第46話『呪いの勇者は、女神の依頼を引き受ける』


 「神様にも、寿命とやらがあるんですね」


 「勿論ですよ。ですが、基本的には寿命が尽きるなんてことはありません。あるのですよ、神を殺す方法がね?」


 「ーー、神を殺す方法……ですか」


 死ぬことは無いと言いつつも、唯一、神を殺す事が出来る方法とやらが今回の問題になっていた。神という存在は、人々から崇められ、初めて存在を維持出来るらしい。


 盾の女神アテネは、人を愛し、人を護りたい思いで、この世界が造られた時から、人間の為に尽くしてくれていた存在だ。


 昔は信者が大勢いたというが、今では崇める者も少ないらしい。それでも、彼女は見返りは求めない。何度も人間の為に、手助けをして、一切の信者を増やす行為をしなかった。


 そんな、女神を殺す方法とは何なんだろうな。俺やマリエルでは考えつかないので、アテネが口を開くのを待っていた。


 「簡単なことですよ。私は、この世界で要らない神になってしまったんです。長年、崇めて貰えなかった神様は、どのみち死ぬのです。神を殺す方法、それは、『存在を忘れ去られてしまう事』なんですから」


 「人が好きで、人の為に生きてきた女神様は、人に殺されるのかよ。皮肉な話しだな……」


 「そうでもありませんよ。それが、神においての掟ですからね。今更、信者を募ったところで、どうせ集まらないですし、寿命も伸びることはありません。だから、私は残りの余生で恋をしたいんです」


 人間なんかのどこに魅了されたんだろうな。裏切りや、悪にだって、簡単に染まるのにな。でも、それを理解している上でこの女神は、人間をすべからず愛している。


 彼女の結末が、こんな寂しい終わり方で良いはずなんてねぇだろ。盾の女神アテネが、人間に恋をしてよかったと思う結末を、俺は一緒に望んでやりたいと思うのです。


 「盾の女神アテネ様、俺達が貴女の願いを必ず叶えてみせますよ。マリエルも賛成するだろ?」


 「勿論ですよ。女神様の恋は、私達が絶対に叶えてみせます!」


 「やはり、私の眼に狂いはありませんでしたね。この世界の救世主、勇者カケル様、私の願いを聞いてくれてありがとう」


 厄介過ぎる依頼を受けてしまったよ。どうすんだ俺、女神が好む人間なんて知らねぇんだけど。今更ながら、怖気づいてしまっている自分が恥ずかしい。


 でも、やるしかねぇよな。こんな、神様の鏡みたいなもん見たことねぇよ。生きていてよかったと、思えるような最後にしてやりたい。


 早速、依頼を受けたことで、暫く頭の中で相応しい男を探してみたんだけど……。


 ーーあれ? ろくな男がいないんですが!?


 参ったな、鍛冶屋のバルジしか思い浮かばなかった。ごめんな、流石にジジイじゃダメだろう。頭がハチ切れそうなぐらい、痛くなって来やがった。いきなり、詰んでしまったぞ。俺は、どうしたらいいんだ!


 思った以上に、この件は難しそうだ。八方塞がりだが、この先、不安で仕方ないです。

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