第17話

 俺達はまだ食堂に居る。魔法を覚えたいチームと一緒に魔石を握り、指の先に火を灯す練習をしているところだ。


 魔石は今日20個取ってきているので使いたい放題である。ただ、俺のように魔法に目覚めると魔石は必要なくなるのかな?まだ良く分かっていない。


 本当だったら魔法1回撃って能力調べてってやりたいところだけど調べるにはダンジョンギルドまで行かないとならない。


 まずは皆んなでローソクを見つめて火のイメージを強めておく。そして指先にローソクの火と同じ大きさの火をイメージさせる。


 ここで大事なのは力まない事だ。多分室内で力んだら普通に火事になるだろう。だからリラックスして小さな火を意識する。


 始めて10分位たった頃、ポムの指に少し大き目の火が出た。


「やったやった!出来たですよユータ君!」


「あぁ、流石だぜポム!何か力が湧き上がる感覚はあったか?」


「それは無いのです…魔法使いはなれそうも無いのです…」


「イヤイヤ、こんなの生活魔法レベルだろ?魔法使いはやはり爆発系だろ?!まずはそれをやってみてからだな」


「分かったですよ、やって見るですよ!」


「イヤイヤ、ここじゃヤバイだろう?家が吹き飛んじゃうぜ?それよりももっと火を安定させるのが先だな。何なら指五本全てに灯すとか」


「なるほどなのです。やってみるです」


 そうこう話していると、今度はミアの指に火が灯った。絶妙な大きさで、見事としか言いようがない大きさだ。


「やったよユータ!見てよこれ!火が着いているよ!」


「あぁ、流石に毎日家事をしているだけはあるな。火は見慣れているのだろう?」


「そうかもね!とてもイメージしやすいかもね」


 やはりミアも力が湧き上がる感覚はなかったようだ。


 残りはエルフチームだ。イメージでは1番魔法を使えそうな種族なのだけどな。これは偏見なのかもしれないのか?


 それから一時間位経ったがラミソラは魔法を発動することは出来なかった。やはり呪文が有ったほうがイメージしやすいのかなぁ?でも火よ点け〜でイメージ出来るよね?それとも魔法には属性があるから、エルフは火が不得意なのか?


 エルフは風のイメージが有るんだけど、風ってどうやってイメージするのが良いのか?家が飛ばされてしまったら元も子もないよな!まあ明日のダンジョンででもやってみてもらおう。


「今日はここまでにしようか。ラミソラはひょっとしたら火より風の方が良いのかも?明日のダンジョンで色々とチャレンジしてみようぜ?」


「風か…何だか出来そうな気がしてきたぞ?これは種族適正なのか?」


「ウチもだよ?何だか出来る気しかしないよ?流石ユータ、何でもわかってるんだね?」


「いや…何でもではないけど…何となくそうかなって。それよりもポムとミアの使った魔石、見せてくれる?」


「良いけど?何かあった?」


 そう言って魔石を渡してきたミアから受け取って調べてみる。すると残魔力量なるものが表示されている。


「お〜!そうなるのか〜!なるほどね〜!」


「ユータ君、それは気になるのですよ?ちゃんと言うのですよ」


「あぁ悪い悪い。ポムとミアの使った魔石は魔力量が減っているんだよ。俺が使ったときは変化なかったから、ポムとミアはまだ魔法使いには成れていないと思う」


「そうなのね…残念だわ。確かに魔法使いになると自分の魔力を使って魔法を発動するって聞いたことあるし」


 そんな結果ではあったが、皆んなやる気に満ちていることは見てわかる。俺は部屋へ戻る前にトイレへ行こうと席を立ったとき、ボスが部屋に入ってきた。


「裕太、ちょっと来てくれ!お前にお客だ。普通の客じゃないんでな。俺には断るにも判断出来なかったから、お前も1回顔を出してみてくれ」


「マジで?えー心の準備が出来てないぜ…マジかー。ついに来ちまったかこの日が…てっきり売られないものかと思っていたのになー」


「ほんとスマネーな…お前のことは売らないと決めていたんだけどな…まあなんせ1回来てくれ」


 ここまで言うなら顔だけは出さないとなぁ…何か理由が有るのだろうし。ボスもだいぶ取り乱しているようだし、何かあるんだろうな…嫌だなぁ…。


 ボスと一緒に応接室に入ると、そこには今迄見たことも無いほど美しい髪の女性が、目元に仮面を装着してそこから伸びた棒を握って座っていた。どっからどう見てもの貴族のご令嬢だ!


 口元だけを見ると、多分同い年くらいで、髪はしっかり手入れをされていて頬の両側で巻いている。ツインドリルだ!ピンクのドレスを着ていて、白い手袋をしていやがる。首にはお高そうなネックレスをしていて、指輪もどう見ても高そうな物を何個か着けている。


「初めまして、こちらの素性は詮索しないでくださいね?ダブルのお兄さん?」


「!!…なぜ?」


 ボスの方を見ると首を横に振っている。


「ワタクシ、そういうアイテムを所持しておりますのよ?当然認識阻害のアイテムもね?サバイバーなんて聞いたこともないジョブと、魔法使いのダブルジョブだなんて、とても興味が湧きましてよ?貴方を買い取って我が家の奴隷として保護してあげるは?お幾らかしら?金貨300枚?それとも400枚かしら?」


 俺はよく分からずにボスに助けを求める。


「あーっと、その…なんだ…お嬢様。そいつはですね、ちと訳アリで御座いましてね…アハハハ、お売り出来ないんでさー」


「訳アリなのは大した問題では御座いませんわ。帝国奴隷法に基づき、返済金の1/3を現所有者に支払えば権利の譲渡が出来るはずですが?」


 そんな法律が有ったのか…当然俺は知らないけど。要は俺の場合、返済金が10億だから、約3億3千3百万払えば、ボスが変わるってことか。今のボスには元々何時返済満了するかわからない負債を、すぐに現金化出来、新たなボスは後々1億7千万儲かるってことだよな。5億は帝国に収める分だからな…


 ちなみに奴隷を一晩買うには、返済額を10年3600で割った金額が基準となる。俺の場合は、大体一晩、金貨で28枚となる。ラミで銀貨34枚位だ。1時間で買うには、更に1/10になる。それなので娼婦で客取りだけで返済している娘達は、毎晩買われても10年掛かる事になる。そして全ての奴隷は10年経てば下級市民となれる。


 そう考えると、昼間も別の仕事をしないと長くなってしまう。逆に長くなっても良いと思っている娘も実際は居るらしい。飯と寝床が有るからね。当然俺は10年も待つ気はない!


「そりゃあ当然理解してますぜ。ただ、何と言いますか…そもそもこいつは俺のお気に入りでしてね…」


「そんな貴方の私情でワタクシに売らないとでも?分かりました!それでは返済額の4割を支払いますわ?それで如何かしら?金貨500枚位で足りるかしら?」


「売る気は無いんですが…実はですね…そもそもそんな金額じゃ全然足りないんでさー」


「あらそう?じゃあ金貨で1000枚なら良いですか?破格ですよ?これ以上は欲張りと後ろ指を差されてしまいますよ?」


「はぁ…まぁこればっかりは不正は出来無いもんでね…?コイツのチョーカーを調べれば金額は分かるんで…幾らかはお教え出来ないんですが、全く足りてませんので…お帰り下さい」


「ちょっと!金貨で1000枚で全然足りないですって?嘘おっしゃい!!無礼罪で捕えてもらいましょうか?」


「何と言われましても…こいつの全てを他言無用の制約をして頂けるなら、こいつの返済額をお教えすることは出来るんですが…」


「面白い!制約致しましょう!その代わり、1000枚前後500枚以内の返済額でしたら侮辱罪で捕えてもらいますからね?」


「それは構いませんよ。それではこちらの紙に両人差し指で拇印を。制約を破ると両指がくっつき、顔に制約紋が現れますからね?これは例え皇帝であっても変わりません。そして裕太の返済額が500〜1500枚の間だったら私は捕らわれる。それで良いですね?」


「えぇそれで構いません!捺印も押しましたわ?この方の返済額はお幾らなのかしら?」


「えぇ、この奴隷、裕太の返済額は10億ガルドとなっております」


「……………」


「……10億ガルドですよ?聞こえてますか?」


「…………は?」


「4割だと、4億ガルドとなります。お気持ちはお察し致します」


「アハハハ、そうだ!ワタクシ用事を思い出しましたわ?お暇させて頂きますわね?オホホホ」


 令嬢は大慌てで娼館を飛び出して帰っていった。


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