜなら秋は狩猟の季節。


 外宇宙にある星で、現地の動物の狩猟がエリア限定で解禁されるのである。


 季節とエリアが限定されているのは、もちろん種の保存のため。

 外宇宙の動物を絶滅させてしまうようでは、宇宙を開拓する資格などない。



 私がベースキャンプに降り立つと、すでに見知った顔のハンター達が集まっていた。


「やあ、エイン! やっと、この季節がきたわね」


 ひとりの女性が、手を挙げて私の方に近づいてくる。


「ああ! 待ち遠しくて頭が雲の上に届くところだったぜ」

「気持ちは伝わるけど、例えが全然面白くないわ。2点ってところね」


 くっ。採点が厳しすぎる。

 彼女の名はリア。女性ながら凄腕のハンターで、私のライバルでもある。


「それはさておき、どう? 今日もやる?」

「おっ。いいね。受けて立つ!」


 私とリアは、狩猟が解禁されるといつも勝負をしている。

 どんな勝負かはわざわざ説明する必要もないだろうが、簡単に言えば『狩り比べ』というやつだ。


「武器は?」

「もちろん弓さ」


 そう言って私たちはニヤリと笑う。


 弓とは旧世代も旧世代の武器。

 太古の昔、戦争に使われていたと伝わる原始の狩猟道具である。


 もちろん私たちが持っている弓の素材は、最新技術によって作られた軽くて丈夫な新素材。過去の弓とは比べ物にならないほど命中精度も殺傷能力も高い。


「さすが! 意識が高いわね」

「外宇宙の星々をこよなく愛するハンターとしては当然のことだろう?」


 最新鋭の武器である光線銃は、その性質上、星の環境に若干の影響が出るということが近年の研究でわかった。


 ハンティング用の光線銃は、軍の装備に比べれば影響も少ないだろう。

 しかし、私たちがやっているのはあくまでレジャー。

 これからもレジャーを楽しむために、可能な限り星の環境に配慮するのは当然のことだ。


 周りのハンターたちも半数以上は弓、投げ斧、投げ槍といった環境に配慮した武器をその手に持っている。


 ハンティング用の光線銃を手にしているのは初心者か、ハンティング体験の観光客だろう。

 

「それじゃ、勝負は数ってことでいいかしら?」

「構わないけど……、そうだな、獲物の種類だけは決めておこう」

「オーケー。いつものヤツでいい?」

「ああ。この星で一番美味い、秋の味覚だからな」


 私たちは、正々堂々と勝負をすることを誓って二手に別れた。

 制限時間は日没まで。




 私は飛行型二輪車フライトバイクに跨って獲物を探す。


 巣はすぐに見つかるが、中はもぬけの殻だ。

 ヤツラは私たちが巣に近づくと、すぐに姿を消してしまう。


「ここまでは、いつもどおり」


 生態調査レポートによると、ヤツラは地下に強固な退避用の巣を持っていて、危険が迫ると一斉に逃げ込む特性がある。


「退避用の巣を見つけたことがある」というハンターによると、ハンティング用の光線銃では破壊出来なかったらしい。



 つまり逃げ込まれたら諦めるしかない。


「さてさて、逃げ遅れたヤツはどこかな?」


 退避用の巣がある、とはいえ収容できる数には限りがある。

 なら逃げ遅れたヤツはどうするか……。もちろん、隠れるしかない。


 ヤツラは椅子取りゲームをしたあと、負け残りでかくれんぼをするわけだ。



 フライトバイクをゆっくりと走らせながら、獲物が隠れていそうな場所を探す。


「Ahyaaaaaaaa!!」


 聞こえた! 獲物の鳴き声だ!!

 私はフライトバイクのアクセルをベタ踏みして、鳴き声がした方へと走らせる。


「……なんだ、お前か」


 そこには心臓を矢で撃ち抜かれて大の字に倒れた獲物と、それを亜空間ボックスに入れようとしているリアの姿があった。


「ひと足遅かったわね。このあたりに隠れているのは狩り尽くしちゃったわよ」


 くそっ。ドヤ顔がウザい。


「なぁに。勝負はこれからさ」

「そうね。ボウズなんてことにならないように、頑張ってね」


 リアは意地悪な笑顔を残して、フライトバイクに乗っていなくなってしまった。

 悔しいが現況は劣勢だ。


「クソッ」


 ガンッ!! ゴン、ガラン、ガラン!


 しまった。

 私としたことが。


 怒りに任せて地面に落ちていた金属の缶を蹴り飛ばしてしまった。


「kyaa!!」


 金属が転がっていった方向で、小さな鳴き声が聞こえた。

 私はニヤリと笑ってフライトバイクを飛ばす。


「見つけたぞッ! ははははははは!」

「iyaaaaaaaaa!!」


 気分が良くて笑いが止まらない。

 普段なら見逃してしまいそうな小さな巣の陰に、幼体の獲物が5匹も隠れていたのだから。


「なにが『このあたりに隠れているのは狩り尽くしちゃった』だよ。こんなに残ってるじゃないか」


 恐怖からか、逃げることも出来ず、5匹で固まって震え鳴いている獲物をキッチリ射殺し、無造作につかんで亜空間ボックスへと放り込んだ。


「フンフンフーン♬」


 自然と鼻唄が出る。

 狩りを初めて2時間で5匹も拾えるなんて幸先が良い。


 私はそのまま上り調子で狩りを続けた。




「勝負は私の勝ちだな」

「そんな……なんてこと!?」


 日没となり、ベースキャンプへ戻った私たちは猟果を比べる。


 私はあのあと成体を2匹狩って合計7匹。

 リアは成体が5匹。


 つまり私の勝ちである。


「数じゃなくて重さで勝負しておくんだったわ!」

「はっはっは。ルールはルールだ」

「く~や~し~い~!!」


 地団駄を踏んで悔しがるリアにむかって、私は幼体を1匹放り投げる。


「ほら。おすそ分けだ。幼体は成体より臭みは少ないし、肉も柔らかい。美味いぞ」

「ううぅぅぅ。……ありがと」


 ここで意地を張らないのが、リアのカワイイところだ。

 私は少しだけ勇気を出してみることにした。


「あー、その、なんだ。良かったら一緒にメシ、食わないか?」

「え?」

「それ。さばいて……やるよ。ついで、だからさ」


 返事を待っている私の顔は、きっと真っ赤になっていたと思う。


「じゃあ、お願いしちゃおっかな」


 リアはそう言ってニッコリ笑った。

 私もホッとして笑顔がこぼれた。



 🌌  🌌  🌌  🌌  🌌



「春樹! 春樹! どこにいるの!?」


 日が沈み、地球外生命体と呼ばれるバケモノがいなくなった市街地。

 逃げる途中で息子とはぐれてしまった母親の悲痛な声がこだまする。


「紗理奈ー! 紗理奈ちゃーん! お願いだから返事をしてーー!!」

「誰か! 誰か、うちの彩を見ませんでしたか!?」


 同じく子どもを探している親が数人。

 伴侶や両親を探している人もいる。


 毎年、秋になるとヤツラはやってくる。

 自衛隊も歯が立たず、人々はシェルターに逃げ込むことしか出来ない。


 しかし夜になればいなくなるし、春、夏、冬は至って平和。

 行方不明者の数も自然災害に比べれば大したことはない。


 襲撃される場所もまちまちで、自分達の住む国・地域が襲われる確率はそれほど高くない。



 人類はすでに、ヤツラの襲来を自然災害と同列に考え始めている。




      【了】



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2022/9/15 連載開始


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