第三章 ~『父への直談判★レン視点』~
~~『レン視点』~~
屋敷を後にしたレンは、タリー領へと戻っていた。牧歌的な田園が広がる領地は、魔術を見下す文化のせいで、技術的に発展が後れ、その日生きていくのにも苦労している者も多い。
(叔父さんが領主になったら変えると言っていたけど、本当にできるのかな……)
レンの父のランパートは、粗暴な態度と、領地経営の失敗を理由に追放された。これで領民たちが幸せになる。そう信じた未来は、彼の率いる盗賊たちによって踏みにじられた。
(きっと今も領民さんたちが苦しんでいるはずだ)
心の中で謝罪をしながら、田舎道を進む。すると畑で作業をしている農夫の姿が目に入る。
(無事な人たちもいたんだ……でもどうして……そうか、暴れるならお金が集まる街でやるもんね。だから田舎は安全なんだ)
盗賊たちの被害を受けていない者もいると知り、足取りが軽くなる。父を止めるための勇気が湧き上がって来た。
(きっと父さんはここにいるはずだ……)
田園風景の中にポツリと佇む粗末な家は、手入れされておらず壁が蔦で覆われている。ここはランパートがレンの母と密会に使用していた場所であり、一人になりたいとき、彼はいつでもここにいた。
「父さん、僕の声聞いているよね?」
歩くたびに床が軋む音が広がる。語り掛けても返事はないが、ここにいると確信していた。
「返事をしないなら、この家を壊すよ」
両親の思い出が詰まっているだけで、レンからすれば、ただのボロ家だ。壊すことに躊躇いはない。
「止めろ」
「やっぱりいたんだね」
影からランパートが姿を現す。殺気に満ちた彼に恐怖を感じるが、レンは一歩も退かない。
「お前はルーザーに付いていったはずだ。なぜここにいる?」
「父さんが盗賊たちの頭領だと聞いた。息子として僕が止めに来たんだ」
「お前一人でか?」
「話し合いに人数はいらないからね」
「まぁ、仮に集団に襲われようが、私には無意味だからな」
《転移》はいつでも好きな場所に移動できる。大勢に囲まれたとしても一瞬で逃げられるからこそ、彼は護衛も連れず、一人でこの家にやってきたのだ。
「知らぬ間に息子が勇敢になって驚いているが……頭の中はまだ子供だな……ルーザーの話を鵜呑みにして、なぜ我らが盗賊に堕ちたのか知ろうとしないとはな」
「そ、それは……でも事情があったとしても盗賊は駄目だよ」
「我らは人を殺していない。それに貧しい者から奪うこともしない。ルーザーに味方する商人たちから金を奪っているだけだ」
「それは言い訳にはならないよ。事情があっても暴力は許されることじゃないからね」
事情があっても盗賊は盗賊だ。法で罰せられるべき対象である。だが彼らはまだ捕まっていない。盗賊が領兵をクビになった者の集まりであり、腕利きの武術家たちだからだ。さらに頭領のランパートが強すぎるのも問題だ。
「我らを止めたいなら方法は簡単だ。私を領主に戻せばいい」
「どうしてそんなに領主になりたいの?」
「ルーザーが許せないからだ。帝国の悪魔を手引きした奴の下で働くくらいなら、このまま盗賊を続けた方がマシだ」
「帝国の悪魔?」
「こちらの話だ。お前には関係ない」
疑問は解消されないが、二人の兄弟仲が最悪だとは理解できた。
(叔父さんとの確執が原因なら僕がすべきことは……)
「なら僕が領主になるよ」
「名ばかりの領主のことか? 実質的な権力は代行のルーザーが握ることになる」
「叔父さんは排除する。僕が僕だけの責任で領地を経営してみせる」
「ふん、できもしないことを口にするな……私に止めて欲しいと縋ってきた時点で、お前はまだ子供なのだ」
本当に領主としての器があるなら、自らの力で盗賊たちを止めるはずだ。彼の言葉に、レンは心を打たれる。
「そうだね、僕は甘えていた……だからやるよ。僕が盗賊たちを従える」
「ははは、口だけか、それとも実力が伴っているのか……どちらにしろ、結果を楽しみにしているぞ」
父の笑い声を背中に受けながら、レンは古びた家を後にする。その瞳の奥には、領主として芽生えた自覚が光り輝いていた。
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