第12話  ロンリークリスマスは色っぽいサンセットと共に

 ポッパ山の頂上には、金色の清楚でスマートな仏塔が建っていた。

 参道脇に下手なモニュメントを多数羅列するよりも、これだけで良い。この建物の前だけ、ちょっと神聖な気持ちになれた。遠慮なく中に入る。

 あるあるではあるが、ブッダの後頭部を光らせたり、電飾で彩ったりする特徴がアジア諸国では見受けられる。御多分に漏れずここでも実施されていた。残念でならない。私はどうしても好きになれない。仏陀が小馬鹿にされているように見える。

 写真すら撮る気にもなれず、すぐ施設外へ出た。そして仏塔の横に設置されていたドラに触れる。130cmぐらいの結構な大きさであり、順番待ちも発生していた。

 縁起ものなのか、皆さんよく触っておられた。

 ドラの横には鐘もある。ミャンマーでは寺に行ったら必ず鐘があったな。

 日本と違うのは、子どもでも突きやすい低い位置にあること。子ども横にある竹の棒で一生懸命突いていた。

 私も記念に一突き、ゴーン。

 ここは、金運アップのスポットもある。皆さん、熱心にお金を入れてお祈りされていた。たいていは100チャット。日本円で8円くらい。

 ミャンマーの物価を考えたとき、日本のお賽銭とそう変わらない賽銭額なので、かなり気合を入れて祈っている様子をうかがい知ることができる。


 置いて行かれたら困るからさっさと降りることにした。

 猿のいたずらをかわし、いつ水を汲んできたか分からないバケツで洗っている皿に盛られる食事を提供する食堂街も素通りし、帰りはトイレだけ寄った。

 もちろん参道脇にあるので、ぼっとんである。そしてトイレ横に管理人が座っており、チップ制だ。50チャットを渡しながら、くっさいトイレ横に座り続ける仕事も辛いよな、と思いながら後にする。

 お土産屋も賑やかだが、観光客は誰も買っていない。と言うよりも、これはミャンマーの地方にある、この手の土産物屋を見て思ったのだが、ミャンマー語で声をかけてくるから分からないのだ。どうも英語ができないらしい。だから商売が成立しない。観光客もターゲットにしたいなら簡単な単語ぐらい話せないといけない。そう思考えると、浅草のお土産屋のおばちゃん方は一生懸命英単語を吐き出すから、根性があるなと今更ながら感心してしまう。

 最後の最後に、集会所のような施設の中で、またボー・ミン・ガウンと目が合う。

このおっさん。1938年~1952年にかけて、ポッパ山の祠で暮らし、数々の奇跡を起こした人でもあるらしい。ミャンマー人に言わせたら聖人らしいが、私はやくざにしか見えん。

 とりあえずこのポッパ山から学んだこと。

 ミャンマーでは、仏様も土着のナッ神様も、聖人も、みんな一緒くたにして祀られるってことだな。ほんと御利益はあるのだろうか。

 12時25分、駐車場に到着し、運転手さんから再度水とおしぼりを戴く。どうも私が一番乗りらしい。

 腹が減った。運転手は目の前の食堂を指さす。まだ時間があるから行って来たらどうかと勧めているのだ。

 さっきの食堂街より清潔そうだから、入ってみることにした。

 開いている席に着席し、テーブルをウエットティッシュで拭いていると、常連さんと思われる人々が舐めるように見てきた。日本人が珍しいのか、私の行動がおかしいのか。このストリートにはいっぱい食堂があったが、この店が一番はやっていた。

 言葉は当然通じない。だから地球の歩き方を開き、ミャンマー名物モヒンガ-の写真を指さし、オーダーした。

 1杯1000チャット。80円。安い。麺を注文するとあほほど香草が別皿で出てくる。私はパクチーが好きだから、パクチーを山盛り入れてライムを絞りいただく。


旨い!


 モヒンガーはナマズの出汁でつくったスープに米で出来た麺を入れたものである。

トッピングにパクチーやニンニク揚げ、アヒルのゆで卵などをお好みで入れる。

 この店はアヒルの卵はなかったなぁ。朝食の定番と言うことで量も控えめである。モヒンガーの良い所は早く出てきて、さっさと食べることができることだ。

滞在時間は10分もなかった。

 駐車場に戻り、皆さんの帰りを待ち、13時出発。14時半すぎ、宿に到着。相当疲れていたのか、ワープしていた。


 ツアーから戻ってきて、フロントに立ち寄る。ふと掲示板が目に入る。私のあほヘッドでも分かるように、優しい英語で綴られている。

 サンセットツアー、サンライズツアーの案内だ。料金は無料。名前を書き込むだけで良いという。

 無料・・・良い響きだ。参加しようではないか。

 洗濯物を取り込み、足だけ洗い、ちょっとベッドで横になる。ブログを更新し、サンライズツアースタートの16時にフロントロビーに向かう。

 ロビーへ行くと、続々と参加者が集まってきていた。総勢12名が集結。

 主催はコロンビア人フォトグラファー、マリオさん。確かそんなネーミングだったと思う。ごめんなさい。私にヒアリング能力がないんだと思うけど、コロンビアンイングリッシュも何言っているか分かんない。向こうからしたら、ジャパニーズイングリッシュも意味不明なんだろうけど。

 総勢12名がそれぞれ簡単に自己紹介。皆さん1つとして国が重ならない。ヨーロッパ、オセアニア、アメリカ、アジアいろんな方面からミャンマーを訪れているのがよく分かる。

 このツアーは中国製の電動自転車、Eバイクを使用する。

 日頃から自動のものを運転し慣れてない私。

 不安だわー、と思っていたら、他の参加者で昼間Eバイクを借りて持っていた、イケメン兄ちゃんが後ろに乗せてくれた。

 電動自転車はそんなにスピードは出ないものの、悪い道を走るから、砂埃が舞い、お尻が痛い。

 ヘルメットを着用して正解である。そしてよく事故を起こす人がいる理由がわかる。

 フォトグラファーでもあるマリオさん、おススメの眺望の丘からスタートする。

フォトグラファーだけあって、実に雰囲気の良い場所をご存じだ。

 まだ日が高い。16時45分。次の場所へ向かう。

 途中、牛の大群に遭遇。

 日本で見ることができない光景に、思わずシャッターを切る。


遺跡と牛

絵葉書のような光景である。こういう長閑な匂いも好き。

 


 帰宅途中の牛とサヨナラして続いて案内されたのは、夕日鑑賞の名所として有名なニャンラパッド・ポンドの丘だ。この丘はツアーバスや個人ツアーのお客様も多い。

 皆さんと会話を交わしながら撮影に挑む。皆さん優しい。私が英語が苦手だとカミングアウトしたら、優しい単語で話してくれる。無視でもなく、スルーでもなく、続けてくれる優しさに感動する。香港人の女性が1枚記念撮影をしてくれた。

 これで夕日を拝むのも終わりかな・・・と思っていたら最後に1か所追加される。

どうもマリオさんが撮りたかった場所らしい。空き地から遺跡を狙いたかったようだ。皆、黙って付き合う。だって無料で案内してもらっているから文句も言えまい。

 ただこの場所、なかなか幻想的だ。遺跡を温める夕日がオーラのように映り、何とも言えない、味わいを齎している。私も記念に何枚か撮影する。でもここで芯まで冷え切った。

 18時ホテル到着。即解散。ともかく夜はすぐに冷えてしまう国だ。

すぐさまシャワーを浴びて、洗濯に勤しむ。テキパキと屋上に洗濯物を干した後、夕飯へ向かう。疲れ切っていたので、左隣にあった店へ流れることにした。ライチジュースを焼きそば流し込んで280円也。やっすーい。


 疲れ切って即爆睡。実に充実したクリスマスイブだった。



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