第25話

「陛下、恐れ多いことですわ。わたくしは礼を尽くしているだけですのに陛下まで膝をつかれてはなりませんわ。」


そう言いながら表面上だけでも少し困ったように微笑んでおく。


それを見上げた陛下はくすっと笑いすっと姿勢を正して立ち上がった。


「ああ、そうだな。許してくれ。この国には姫といった存在がいないのでどう扱っていいのかがわからずに申し訳ない。同じ皇籍であるというのに上下はないだろう?姫にはわたしに出来得る限りの礼を尽くしたいのだ。」


そういって礼をとき立ち上がったわたくしの右手は陛下に取られた。


そのまま両手で柔らかに握られたとおもったら。


え?と思っている間にそのまま手にキスを受ける。






周りからどよめきが起こりびっくりしてしまいました。


え?どういうことですの?これは普通の挨拶ですわよね?誰でも紳士ならされますわよね?


ん?でも陛下はそんな事はしなくてもよろしいのでは?


しかも私の手に唇を当てたまま私の瞳をじっと見ていらっしゃいます。わたくし取り繕っておりますが非常に恥ずかしい。泣きそうです。耳が熱いですー。わたくし耳が赤くなってないでしょうか?


これってあれですか?羞恥プレイでらっしゃいますか?イタズラ?


もはや陛下はイタズラが大好きだと?


アンヌがいっておりました。そうでしたわ!寂しがりやだと。


寂しかったのでしょうか?






怪訝な顔をして陛下の顔を見上げると、軽いリップ音を響かせキスを終わらせ、ニッコリとわらってわたくしの右手を開放してくださいました。






「ふむ、姫はわたしのキスなどには動じてくださらないのだな。」


そういって楽しそうに笑う陛下の笑顔につられてわたくしも思わず言ってしまいました。


「そんなお戯れを。ただのご挨拶のキスにいちいち反応するほどではございませんわ。陛下。」


わかってますよ、イタズラだったのですね。了解です!


そういった気持を盛り込みながら陛下のお顔を見上げます。


わたくしでさえ背は高いほうです。それでも見上げなければならないということはカインお兄様と同じくらいの背の高さでいらっしゃるのでしょうか?


体調が悪かったとおっしゃっていたのに美貌と体格には恵まれるなどと素晴らしい資質。


わたくしに触れた手も冷たくもなかったので体調自体は悪くないのだろうと判断します。


本当は手首に触れて脈を取りたいところですがここでは診察するわけにはいかないのはわかっております。皇女らしく微笑むままにしておきます。






ふふっと艷やかに笑う陛下の低い笑い声に少しだけ緊張した気になるのは何故でしょう?


お兄様方とはまた違う色気をまとってらっしゃる・・・。


こんな滴るような色気を垂れ流すなどとは陛下恐るべきですわね。わたくしにはこれ系の耐性が少し弱いのでそれでわたくしもあてられているのでしょうか?


少しだけ考え込みそうになる意識をふっとあの香りが邪魔をしました。


これはあの少しほろ苦いと聞いた柑橘の匂い?あと・・・これは?


どこから香るのかはちょっとはっきりしないほどかすかな香り。


これはわたくしがいろんな植物から希釈して香りを取り出し、化粧品やオイルを作っているからだとおもわれます。それくらいかすかに一瞬だけ。






そう思っていたのも一瞬だけだったのか、わたくしは後方にいたカインお兄様に緩やかに腰を取られ陛下から少しだけ距離を取らされました。


それに気がついた陛下も若干の苦笑いをなさっています。






「何も奪おうとしているのではないのだが。」


そう言ってくすっと笑ってカインお兄様に声をかける陛下の楽しそうな声の中には避難の声は混ざっておらずホッとしました。


「いえ、陛下そういった理由ではございません。我が妹は少しだけ今まで大事にしすぎてきておりましたのであまり夜会に出していないのでございます。」


「ああ・・・。そういった理由で。と?」


「はい。申し訳ありません。お気分を害されていないことを祈りつつ先に引いたことをお許しを。」


庇うようにたったお兄様はそう、お嬢様たちから視線を遮ってくださっております。助かります・・・なんとなくホッとしたわたくしの顔を見て陛下は微笑まれました。






そして素晴らしく良いお声バリトンボイスでほほえみ付きでおっしゃいます。


「良いのだ。わたしもやりすぎた。では姫、わたしは挨拶をしてこなければならない。それにわたしが踊らねば皆が踊り出せない。ファーストダンスをお願いしても?」


「・・・わかりました。」


「では、後ほど。」

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