第4話

「ボス、帰ったぞ!あー疲れた!井戸で身体洗ってくらー!皆行こうぜ!」


「おう。ご苦労さん!オメェら全員、身体洗ったら入り口の前に並んでおけよ?今日も買ってもらえるように努力するんだぞ?」


「わかってるって!だから身体洗って小綺麗にするんだろうがよ!『誰か、ワタクシを買ってください!』ってか?ギャッハッハ」


 なんか奴隷数人がかなり盛り上がって、ボス?と楽しそうに会話してるようだ。


「フィンとラミ!オメェらの部屋に新入りが入ったから仲良くしろよ?虐めたら承知しねーぞ?」


「お?価値いくらの奴隷?身体洗ったら先に顔でも見に行ってみるかな」


「フィン、今日はそっとしておいてやれ!どうやら精神的に疲れちまってる様だしな。明日の朝飯の時にでも挨拶させるからよ」


「そっか、わかったよボス。明日を楽しみにしておくわ」


 どうやら奴隷仲間が帰って来たようだ。話してる感じだと、俺の奴隷のイメージとはかなりかけ離れてる気がするんだけどな。


 俺のイメージだとムチをもったご主人様に叩かれながら死物狂いで働いて、飯は腐った残飯を感謝しながら床に座って食べて、夜は鎖につながれて冷たい床で寝るのが俺の奴隷のイメージなんだけど…なんか多少は自由にさせてもらってる様だな。


 部屋はタコ部屋だけどベットはあるし、カーテンで個人の空間は確保出来るし、飯はボソボソだけど硬めのパンと干し肉を食わせてもらってるって、奴隷の扱いとしては普通じゃないよな?ひもじい思いはしなくてすんでるな…。こう考えると確かに保護された様に感じてしまう…。


 それでもこれから店の前に並んで買ってもらえるように努力するって言ってたから、買い手が付いたら売られるんだろうな…。


 ん?待てよ?そういえば買われるって、1時間からどうのこうの言ってたきがしたな…それってやっぱりアレの事だよな?娼婦ならぬ娼夫?男娼みたいなことをさせられるって事だよな?怖えーんだけど…。


 一度気になってしまうと頭の中は、男娼の事で一杯になる。なんせ俺は女性とすらソッチの事はまだ経験が無い…。なのにいきなり買うんじゃなくて買われてしまったとしたら…。やべぇなこれは…。


 まだ女性に買われたのなら諦めて逆に頑張っちゃうかもしれないが、客は女性だけとは限らないよな…。うん!無理!


「マジかー!それは無理だわー!男は無理だわー!お尻はあげられないわー!いくら積まれようと無理だわー!」


 一人でベットの上で絶望に打ちひしがれていると、また入り口の方から声が聞こえて来た。


「ダンジョン産のボアの肉だよー!100グラムで銅貨10枚だよー!地上産とは旨味がちがうよー!買った買った!急がないとすぐに無くなっちゃうよ!売り切れ御免だよー」


「1キロ頂戴な!」「こっちは500グラムくれ!」「フィン!こっちはも1キロな!」

 その後もあっちこっちから声が上がっているようだ。


「ふー今のを持ちまして今日は売り切れだ!また明日も買いに来てくれよな!」


 するとボスと呼ばれてる奴隷商の声で、


「おう、ご苦労さん!全部売れたようだな?銀貨150枚か。5人で一人銀貨30枚ならそこそこだな。皮でも稼いだんだから良い稼ぎだな!それじゃあ夕飯にしな!」


「了解ボス!それじゃー飯食って部屋に戻ってるから」


「おう!客が来たら呼ぶからな」


「「「「「あいよ」」」」」


 どうやらダンジョン?で取ってきた肉を捌いて売っていただけだったようだ。その稼いだお金も返済金に当てられているような感じだな。


 そして最後にやはり客が来たらナンタラって言ってたぞ…。ここは商館ではなくて娼館なのか…。


 それにメイドのミアも夜の客取りって言ってたからな…やはり人買いが来るのか!そこまでして稼がなければならないのか!俺は頭から布団を被り、ブツブツ考え込み、ブルブル震えている。


「あー食った食った!……あ、やべぇ。静かにしてやらないといけないんだっけ?」


「いや、静かにしろとは言われていないよ?ただフィンは何時も普通にうるさいよ?」


「そりゃぁねーだろラミ!お前が喋らないからコッチが喋ってやってるんだろ?だから感謝しろよ?」


「…ウザ絡み?…死ねばいいのにね?」


「ヒドイ!…って、おい、新入り!お前さっきからブツブツうるせーぞ!気が散ってしょうがねーわ」


 と言って俺との間のカーテンを勢い良く開けられた。


「ひぃ!」


「ひぃ!じゃねーだろ?さっきからブツブツ呪文でも唱えているのか?ギャッハッハ!取り敢えず……顔を見せろ!」


 と言って俺が被ってた布団を剥ぎ取られた。そしてフィンと呼ばれている……


「女?!猫?」


「あん?なんか文句あんのか?猫じゃねーぞ!猫人族だ!テメー顔が良いからって調子に乗るんじゃねーぞ?腕っぷしなら負けねーからな?」


「止めなよフィン?ボスに怒られちゃうかもよ?」


「また女!!」


 多分俺より少し年下っぽい女のコが二人だった。そして一人は猫顔?猫っぽい人?猫っぽい耳が付いた人?肘下と膝下が丸々猫の毛で覆われていて尻尾も生えている。


「…………」


「あぁごめん…変な意味じゃないんだ…話し方を聞いていたら、てっきり男だと思っていたのに、凄くカワイイからビックリしちゃって…」


「か、か、カワイイってなんだよ!からかうなよ!殺すぞ!」


「いや…フィンは普通にカワイイよ?ウチはずっと思ってたよ?」


「ラミまで!ふざけんなよ!それ以上言ったらたとえラミでもぶっ飛ばすからな?」


「あのー?ラミはカワイイと言うより極上の美人さんだね!その金髪ストレートロングがとても綺麗だし!とても人間には見えないくらいだ」


「…………死ね」


 と言って今度はラミが顔を真っ赤にして布団を被ってしまった。


「おい、お前!何様なんだよ!タラシにも程があるだろうが!ヤリチンか、この野郎!」


「……いや俺…いだし…ボソボソ」


「あ?なんて?」


「いや!俺は童貞だーー!!ハァハァ」


 俺の雄叫びのせいで部屋は静寂に包まれる。


 すると部屋にボスが入ってきて俺を一瞥してから


「裕太、元気になったじゃねーか!家中に大声で童貞宣言するとは大したもんだな!顔合わせは明日にしようと思ってたけど平気そうだな?元気ならさっきの話の続きをこれからするか?」


「…元気ではねーけど確かになんだか落ち着いては来たかな?今なら冷静に話しはきけそうだ」


「そうか。それじゃあさっきの応接室に来い。フィンとラミもついでに来い。後で説明するのも面倒くさいからな」


「「あいよ」」


 フィンを先頭に応接室に入るとボスはすでにソファーに座っていて、向かいに座るように手で指示される。何故かフィンとラミはボスの両隣に座って、腕を組んでこっちを睨んでいる。フィンはソファーの上でアグラをかいているからパンツが丸見えだ……。


「なぜこっちに……まあいいか。取り敢えずコイツは裕太だ。そして裕太、こっちがフィンとラミだ!この二人はまだここに来て日が浅いから仲良くしろよ」


 と、ボスが俺等を簡単に紹介をしてくれた。


「それじゃあさっきの続きだな。何処まで話したんだっけ?」


「契約者の義務?みたいなことを聞いたところだった」


「ああ、そうか。そしたら今後の裕太の仕事について話さねーとな。まずはレベルを5に上げる事が最優先だ!レベルが5に上がるとジョブとスキルが付くんだ。これは全世界共通だ。そしてジョブによって稼ぎ方も変わってくる」


「ちょっとまって!レベル5に上げるって…今いくつなの?」


 またそれか…面倒くさいな…


「フィンはちょっと黙ってろ!それとコイツはレベル…あれ?3だな」


「はぁぁ?レベル3??意味分からねーな…何もんだ?ただの童貞野郎じゃ無さそうだな!」


「フィン!ちょっと黙ってろ!話が進まねーだろ?」


「あースンマセン…ただ童貞野郎なら、女抱いただけでもレベル10位にはなっちまうんじゃないか?何ならアタイでも抱いてみるか?銀貨15枚でいいぞ?」


「フィン!……でもそれもありかもしれねーな…裕太にはさっきレベルの概念は説明したよな?魂の成長だから、色々と初めての経験をすると魂が成長する事は普通にある!後は敵を倒したり、ミッションをクリアーしたりしても魂は成長していく。だからさっきまでレベル1だったのに、落ち込みから立ち直ったお陰で魂が成長してレベル3に上がったんだろうよ」


「レベルが低いとちょっとした事ですぐ上がるからな!アタイなんて足の小指を机にぶつけて、もがきながらも立ち上がったらレベルが1つ上がった事あるからな!ギャッハッハ」


「……フィン…お前、マジで黙れ!」

 



 




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