第35話

恐れながら俺はこの主を弟のように思っている。大事だし傷ついてほしくないし、病で苦しんでほしくない。


あの日。エルロッドウェイで俺の目を盗んでエルンが消えた時、必死で探し回る俺は座り込むエルンを見て息が止まりそうだった。


発作だととっさに思ったがエルンには効く薬がない。


でも、その隣にしゃがみ込むもっともっと小さな背中を見た時に。


その小さな紅葉のような手が、小さな手がエルンの背中を擦っているのを見た時に。


何故か声をかけるのをためらい。


そして、何故かホッとしたのを覚えている。






小さなその子が何かを取り出しエルンの口の中にまた何かを押し込んだときは声が出そうになったがゆっくりと呼吸が楽になるエルンを見て吃驚した。


何故呼吸が楽になっていったのかわからず、エルンを回収した後にエルロッドウェイの皇に聞いたのは


娘が与えたのは自分が飲んでいる咳止めの薬だろうこと。


そしてそれは副作用の少ないブラシーボのようなものであること。


親である皇や皇妃が渡すことにより、効いているようなものだということ。


身体に害はないが効能はほぼ無いため効くことはないはずだということ。






呼吸が楽になったように思うと伝えると。


考え込むように黙り込んだ皇は、少しだけ寂しそうな顔をして。


「それではわたしの娘はエルンハルト王子の生命線となりえましょう。ああ。まだはっきりとはしませんがお助けすることが出来るならわたしではなく娘ということでございましょう。」


とあの時笑った。






きっと。






神託のことは生まれた時にもう知っていたのだろう。彼の国では17歳で神託が下るが瞳の色が銀の皇女殿下が生まれたときには生まれた時にもう分かるのだというということを漏れ聞いた。


だからルーはこの国にエルンをよこしたのだろう。


もうきっとルーは諦めていた。諦めているのは自分の寿命だけで神託の相手は自分に現れないことを知っているから。


でも、それでも諦めないエルンのために付き合っていること。


エルンのために生きていること。




そしてそれを知られないようにしていること。








俺がそれを問い詰めた時に笑ってやつは言った。




「弟を助けたい。だからレオも助けてよ。俺じゃなくエルンを。


俺がいなくなってしまったらあの子は一人になる。たった一人に。だから側にいてあげて欲しい。


親に愛されず、俺しか肉親の愛情を知らない。でも俺ももうそんなに長くは側にいられない。


だから・・・頼むよレオ。エルンのそばにいてくれ。


あの子は可愛いだろう?俺よりもずっと美しくこれから沢山の人を惹きつけるだろう。そしてそれは彼にとってはとても辛いことかもしれない。」






自らも美貌の国王陛下であるルーは自分の容姿にあまり執着がない。そしてそれはエルン自身もそうなんだけれども周りはそうではない。


男なのにと笑うルーはとても繊細で美しい男だった。


その見た目で穏やかな美貌の国王陛下だと思われていたが性格はエルンよりもずっと苛烈だった。


そして、更にエルンはそのルーよりも美しくそして優しい。


そうその美貌で国が傾くほどに。彼を手に入れたいと願う女性は後をたたないだろう。


そしていずれ必ず国王陛下にもなるのだ。


女性であれば傾国の美女とよばれるだろうが彼は国王陛下になるし権力も同時に手にする。


どのような手を使っても手に入れたいと思うものも後を絶たなかった上にエルンの女嫌いというか人間不信を助長することは増えていった。


命を狙われるよりも貞操を狙われる方が多かったのだから。


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