【掌編】冬の守り人【1,000字以内】

石矢天

冬の守り人


 振り向くとそこには敵の姿があった。


「もうキサマらの出番は終わったんだよッ!」


 男は冷気の剣を振るい、夏の残滓を斬り伏せる。

 

「ぬおぉぉ! 口惜しや。この借りは半年後に必ず返すぞ!!」


 毎年のように、ではなく。事実として毎年聞かされている捨て台詞に男は苦笑する。


「やれるもんならやってみな。半年後にはもうオレはいねぇけどな」


 夏の残滓が砕け散り、涼やかな風が漂った。

 男の言葉が届いたのかは定かでない。



 この世にはふたつの季節がある。


 ひとつは夏。

 もうひとつは冬。


 天はふたつの季節がケンカしないよう、一年を半分に分けて、片方を夏、片方を冬とした。


 しかし彼らは欲張りなので、しっかり見張っておかないと一年をまるごと自分の季節にしようとするのだ。


 男の役目は、夏の残滓である『残暑』を斬り伏せ、憂いなく夏から冬に季節を引き継がせることである。



「風の流れがおかしいな……」


 男がつぶやく。

 敵である『残暑』と戦っているのは、なにも彼だけというわけではない。


 海が、風が、大地が、それぞれで戦っている。

 夏に味方をするものもいれば、冬のために戦ってくれるものもいる。


 彼らは気分屋なので、毎年どちらの陣営につくのかギリギリまでわからない。


「海の様子もいつもと違う……」


 男はふぅ、と小さく息をはく。


「これはちょっと覚悟がいりそうだな」



 はたして、男の言葉は現実のものとなる。


「ララララララララッ!!」

「ニィニィニィィィィニャ!!」


 迫りくる『残暑』の大群ラニーニャ現象

 暴走しているのか、その発語に理性はない。


「おおおおぉぉぉぉ!!」


 男が吠える。

 冷気の剣を振るって一匹、二匹と残暑を斬り伏せていく。



 戦いは熾烈を極めた。

 ついに全ての『残暑』を討ち果たしたとき、すでに男の力は尽き果てていた。


 これは敗北ではない。

 そして引き分けでもない。


 この戦いによって、冬は例年よりも早く寒気を送り込めるようになったのだから。 



 男は眠る。

 来年、再び出番が来るそのときまで。


 深い眠りへと落ちる中、男は今年の戦いを振り返る。



 この冬の残暑は酷かった。




      【了】



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2022/9/15 連載開始


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