第33話 魔族との戦闘



「――やってくれたな」


 洞窟から外に出れた二人は一安心していた。ただそれも束の間。洞窟から魔族の声が聞こえてくる。


「……」

「ひっ!?」


 声を聞いたマナはコアラの様に須藤の体に抱きつき震える。須藤だけは生きていることを確信していた。【空間掌握ロール】の力で吹き飛ばしたが手応えを全く感じなかった。マナを強く抱きしめ、魔族から決して目を離さない。


 須藤の攻撃で黒いローブをボロボロにしていた。ただ他は無傷。二メートルはあるであろう巨躯。そしてローブが脱げたことにより見える人間とさして変わらない体。気になるのは額の角。紫色の髪の毛という人とは違う特徴を露わにしていること。


 赤い目を須藤一人に向ける。


「人間。お前がこの状況を作ったのか?」

「だとしたら?」

「我々の計画を台無しにしてくれた報いを受けて貰おう――【地獄の焔ヘルファイア】」


 流れる様な動作で右手を上げ、須藤達に向ける。そして詠唱も無しに魔法を行使する。二メートル程の大きさの紅蓮の焔が須藤達に迫る。


 相手には会話をつるつもりはもうとうないらしい。


「!――マジかよ!!――【空間掌握ロール】×【ロック】――【空間断固ルック】!」



 目の前に迫る燃え盛る紅蓮の焔を見て本能的に「ヤバい」と感じた須藤はスキルをダブルで使う。【空間掌握ロール】で擬似的に自分の半径一メートル内を「支配」する。そして重ねて使った【ロック】を発動。


 その名も【空間断固ルック】。そんなスキル存在しないが【空間掌握ロール】の練習をしている時に手に入れた【マルチタスク】というスキルの応用を使った合わせ技だ。


      ズドーンっ!?  


「――ぐっ」

「きゃっぁ!!」


 その衝撃と振動でマナが悲鳴を上げる。


 須藤が起こした『粉塵爆発』の爆音程ではないが広い範囲を巻き込む爆発が起こる。それに巻き込まれた須藤達は――


「――間に、合った」


 無傷だった。


 ただ須藤のその額には隠すことのできない冷や汗が垂れていた。


 須藤が同時展開させたスキルで起こったことは【空間掌握ロール】を使っている間(30分間)【ロック】を使えば自分から半径一メートルは無条件で身を守れるという戦法だ。

 ただこの方法は最強に見えるかもしれないが欠点もある。それは【空間掌握ロール】の「支配」は一度(30分間)経つか自ら【解除】するまで「一回の行動」しか使えないことだ。今【ロック】を自分の空間内で「支配」している。その状態でさっき魔族に当てた様な爆風は発生させられない。


 それも自分を囲む様に【ロック】を発動している為こちらからの攻撃もできない。



(くそ。助かったけどこれじゃジリ貧だ。それに――)



「ほう。我の魔法を防ぐか。ならばこれならどうだ――」


 また右手を須藤達に向け。


「【フレイムバーン】×5」


 先程の魔法とは違い少し小ぶりだが連続で魔法を行使してくる。その全ての魔法を防ぐ。が焦る。


 先程よりも弱い魔法を使う理由は相手は『魔力』の消耗を抑える為。それもこちらが手出しを出来ないことをわかってか、わざと弱い魔法を使う。


 戦法「亀」で相手の『魔力』が無くなるのを待ってもいいが相手の『魔力』は未知数。そして何よりも――


「す、スカーお兄ちゃん。怖いよ」


 自分の腕の中で今も震えているマナの存在だ。


 守りたい存在。助けなくてはいけない存在。


 ただあまり言いたくないがマナが須藤の足手纏いとなっていた。それでも見捨てるわけにいかない。自分がここで逃げたら――


「――マナちゃん。俺の話聞いてくれるかい?」

「ひうっ!……う、うん。どうしたの?」


 魔法の砲撃をされている最中、何か決心を決めた須藤がマナに話しかける。振動に耐えていたマナも顔を上げる。


「今から俺はあるスキルを使う。そのスキルを使うと安全な場所に避難できる。ただ少し気分が悪くなるかもしれない」

「いいよ。マナ、スカーお兄ちゃん信じるもん。スカーお兄ちゃんと一緒なら頑張る」


 マナ少女の目を見た須藤はその頭を片手で撫で、一つ頷く。


「君は、偉いな。よし、わかった。今から使うから目を瞑ってな」

「わかったよ!」

「――【ルーム】」


 須藤とマナの目の前の空間がグニャリと歪む。そして――一瞬にしてその姿を消す。


「む、なんと。消えた……気配も、感じられん。何をした――」


 二人が目の前で消えた瞬間をその目で見た魔族は少し驚く。





「――おっと。【空間断固ルック・解除】」

「きゃあ」


 目の前が歪み、そして次に目を開けたら真っ白な空間に立っていた。その瞬間【空間断固ルック】も【解除】する。


 ソファーや本棚といった須藤のオリジナルスペースも健在だ。その空間に久しぶりに来たことで周りを懐かしげに見ていた時、腕の中にいたマナが暴れる。


「スカーお兄ちゃん! ここなに!? どうして全部真っ白なの?!!」

「ちょ、ちょちょ。マナちゃんあまり暴れないで、いま降ろすから」


 早く自分の足を真っ白の空間につけたいと暴れるマナをゆっくりと降ろしてあげる。


 解放されたマナはさっきまでの恐怖を感じていない様に周りを元気に走り回る。そんなマナの姿を見てこちらも元気を貰う。


 暫しマナを自由にさせてあげた後、集合させてこの空間について説明を試みる。


「うーん。マナちゃんに話してわかるかわからないけど――この空間は【ルーム】というスキルで構成された空間なんだ。外界から隔離された空間だからさっきの敵――敵って、アレはなんなんだ?」


 マナにわかりやすく説明をすると思ったが、気付いたら自分と戦っていた相手が何者なのか考えてしまう。


 と言いつつも須藤もなんとなく自分が戦った相手の予想はついている。少しの間だったが『転移者』の自分と同等以上に戦い【空間掌握ロール】で発生させた爆風でも無傷。自分と同じ【無詠唱】で魔法を連発してくる。

 人の様に話し、知性を持つ。ここだけを見たらただの「人間」にしか思えない。ただ何よりも「人」とは異なる箇所があった。それは額に生える赤黒い角と紫色の髪の毛だ。アレは恐らく――


「――魔族」

「(ビクッ)」


 魔族と口にした瞬間、さっきまで楽しそうにしていたマナの顔色が悪くなる。


 その怯える姿を見て確信した。自分が戦っている相手は魔族であり。これから倒さなくてはいけない相手はあの魔族なのだと。


「マナちゃんは、アレが魔族だって知ってたのかい?」

「う、うん。私よく寝る前、お母さんにご本を読んでもらってたの」

「うん」

「その内容がね。「早く寝ないと額に角を生やす紫色の髪を持つ――が攫いに来るぞ」って」

「そんな話が……」


 この世界にも「怖い話」。又は子供を寝かしつける為の「童話」があるんだな。それが現実の話で魔族関係だと聞かされると、ちょっとな。


 少し怖気付いてもしまう。


 ただ須藤とて覚悟してこの場にいる。自分達が「ネフェルタ」に呼ばれた理由は『魔王』を倒すことだ。その配下と戦うことは遅かれ早かれ決まっていた。巻き込まれた自分はそんなものに参加する義理は無かった。でも今は話が違う。


 俺は少しこの世界の魔族を侮っていた。『魔王』が強いだけで、魔族はそこまで強くない、と。ただそんなことある訳ないよな。じゃなきゃ各国に『救世主』を4人も呼ばない。魔族自体がそれほど脅威な存在だから神様から貰った力を持つ『救世主』の力が欲しいのだろう。


 そして今魔物を統括しているのも確実に魔族だろう。


「――スカーお兄ちゃんは、あんな奴に負けないよね」


 自分の認識違いを考え直していると、マナからそんなことを上目遣いで聞かれる。


「勿論。俺は勝つよ。勝ってマナちゃんをミレーネさんとナオ君の元に送り届けるのが使命だからね」

「うん! スカーお兄ちゃん、頑張って」


 いつもと変わらない笑顔を向けてあげるとマナはにぱっと喜ぶ。そして須藤が負けると思わないマナはその屈託の無い笑みを返す。


 あぁ、勝つさ。勝って俺は君を送り届ける。それに奴は野放しにできない。ただやっぱり俺には運が味方してるよな。絶対。


 そして『ステータス』と心の中で唱える。


 

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スカー・エルザット 18歳 男(須藤金嗣 15歳 男)


L v.:35→71

種族:人種

職業:特殊職業:【転売ヤー(時空間魔法)】 サブ職業:【商人】


体力:700→1420

魔力:5900000→10005000

スタミナ:700→1420

筋力:1050→2130

防御力:700→1420

魔防御力:700→1420

素早さ:2450→4970

運:100


 

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 スキルは変わっていないが魔族と戦う前に沢山の魔物を『粉塵爆発』で討伐したおかげか各項目のステータスが上昇していた。


 ついに『魔力』も「1000万」を超えた。この世界で須藤の素のステータスでも凄いのに『魔力』に関しては未知の領域に足を踏み入れている。


 前までの俺だったら魔族の動きは見えなかった。でも今の俺なら大丈夫。しっかりと見える。少し贅沢を言うなら何かスキルを欲しかったが、それは甘えだな。


「よし。マナちゃん。俺は今からさっきの魔族と戦ってくるから君は安全なこの空間にいてね」


 『ステータス』の確認を終えた須藤はマナに問いかける。


「うん。わかった。マナがいても足手纏いだけだもんね」

「あ、いや。そういう訳じゃ無いけど。ただマナちゃんがいると危ないし」


 その言葉にどう返事を返したらいいか少し慌ててしまう。その姿を見れたマナはクスクスと笑う。


「ううん。ごめんなさい。私がいたらスカーお兄ちゃんが本気で戦えないって本当にわかっているんだ。だから――死なないで」

「!――ありがとう。行ってくる」


 マナの顔を見て返事を聞いた須藤はただ頷く。なんせ、その時見せたマナの目が自分のことを信頼してくれているのだから。



 須藤はマナに背を向けると右手に『魔力』を貯める。そして、唱える。


「【ルーム解除】」


 【自分だけ抜け出す】と、思いながら。


 空間の歪みを感じている中、最後に聞いた。



     『待ってるね』と。





 その言葉を聞いた須藤は口元を緩ませる。そして外界に出たタイミングで【空間把握サーチ】で感じた方向に右手を向け、今出せる本気の――


「――【空間断裂スピリットエア】!」


 【空間断裂スピリットエア】を放つ。


 空間を裂く不透明の刃が敵に迫るが、須藤の行動を読んでいたというように【空間断裂スピリットエア】を放った場所からタイミング良く獄炎の刃が飛んでくる。


       バチッ!


 二刀の刃はぶつかり合い――須藤が放った【空間断裂スピリットエア】に押された獄炎の刃が掻き消され。勢いを止めない【空間断裂スピリットエア】が相手を切り刻む為に突き進む。


「これは、受けれんな」


 その場から直ぐに離脱した獄炎の刃を放った魔族は須藤を見てニヤリと嗤う。


「なんだ、逃げたと思ったぞ」

「ぬかせ。お前みたいな危険人物を放置して逃げるかよ。化物が」


 適当に返事を返しながらも無手ではこちらが不利だと思った須藤は腰に下げている片手剣、「黒天」を抜く。今はまだ鞘に入っている。


「心外だな、同類化物


 「黒天」を鞘ごと抜いたのを見た魔族は皮肉を込めて同じ言葉を使う。そして自身も腰に下げていた禍々しい紫色の大剣を抜く。


「……」

「……」


 両者共に武器を構えながら動かない。


 今は夜風だけが吹き荒れる。二人の距離はおよそ三メートル。その時、二人の間に枯葉が落ち――両者が同時に動く。


 須藤の方が少し速い。


 須藤は軸足の右足を前に出し、腰から体重をかけて魔族目掛けて駆ける。「黒天」を右手で持ち、下段から突き上げるように切り上げる。

 魔族も須藤と同じように自重を前にして駆ける。須藤の「黒天」に合わせるように両手で持つ大剣で上段からの一撃を放つ。


「シッ!」

「ヌゥ!」


 二人の剣がぶつかり合いリーンという音が振動として森の中に木霊する。


 互いの武器を当て、鍔迫り合いをする二人は――笑う。



 戦いの火蓋が切られる――いや、斬られた。



 第二ラウンド開始。

 

 


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はずれ職業の転売ヤー。運命を変えるために奮闘中 加糖のぶ @1219Dwe9

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