第11話 物乞いかわしてポッパ山

 寒い。のそのそとベッドから這い出て、スーツケースから厚手のジャンパーを引っ張り出す。

 南北に長いミャンマーは北部と南部で気候が違い、北部は温帯性気候、南部は熱帯性気候となっている。南部では気温が高いだけでなく湿度も高く蒸し暑い気候となり日較差は小さい。北部は気温は高いものの湿度は南部と比較して低く過ごしやすい気候となっている。だが内陸部なので日較差は大きい。

 寒さに震えて起床。しかし朝食会場は、4階のルーフトップバーだ。

 日本で言うと、10月下旬の気温であり、朝食スタッフはダウンジャケットに身を包んでサービスしている。昼間は死ぬほど暑いが、朝はくそ寒いミャンマー。日較差のある地域に住むには、変温動物のような体質でないとだめだと痛感する。

 朝食はブッフェ形式で食事の種類は少ないが、朝は小食な人間は、これで十分である。うっすいトーストと伸びきった焼きそば、皮の厚いトマトとフルーツ。ジュースまであるから合格点を上げても良い。強いて文句を付けるならコーヒーだ。私たちが日ごろペーパーで濾して飲んでいるコーヒーを、インスタントコーヒーのようにそのままお湯を入れて提供しているのだ。だから薄いし、そこに反吐のようなものが残り実に下品だ。この飲み方はインドネシアでも体験した。淹れ方を知らないのか、はたまた面倒なのか、分からないが。

 ちびちびとまずいコーヒーを飲みながら外に目を向ける。

 バルーンツアーに参加した人々が空上からパガン遺跡散策をしている。これはサンライズツアーの1番人気のものだ。ただ10000円以上する。高いなぁ。欧米人ばっかり参加していると言う。ただ、こうやって眺めるのも、なかなか良い。この宿では毎朝バルーンを見ながら朝食を頂いた。

 今日の昼間は、ポッパ山ツアーに参加である。キャンセルが出て参加となったツアーだ。このツアーには往復送迎と水、足ふきがサービスでついてくる。

 ドライバーが8時45分お迎えに上がります、とのことだったが、現れたのは9時15分。もちろん、悪びれた様子もない。このようなルーズな点が、この国の発展の足かせになっているんだよ。

 総勢8人で出発である。私は6人目だったから、その後2人拾ったのだが、揃ったのが9時45分。そこから正式な出発となった。

 途中トイレ休憩を兼ねて、20分ほど止まる。家族経営のお土産屋さんなんだろうが、民家のトイレをちょっと拝借した感じとも取れた。老婆が竈でお米を汗を拭きながら焚いていた。昨日行ったミンナントゥ村でも見られた光景だ。地方田舎ってまだまだこんな暮らしなんだろう。土間では、お店で売るものと、自分たちの食事を作っていた。

 奥の鍋ではヤシ砂糖作りの作業が行われていたり、ピーナッツが干されていたりと手は休まることを知らない様子で、余裕がないのか客には全く「いらっしゃいませ」を言うことはなかった。だからヤシ焼酎も置かれていたが、誰も買っていなかった。

 客が車に乗り込み、再度出発。

 出発してすぐ、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

 ポッパ山までは広い2車線道路の1本道。道では観光客を乗せた車が通るたびに、このエリアの住民が出てきてお金をせがむんだ。

 子どもが車の前に飛び出すこともある。親が背中を押しているのだ。

 手を前に差し出して跪く老人。ざるを前に出して、ものをねだる老婆。

 滑稽と恐怖が合わさった光景であり、同乗した外国人は一様にカメラを回していた。きっとYouTubeにでも上げるつもりなんだろう。

 終戦直後の日本、米軍にチョコレートやガムをねだる日本人ってこんな感じだったのだろうか。

 車は遠慮なくスピードを出す。要は、界隈の住民が車に近づいて来られないようにするためだ。でも、止めて何か物を上げている車もいた。きっと何も知らないレンタカーの客だろう。草むらから即ハイエナのように他の住民が湧いて出てきて、取り囲まれていた。

 まだまだ貧しい国なんだな。

 11時過ぎ、鈍い思いを抱えたままポッパ山入口に到着する。ドライバーは13時までに戻って来いと言って水を渡してきた。ドライバーが指をさす、参道は一本道で流れはできている。ドライバーは、付いていけばいいと白い歯を見せてきた。

 

 バガンの南東約50Kmのところにあるポッパ山(標高1518m)。その斜面に忽然と巨大な岩峰が姿を現す。「タウン・カラッ」とも呼ばれ、地元の人に古くから信仰されてきた聖地だ。

 天空の城ラピュタ、みたいと言っている日本人もいたが、私にはそう見えなかった。参道途中には、きっとご利益の象徴なんであろう、人物のモニュメントがいくつかふてぶてしく立っている。きっと偉い人なんだろう。だから地元の人が熱心に祈っているのだろうが、初対面の私はお笑い芸人のレプリカのようにしか見えなかった。

 地球の歩き方によると、このお笑い芸人のような風貌の人が人気の聖人「ボー・ミン・ガウン」さんとのこと。大好物はタバコ。

 もちろん、ナッ信仰の聖地 とあるため、ボー・ミン・ガウン以外にも、いろんな縁起の良い人々が参道脇に大人しく鎮座している。だが、やたら圧が強い、ボーミンガウンばかり目につく。表情もいろいろで、竹内力にしか見えんボー・ミン・ガウンもこちらを見ていた。ファミリーが並びでいるブースもあり、これには笑った。もちろん、仏陀も遠慮がちにいる。仏陀の像はまだ、表情はまともで二枚目だった。

 地元の人も多いが、観光客も多い。

 参道口にはたくさんの値札のない土産物屋さんが軒を連ねている。土産物屋がなくなった頃、境内に到着。ここで靴を脱ぐ。

 境内入り口から頂上までは約20分ほどかかる。ずっと登り階段なので、結構しんどい。また階段の途中にはやたらと猿がいて、いたずらしてくるので要注意!日光並みにいる。

 11時45分頃、頂上へ到着。さすが乾季のクオリティ、青空が素晴らしい。

 何と言う品の良い色。疲れも吹き飛ぶ。少し青空を見ながら休憩し、山々と会話を交わす。乾季の山々は化粧が整っている。血色の良い緑が参拝客を癒してくれる。

 


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