第20話

そう考えている間に近づいてくる美女が。


まあ、知っているひとだしロウがちょっとだけ緊張したのはわかったのですが、安心するように伝えるとアンヌも深く膝を折り私に挨拶をする。それを見てロウは警戒を解いた。


夜会仕様の変装ではあるけれど素顔でなくても美女とかどいう言ったことなんだろうか?じっと見上げるとにこやかに微笑まれた。


うーん、美人だわ。相変わらずお美しい・・・。






その表情にうっかりと見とれているとふふふと笑われた。そして耳打ちをされる。


「ナディアレーヌ様、あのお嬢様方にはお気をつけくださいませ。」


わたくしの兄達にたかって・・・もとい、取り巻いてらっしゃるお嬢様かたとの別グループのかたまりを艶やかな微笑みで一瞥してらっしゃいます。目が笑っておりませんわね?


「はい?どうしてわたくしがお嬢様方にもうなんかねらわれてますの?」


「あの方々はハイエナのごとく・・・失礼しました。まあ、情熱的に陛下を盲信しておりますので。ああ、ちなみにあちらのお嬢様もあちらもです。ああ、いすぎて面倒くさいですわね。お兄様方にむらがって・・・いえ、囲んでいない方々はほぼ似たようなものですわ。


そしてあの狸のような方もなんとか取り入りたい方で、その他大勢おりますがとりあえずはまあ。」


それにしても美しいのにアンヌはどう考えてもなかなかに辛辣のような気がしますわね。


サラと大変気が合う予感がします。ですがそれはそれ、これはこれですわね。一体全体どういった?


「はあ・・・陛下の・・・?」


「それはレーヌ様の身を案じなければならないということか?」


ロウがアンヌの手を取りその手の甲に口づける手前でささやく。


それを受けながらアンヌは笑い、表情とは全く違う怖いことを言い始める。


「絶対にあの方々はやらかします。こちらも手を打ちますが、そちらもお願いしますロウ様。」


「了解しました。マダムアンヌ。」




「わたくし名乗りまして?」




アンヌが笑顔で返す。


「まさかこんなお美しい方のお名前を知らないままだなんて申せませんので。こちらも前段階は踏んでおりますよ。貴方様方のことはそれなりには存じております。私の名はサラに?」


「まあ、それはそれは。ええ、サラ様は素晴らしいですわ。ぜひ我が同志になっていただきたいくらい優秀でらっしゃいますね。」


その言葉を聞いてロウが大げさに体を震わせて笑う。わざとらしい。




「まさか!うちの愚妹がそんなそんな。陛下のお側で仕事をこなすなんてとても出来ません。レーヌ様のお側にて色々不自由なく動くほうが良いかと。」


「まあ、それはそうですわね。優秀な人材は力や権力では手にはいりませんものね。」


「そうでしょうとも。力ではなくて信頼ではなくては。」


「わたくしはどうでしょうか?」


キラリとアンヌの眼が光った気がしましたが気のせいかと思われます。そんな怖いことはないでしょうと思いたいです。


対してロウの方もいい笑顔をしています。この笑顔は見知っています。






ああ、気に入ったのだろうけど好敵手だと決めた時の顔です。この顔を見せるということはアンヌやアンヌの背景は気に入ったということでよいのでしょうか?


「あなた様の主が私の主に害を与えないのならば大丈夫ですよ。」


あ、この言葉は本気ですね。笑顔が怖いのは内容のせいでしょう・・・ロウったら過保護です。


わたくしが軽くため息をつくと、ロウが自然に私の頭をなでてくれました。


「まあ、手厳しい。私の主様はナディアレーヌ様の一番の味方になりましてよ。」


「レーヌの兄達はなかなかに手強いですよ。私も含めて。」


「ふふっ。我が主はなかなかに不器用なのですがこれと決めるととても紳士で一直線ですの。ナディアレーヌ様はお幸せになりますわよ。」


そう言いながらそっとロウの手を叩き落とすあたりが怖いっちゃあこわいのですが。


無意識の行動を咎められて苦虫を噛み潰したような顔をしているロウを見上げるとニヤッと笑われた。


「ほほおう。そういったことでしたか。なるほどねぇ。そりゃあおもしろい。」


「でしょう?」






もはや何の話かわからなくなってきました。


ロウが急に砕けた雰囲気を見せたのでほっとしました。




何故かしら。美男美女が手の甲にキスを贈りそれを受けて麗しく挨拶しているのにも関わらず、刀でも突きつけあっているかのような時間もありましたがどうやら判定はそれぞれに済んだようですわね・・・ああこれ解りました。


おふたりともあれですね。


どうやら気に入ったのですね。仲間としては。ということにします。






キラキラした空気がちかづいてくるなぁ・・・とちょっとげんなりとしておりましたがそのとおりですわよね、兄達が近づいてきました。


どうやらわたくしたちの動きを逐一チェックしていたようにも思われます。


過保護オブ過保護の兄達ですがわたくしの安全のためだと思えば止めることも出来ないのでしょう。でもこんなにキラキラを撒き散らすのはどうかと思いますけども。


周りのお嬢様方の視線がわたくしを含めて刺さります。


えー、ただの兄妹ですよー・・・三人そろうと銀髪だらけでこちらの国では珍しいかもしれませんがちょっとほっといていただけると助かるんですけれども・・・。






「フレディお兄様、カインお兄様!こちらはこの国での私の侍女をしてくれるアンヌです。国王陛下が直々に仕えるようにと私につけてくださったとても優秀な方なのですわ。」


わたくしはアンヌを紹介することにしました。


フレディお兄様が他のお嬢様がいたら腰砕けになるくらいの蕩ける微笑みでアンヌに声をかけます。


「あなたのような方がレーヌを側で守ってくれるとは。よろしくおねがいしますね。」


その言葉にほほえみながら膝をつくアンヌはこれまたお美しい。


美男美女って挨拶するだけでも視界の暴力になるんですねぇ・・・。


「私達の妹は可愛いんだけど少しだけじゃじゃ馬なんだ。あなたが見守ってくれるなら安心できるね。」


これまたカインお兄様がニコリとほほえみながらのたまいます。


ああ、この微笑みで大概の女性がうっとりとうっかりと恋に落ちてしまうところなのですが。


アンヌのすごいところは全く変わらないところだと思います。


同じく淑女の礼を取り、ニッコリと微笑み返すあたり素晴らしいです。




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