第3話

 どうやら俺はマジで奴隷にされてしまった様だ。


 首に着けたチョーカーが奴隷の証みたいなもので、解放されるまで外せないらしい。


「いやいやいやいや!そもそもなんで俺は奴隷にされてるんだって所から理解できてねーんだわ!」


「あ゛?そんなん解りきった事だろうが!帝国民じゃねー奴が帝国領をうろついていりゃー奴隷として保護するのは当たり前じゃねーかよ!」


 やっぱりまた保護って言いやがった。ニアンスの違いではなくて俺は本当に奴隷になって保護されたって事か?…どういうことだ?


「オメェは言葉も喋れねーは聞き取れねーは、ほっておいたらすぐに死んじまうじゃねえか。右も左も分からねー土地で一人で生きていけねーだろ?飯はどうする?寝床は?生活費はねーだろ?だから返済金を満額稼ぐまで奴隷として保護されたんだろうが!感謝しろよ馬鹿野郎!」


「それを保護というのか?体よく金を稼ぐ道具にされただけだろ?……そりゃあ確かにあのまま放置されてたら俺はまともには生きては行けなかったかもしれないが…それでもいきなり返済額が白金貨1枚と金貨50枚って言うのは何なんだ?意味が分からねーよ」


「それも知らねーのかよ…まぁ良い、そもそも奴隷契約しないとそのチョーカーが起動しねー。オメェの意見が聞けないと今後の話が進まねー!そしてこのソルドニア帝国には奴隷法って言うのが定められててな、奴隷は価値の10倍を稼ぐか、奴隷として10年ご主人に奉仕すると低級市民として開放される事になっているんだわ。低級市民になっても稼ぎ方が分かってれば生きていけるだろ?」


「そして稼ぎ終わるまでは契約者が寝床と飯を朝晩2食用意する事になっている。服と稼ぐ道具、イヤリングとチョーカーは借金になるがな!」


「それと稼ぐ手段は色々あるが、戦争に行くのが一番早く稼げる。ただし死ぬこともあるがな!ガッハッハ」


「いや…笑えねーだろ…」


「いや、笑えるだろ!なんせ死ねば開放、敵を殺しまくっても開放、敵を生け捕りに出来ればお前の額なら3人捕らえれば速攻で開放だわ。なんせ戦争捕虜は高く売れるからな!ガッハッハ!ただ今のオメェがそのまま行ったら秒で殺されるだろうな!」


「それだよ!さっきから俺のレベルが1だとか、弱いとか、雑魚だとか、ジョブがなんだって言ってるけど何のことなんだ?」


「おいおいおいおい!何なんだお前は?今まで何処で暮らしてきたんだよ?…ってまぁ16才にもなってレベル1な時点でお察しか?いいか小僧?俺らみたいな商人は鑑定スキルを持っている奴が多い。商人だから鑑定が出来るわけじゃなく、鑑定が出来るから商人をやってるんだ」


「その鑑定で出た結果がお前のレベルが1という事だ。レベルっていうのはお前が今まで生きて来て、何かを経験するたびにオメェの魂が成長した結果が数字として現れるんだ。だから16才でレベル1って言うのは有り得ねーんだよ」


「だから俺は違う世界から転移してきたって言ってるだろ!元の世界に戻りてーんだよ!」


「オメェこそわけ分からねーこと言ってんじゃねーぞ!何にしても金貨で150枚稼ぐまではどこにも行けねーなからな?忘れるなよ?」


「何なんだよ…意味が分からねーよ…帰らせてくれよ…ウゥゥゥ」


 だんだん現状が理解できてきた事で、マジで俺は帰れないのかもしれないと実感が湧いてきて、周りを気にせずにガン泣きした。


「ったく…泣くんじゃねーよ…良いか裕太。この帝国は奴隷にはかなり寛容だ。自分から奴隷に落ちるやつだって居るくらいだ。なんせ高い金払って買った奴隷がすぐ死んじまったら大損だから滅多な事を押し付けたりはしねーぞ。お前がこれから稼ぐ金貨で150枚はオメェの契約者、つまりは俺が半分、国が半分受け取れる金額だからな?飯と寝床を用意すればそれ以上の金貨が入って来るんだからそりゃあ多少は大事にするだろうよ」


「そうだよ裕太。ウチの村長はお前を助けるためにここの娼館に連れて行くように言ったんだからな?ここで頑張って生きて行くんだぞ!」


「………」


「まぁ続きは明日にして今日の所は飯食って寝ちまいな。部屋は相部屋だけど多少は一人になれるだろうよ」


「それじゃあ俺は村に帰るわ。裕太、元気でやれよ」


 俺の肩をポンポンと叩いてくるイアンに、俺は何も言わずに頭だけ下げて奴隷商と一緒に部屋を出ていく。


「ここがキッチンで、あそこにパンと干し肉があるから1つづつ食え。本来は俺が食った後に食わせるんだけど今日はしょうがねーから今取ってこい。そんで自分の部屋で一人で食っておけ」


 俺は言われた通りにパンに干し肉を乗せて戻る。


「オメェの部屋はここだ。右側のベットが空いてるからそこがこれからオメェのスペースだからな。綺麗に使えよ?それと便所は部屋を出てそこの先にあるから綺麗に使えよ?便所が建物内にあるだけ有り難いと思えよ?ガッハッハ」


「………」


「まぁ良い。もう少ししたら他の奴らも帰って来るから仲良くするんだぞ。後、くれぐれも逃げようとはするなよ?契約者の許可無くある程度離れるとチョーカーから電気が流れるからな。それでも戻らないといずれ死ぬから気をつけろよ!まぁ細いことは明日だ!今日はゆっくり休め!特例だぞ?ガッハッハ」


 そう言って奴隷商は部屋から出ていった。


 俺は部屋を一通り見回す。部屋は日本で言う四畳半くらいで、そこに縦にべットが3つ並んでいる。それぞれのベットの間には天井からカーテンが垂れ下がっていて、仕切られている。


 俺は無言でベットの脇に鞄を下ろしベットの上でパンにかぶり付く。落ち込んでいても腹は減るんだな…。普通は何も喉を通らないところなのかな?俺はかなり腹が減っています。


 飯を食いながらもう一回今の現状を整理しよう。


「まずはサバイバル生活三日目の夜に降り始めた雷鳴轟く大雨だよな。あの時確実に雷が周りに落ちていたのは間違いないと思う……ん?もしや俺ってあっちの世界で死んだのか?電気って確か水を伝いやすいって聞いたことがある…そういう事か?いや…死んだのなら転移じゃなくて転生するはずだろ…それが王道だろう…となると…」


 ボソボソのパンのため口の中の水分が全部持っていかれる。そういえば飲み物を持ってくるのを忘れたのでまたキッチンに戻る事にする。


 さっきは誰も居なかったキッチンに入ると今は誰かが料理を作っているところだった。


「あら、新入り?男の子なんてここでは珍しいね。アタシはミア。ヨロシク。アタシの仕事は家事全般と夜の客取りね。大したジョブ付かなかったからね。こればっかりはしょうがないけどね。アンタは?」


 多分20才位の背の低い、顔の整ったミアと言う女性が挨拶をしてくれている。


「初めまして。裕太…いやユータです。年は16です。さっきここに買われたばかりです。取り敢えず今日は飯食って寝ろと言われてます。レベルは1らしいです。ジョブが何なのかすら分かっていません!よろしくお願いします!」


「は?レベル1?意味わかんない…ボスにそう言われたの?今までどうやって生活してたの?」


「いや…それが…説明しても分からないと思うんで…それよりも飲み物を取りに来たんですけどどうすれば良いんですかね?」


「ああ、詮索しちゃってごめん。水なら外に井戸があるから普通はそこで汲むんだけど今日は特別みたいだからそこの水差しのを飲んでいいよ。まぁ色々と聞きたい事があるけど今日のところはボスに言われた通りに早く寝ちゃいなね」


 なんか姐さん気質なのかサバサバしたミアと会話をしたことでホンの少しだが気持ちが晴れたかも。それとも大泣きしたのが良かったのか?ただ単に綺麗な女性と話したからだけかもしれないけど…。部屋に戻る前に、トイレに寄って用を足そうと便器を覗くと、何かが下で蠢いているのが見える。


「っ!!何か居る!!!っん?何かツルツルポヨンポヨンしてる?あれってスライム?」


 さすが異世界!浄化はスライムなんですってさ!


 俺はあてがわれたベットへ戻り、さっきの現状把握の続きを頭の中で考えようとしたのだが、入り口のほうが賑やかになってきたことに気づき耳を澄ませる。

 


 









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