ー 「全ての生き物の命は大切。命は尊くて平等なもの。」

そういえば。


私が小学校中学年か高学年の頃のことだった。



「全ての生き物の命は大切。命は尊くて平等なもの。」

私は母にそう言われて育っていた。


その命について私は母に反論し、報復を受けた。


正直に言ってしまえばどうして命について反論することになったのかという大きなきっかけについては覚えていない。ただ母が虫を気持ち悪がって殺したり、動物を汚いと言ったり、他人の気持ちを蔑ろにする行動を見て矛盾を覚えたからだったと記憶している。


「ねえ、ママは命は全て平等で尊いって言ったけど、虫の命も大事なの?」

「そうだよ。」

「私はママが虫の命を大事にしているとは思えない。」

「命にも優劣がある。あんたは虫と人間を同等だと思ってるの?」

「それはわからないし何とも言えないけど。」



私は、“虫を殺すなんて!全ての命が大事だよ!”なんて言う気はさらさらなかった。

「全ての生き物の命は大切。命は尊くて平等なもの。」という母の発言はどこに重点を置いて理論が展開されているのかとても気になったのだ。大体にして母の教えや話は筋が通っているように聞こえて、主語と述語を繰り返すだけで根拠も終着点もないのだ。


「ゴキブリと人間だったら人間の命の方が大事なの?他の生き物は殺されてもいいってこと?ゴキブリから見たらたまったものじゃないよね。ママが人間の命が大事だって言うのは同族として当たり前だと思うけど・・・」


「何が言いたいの!」


「だから、ママの意見だと“全ての生き物の命は大切。命は尊くて平等なもの。”っていう言葉は訂正しないといけないんじゃない?意味がおかしくなると思う。」


「バカなこと言ってんじゃないの!」



まあ、まあ、叩かれた。


母は顔や頭を叩く。平手打ちだけど痛みで視界が真っ黒になるのが必ずだった。毎日何かしらの理由で何回も叩かれているからどのタイミングで叩かれたって不思議ではないのだが大抵は腑に落ちないタイミングだった。



私は母を打ち負かしたいとも思っていなかった。母のちぐはぐさが純粋にわからなかったのだ。そんな母のちぐはぐさになぜなのか気が付くことができたのは私が31歳を過ぎてからだった。

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聖女の眼 葉月 諄 hatsuki jun @mmntmr

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