奇襲  1





一寸法師のホールに30人ほどのしろ作務衣さむえが集まっていた。

背中には一寸法師の文字がある。


「今夜は満月だ。月の光を受けて紫垣しがき製菓を円陣で組み、

邪を封じ込める。

そしてその後討伐隊が中に切り込み、赭丹導あかにどうの残党を討つ。」


集まった皆が無言で頷いた。

彼らは腰に大刀を携えている。


ゆかりはその中の一人に父親の後ろ姿を見た。

一通り話が終わった後に荒木田が紫に近づいて来た。


「紫、金剛こんごうさんから聞いた。

豆太郎君と一緒に紫垣製菓に偵察に行ったのだな。」

「はい。」


荒木田が頷いた。


「素人のお前が危険な事はするな。

だが、よくやった。」


紫ははっとして父を見る。

彼女は泣きそうになった。


「お父さん、金剛さんがお父さんは私に加護を与えていると。」


荒木田は複雑な顔になる。


「……私にはそれぐらいしか出来ん。」


彼女は大刀を携えた父親は初めて見た。

少しだが彼女も赤い玉の恐るべき力は見たのだ。

これから自分の父親はそこへと向かう。

そして自分が知らないだけで、

昔から父はそのような世界にいて

過酷な経験を何度もしたのかもしれないと思った。


「お父さん、色々とごめんなさい。私が我儘でした。」


俯いた紫がぽたぽたと涙を流す。

荒木田はそっとその頭に触れる。


「……これが終わったら一度家に帰れ。」

「はい。」


それを遠目で金剛と隣で椅子に座っている豆太郎が見ていた。


「じいちゃん……。」


豆太郎は少し涙声だ。


「どうしてお前が泣くんだ。」


金剛が苦笑いをする。


「だって。」


金剛は豆太郎の頭を軽く拳固で叩く。


「ほら、気を引き締めろ、これから大変だぞ。」

「……分かった。」


豆太郎は昔から涙もろいのだ。

金剛は子どもの頃から彼を知っている。

この優しい青年が金剛は大好きだった。






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