ゆぎ

第1話

むかーしむかしよりちょっと後、おばあさんとおばあさんが静かに暮らしていました。ある日、おばあさんたちは仲良く川へ洗濯をしに行きました。すると川の流れにのって、とても綺麗で美味しそうな桃が流れてきました。そして、川の流れが弱まった彼女のたちのもとへ桃は吸い込まれるように流れ着きました。


桃を家へと持ち替えると、ひと仕事終えたご褒美にする事にしました。その桃は今まで食べた桃とは比べ物にならない程美味しく、この世の物とは思えませんでした。しかし、3口ほど食べると視界が歪み、2人は意識を失ってしまいました。


意識が朦朧とする中起き上がると、目の前には若かりし頃の恋人の姿がありました。


「どうして、若い頃の梅さんがいるのですか?」

「何を言っているの?貴方こそ、若い頃の桜とそっくりだけれど?」


目の前の光景に驚いていましたが、相手の反応から自分の体の異変にも気が付きました。2人は急いで鏡の前へ行くと、そこには若かりし頃の自分たちの姿が映っていました。2人は手を握り合い飛び跳ねて喜びました。家の中でひとしきりはしゃぐと、残っている芝刈りを思い出し2人は仲良く山へ向かいました。


――――――――――


夕暮れになり芝刈りを終えた2人は家へ帰ってきました。

夕食を終え、風呂へ入り、いつも通り床へ着くとなかなか寝付けない事に気が付きました。いつもは仕事を終えて疲れ切っているのですぐ眠ってしまうのですが、若さという物は凄まじく体力が有り余っていました。


「梅さん眠れそうですか?私はなかなか眠れそうに無いです」

「私も眠れそうに無いわ。こんな感覚久々よ」


そう言ってクスクスと笑い合いました。せっかくなので2人は数十年ぶりに夜更かしをする事にしました。囲炉裏に火をともし、2人は肩を寄せ合い今後について考えました。いつまでこのままなのか、あの桃を食べたせいなのか、明日はどんな事をしようかなど、無邪気な子供のように語り合いました。


「貴方のその姿を見ていると出会った頃を思い出すわね」

「そうですね…もう凄く懐かしいです…」


桜は少しソワソワしながらそう返しました。梅はそんな彼女を見て、囲炉裏の火でじんわりと色付いた頬にキスをしました。


「梅さん。今のはこっちにするタイミングだと思います」


そう言って桜は梅の唇にキスをしました。梅は恥ずかしそうにしながら、


「こんなの久しぶりで…私の勘違いだったら悪いと思ったから…」


そう言いました。

梅のしおらしい態度を見て、桜は舌なめずりしました。

桜は梅の腕を強く引き、


「まだ眠たくは無いですよね?」


と言って、布団の方まで連れていき押し倒しました。梅は視線を逸らして、小さく頷きました。

桜は頷いたのを確認すると、貪るように梅と舌を絡ませました。数十年分の欲望が理性の器からドロドロと溢れるのが分かりました。梅もまた、その欲望を受け止めるように彼女に応えました。そして、2人は囲炉裏の火が消えてもなお愛し合う事を止めず、体力が尽きるまでただただお互いに快楽を共有しました。


翌朝、桜は聞き慣れない音で目覚めました。鳥のさえずりでもなく、強い風の音でもなく、雨音でもなく。その声は小さい赤ん坊が泣く声でした。そして、その声は桜と梅が寝ている間からしていました。桜は状況を理解しようと数秒考えましたが、


「…………………………。…っうううう、梅さん!?」


助けを求めるように彼女を叩き起こしました。ひとまず、赤ん坊をあやし、布で包んで落ち着かせました。


「それでどうするのよ」

「どうしましょう…」


2人の家は村からは離れている事もあり、誰かが置いていったとは考えづらい状況でした。まして、家の中の布団の中に置いていけば流石に気がつくはずです。

桜はスヤスヤと眠る赤ん坊を抱きかかえながら、


「育てましょう!ご家族がいるかもしれませんし」


力強く言いました。

梅はその言葉を聞き、


「それもそうね。それにしても不思議な事が次々と起こるわね」


と、笑いながら言いました。

2人は赤ん坊に「桃香」と名付けました。理由は、とても簡単でした。赤ん坊を抱きかかえた時、ほのかに桃の香りがしたからです。こうして、1つの桃から新しい生活が始まるのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆぎ @Yuri_Yugi_y

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ