第24話


「では、わたしも申し込もう。姫よ、わたしとも踊っていただけないか?」






低く澄んだ声がわたくしの耳に入ってきたのでふと振り向くとそこには国王陛下が!?




何故?




そう思って少し戸惑っているとフレディお兄様がわたくしの手を取りながらにこやかに声をあげられました。


わたくしはどちらを見ていいかわからないのでとりあえずフレディお兄様に取られた手をお兄様の腕にかけ直しました。








「ドゥーゼットの頂きたる陛下にご挨拶させていただきます。その言葉を嬉しく思います。


陛下が我が妹と踊っていただけるとは。」


「いや、本来ならばわたしの方から姫をエスコートしないといけないと解ってはいたのだが所要で少し抜けなければならなかったのでこのような時間に。


それで大事な妹御をわたしに預けていただけるのですか?」


その言葉を聞いてぴくっと兄様の腕が震えたのだけを感じたのだけどさすがはフレディお兄様。顔は全く変わらずにこやかな微笑みをたたえたまま。


お兄様がわたくしを溺愛していることは解っておりますがダンスまでは今まで他の誰にもゆるしたことがなかったのですわよね。






私はいつもお兄様たちかお父様。そしてロウ。そのあとはサラッと引っ込んでいましたしね。


ああそういえばわたくしが踊る兄達や父以外となると陛下が初めてになるんですねぇ。


わたくし、踊るのは苦手ではないのですが他の方と踊ったことがないのでどの程度自分が踊れるのか全く解っていませんが・・・。


あの母が教え込んだので多分及第点は取れております。少なくとも陛下に恥をかかせるほどではないと思われます。


よし大丈夫ですわ。


そう思って兄の腕をきゅっと握ると、お兄様は仕方なさそうに力をぬきました。


あくまでもお顔は全くにこやかなまま。これは家族だからわかることでなんともフレディお兄様の意図はわかりませんけれども政治的な駆け引きにでもなるのでしょうか?わたくしと踊ることは?






そうですわよね、お兄様は陛下と同じお歳でらっしゃるし、同じく(規模は違えど)国を率いていく王になられる方々だもの・・・。


色んな打算や計算や、もはやわたくしには理解できない色んなことが頭に渦巻いているでしょうとも。


それはカインお兄様も一緒のことだと思うんだけどもはやカインお兄様の方まで視線を投げかけるわけにはいきません。


国王陛下が目の前にいらっしゃるのですもの。






わたくしは皇女の仮面をきっちりとかぶり直し、フレディ兄様の腕から緩やかに手を解きました。


フレディお兄様が少しだけため息を付いたような気もしたけどそこは気にしない。


エルンハルト陛下が今望んでいるのはわたくしとのダンスということならばわたくしに断るという選択肢はないのですもの。






だいたいドゥーゼットの国王陛下ののぞみを断ることは出来ないし、だいたいわたくしこの方に望まれたことは断れないのだから。お兄様だって知ってらっしゃるくせに。


わたくしは最大級の礼を取るために深く膝をついた。一番公的な淑女の礼をとる。






「陛下、大変ありがたいお言葉。わたくしでよろしければダンスのパートナーを務めさせていただきたいと思います。」


「ああ、あなたが膝を折ることなどあってはならない。あなたはエルロッドウェイの唯一の皇女なのだから。」


そう言いながら陛下がわたくしの前に・・・。








ちょっとまってー!いやーーーー!!!やめてくださいませーーーーー!!!


陛下まで何故膝をついたー?!やめてくださいませー!!








ダラダラと冷や汗が背中を伝ってしまいそうになる。


あの・・・軽く息を呑む声や軽く悲鳴が聞こえたのですがそれはこの陛下のこの行動のためですか?わたくし命を狙われるフラグが立ってしまったというやつですか?


違いますー!わたくしなんの意図もございませんー。お願いです刺さないでくださいませ視線が痛い。


どうしたらよろしいですか?わたくしの斜め後ろからわたくしを射殺さんばかりの鋭い視線がビシビシとかんじられるのですけれども。


ああ、アンヌが言っていたお嬢様がいらっしゃるあたりからもう絶対零度的な冷たい風が吹いてきそうな気もしますー。わたくしそんなつもりはありませんのにー・・・。


でも顔に出すわけにはいきません。これでもわたくしエルロッドウェイの皇女なので。


それくらいの矜持はあります!






でもでもでもでも!!!


振り返りたい。振り返ってカインお兄様に頭をなでていただきたい。


フレディお兄様に抱きしめていただきたい。ロウにからかわれてもいいからそばにいて欲しい。


もう本当は逃げ出したいくらいです。


でも顔に出さずにこの場を乗り切らなければなりません。


お兄様たちもきっとそれを望んでくださいます。


レーヌはちゃんとできる子です!お兄様たちにも安心してレーヌは出来ると解って頂き、そして憂いなくエルロッドウェイに帰っていただかなくては。






くっと自分のお腹に力を入れました。頑張れ私の丹田!!

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