第2話

ミルクティー色のきれいな髪は光を受ければ金色に輝くような美しさだ。


前髪は少し長めで目にかかりそうだけど反対に襟足はきちんと短く切られた髪。


貴族は髪を伸ばす人が多い。その中でも異色なほどに短い髪。




長い手足に平均的な令嬢の身長よりも少し高い私よりも頭一つ分高い背。


長い指、ほっそりしたきれいな手。きっと彼は剣は握らない。


その代わりに左手の中指に節くれたペンだこ。




ああ、この人は剣ではなく言葉で文字で全てで戦う人なんだろう。






恐ろしいほどに冴え冴えとする程に美しい顔。


薄い唇、血が通っているのかわからないほどに真っ白な肌。


そして・・・。


切れ長の美しいダスティーブルーの瞳。






でも私は知っている。


その瞳の色は本当は澄んだ銀であることを。






そしてその銀色の瞳を持つ人は天を統べる人だと言われていることを。








そしてこの人ももう知っている。


きっと知っている。






私の瞳も、同じく銀色であることを。








そしてそれを隠しているのが、我が国の秘匿される薬学の賜であることを。










ナディアレーヌ・エミィ・オーウェン。17歳。


今は紫がかった瞳を持つ、これが私の名前だ。






エルロッドウェイ皇国。


とても小さな小さな皇国が私の生まれた国。


私はその国のたった一人の皇女だ。


まあ、皇女が一人なだけで兄が二人いる。


一人は皇太子として、一人は皇籍を離れることが決まっており宰相補佐として


ゆくゆくは長兄の右腕となる宰相になることが決まっている。


父と母はここにはいない。皇国を守っている。


私はその代理であり、兄二人は私と医療技術をこの国に提供することを


共に確認に来ただけだ。






この大国のドゥーゼット王国に。








婚姻のためではない。


私は文字通りこの国に捧げるのだ。


私の知識、そして私をも。




我がエルロッドウェイ皇国は医療を生業とし、薬とともに生きる国だ。


人の命を救い、人の病を治し、心を癒やすことを生業とする。


それ故に王と王妃は国を出ることを禁じられている。


それは世界で認められていることであり、エルロッドウェイを独占しないがための


法でもある。






そう、私達自体がもはや医療そのものとされる。




そして皇族も貴族も民もいちばん大切な守るべきもののために命をかけることにためらわない。


それは生まれながらにして背負わされる重荷とも言える指名。






その中でも皇女役割がある。


すべての皇女がそうなわけではない。


その密命を帯びる皇女は体にある身体的特徴が現れるのだ。


そしてその特徴は代々伝わる使命を帯びて現れる。


そしてそのために、それを護るために皇女は生きて生かされ、守られている。






銀の瞳を持つものを護る。


そしてその皇女は同じ銀の瞳を持つ。




その瞳を持つものが産まれた時、同じように同じ色を持つ統べるものが現れる。


そのもののために皇女は共にあらねばならない。




同じように現れたその銀は皇女が17歳になるまでは秘匿される。


何をおいても国と世界に保護され、皇女に神託が下るまでは誰にも知られてはならず


そしてその銀を持つものは何らかの疾患を抱えている。


それを癒やすべく治すべく皇女は助力しなければならない。




ただその一命のみを伝えられ、それを行使するために生きていく。








その者が人でなしであろうと、どこぞの国の盗賊であろうと、はたまた


残虐な王であろうと、優しき宣教者であろうと。


我が国に現れる神託に伴い、その御方を護る。




そしてそれは皇女が17歳になった年に神託が下る。と。








そして私が17歳になって一月後。


神託が下った。






その日、それは護る人と同じような銀色の雲に覆われた、ブルー。


抜けるような青ではなく、私の気持ちを組んでくれたようなダスティブルー。




ドゥーゼットに赴くようにと。


その国そのものを護るようにと。


降って来たような神託。




まあ、文字通り我が国の聖堂に白い羽根とともに降ってくる。






まるで嘘のようだが事実である。










事、すなわち。








国王であるエルンハルトを護る。


それが私の使命である。と。




そして唯一神託とともに下される命がある。


まだあるのか?と思わないわけではないが更に密命にも似たものとも言う。






その人を得ようと望んではならない。


常に陰日向となり沿うようにその人の命を守る。


自分の命が尽きるときはその御方のためでなくてはならない。




しかしその相手が本当に自分を選んだのならば。


何をおいてもその相手の願いを叶えなければならない。


その相手が一緒に死んでくれと言ったら一緒に命を絶ち。


共に行きてくれと請われたら何があっても何をおいてもその願いを叶える。




自分からは望んではいけない。


相手ののぞみのみを叶えなければならない。




それが。








銀の瞳を持って生まれた我が国の皇女における一つの理。














私の矜持たる理なのだ。




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