転売ヤーと魔族

第24話 商人始めました



 公爵家のみんなと『家族』となり。『個人商業』をすると決めた。そしてレイン達から必要な知識を教え込まれて数日が経った。



「――エルザットさん、今日も来ちゃいました! 「お塩」一袋くださいな!」

「エイナさん今日も来てくださりありがとうございます。はい、「塩」一袋銀貨5枚となります」

「はい。こちら丁度銀貨5枚です! また来ますね!」

「はい、丁度ありがとうございます。またの御来店お待ちしております」


 「塩」一袋を渡し、エイナという女性から銀貨5枚を受け取った男性――紺色のエプロンを着た須藤は愛想良く振る舞っていた。


 今は神からの贈り物の赤色のピアスを左耳に付け、「スカー・エルザット」として生活している。



 誰もが通る見晴らしのいい広場の中央。昨日オープンしたばかりの屋台。沢山の人が並び賑わっている。



 昨日から『個人商業』として商売をしている。商人としての必要最低限の知識を教わり、そして念願の自分の屋台を出し商売を始めた。

 公爵のレインから直接屋台を出して良い場所を貸して貰い。そして商売をする為の移動式馬車も借りた。


 売りに出す物は調味料と香辛料。他にも今後出そうとは思っているが、今はこの二つに決めている。後は売値の値段を決める。そして最後の難問――お店の名前も決めた。



 その名前は――



「まだまだ商品もありますので慌てないで大丈夫ですよ!――[歩き屋台 スカー]あなたのご要望にお応えます!!」


 そんなことを大きな声でみんなに伝える須藤の顔はどこか楽しそうだった。



 ◇



「――エルザット殿。そのぉぉ〜まだ「砂糖」はあるかな?」

「あ、フィルさん。いらっしゃいませ。砂糖ならまだありますよ?」

「ほっ、良かった。じゃあ、砂糖を一袋頼むよ」


 須藤の口からまだ砂糖があることを知ったフィルという男性は心底安堵した顔になる。


「わかりました。一袋銀貨5枚となります」

「はい、こちら銀貨5枚ね」

「――丁度ですね。こちら砂糖一袋です。本日もお買い上げありがとうございます!」

「いやいや、こちらこそこんないい調味料が手に入って、それもとても安値で買えて嬉しい限りさ。また来るね」

「はい、またの御来店お待ちしております」


 お昼前最後のお客の相手を見送った須藤は屋台の前に人がいないことを確認し、「休憩中」という木の板の看板を見やすい場所にさげる。


「――ふぅ。午前中は終わりっと。さてナタリーさんに作って貰ったお弁当食べたら午後の準備するか」


 そう言いながら屋台の日陰に行きお昼を頂く。


「――いやー、でも運が良すぎているというか。俺の周りが優しい世界過ぎる。そしてナタリーさんの作るお弁当、美味い」


 自分の周りの人に、お弁当を作ってくれたナタリーに感謝を込めてしみじみと呟く。


 須藤は本当についていた。


 国の最高権力者、『王』の次に権力を持つ『公爵家』の人達と仲良くなり、家族に迎え入れられた時点で運はほとんど使っていた――はずだったのだが、無償で屋台を貸してくれて商人として知識までも教わった。

 ただ商売はそんなに上手くいくとは思っていなかった。レイン達はみんなして「売れる」と豪語していたが、それは少し――早くても一ヶ月ほど経たないと知名度も無い自分の屋台など繁盛しないと昨日までは思っていた。

 それが蓋を開ければ――人、人、人。沢山の人が屋台に並び、オープンするのを待ち望んでいた。


 屋台を出す前に挨拶回り、簡易的なチラシを作って配った。ただこんなにも沢山の人が来るとは思いもしなかった。初めその人々の多さに狼狽えてしまったが、商売をしていくならこんなもの耐えれなくては、と思い笑顔を作り[歩き屋台 スカー]をオープンさせた。


 そしてそこで知ったことが、自分の屋台に来てくれた人々のほとんどが、あの日レッドワイバーンの襲撃があった時須藤が助けた人々だった。


 商品を買う度にその人々から「あの時はありがとうございました」「本当に助かりました。また買いにきますね」「お兄ちゃん、お母さんとマナを助けてくれてありがと!」と、お礼を言われた。


 そこで気付く。自分の行動は間違いじゃなかったと、しっかりと人との繋がりを作っていた、と。



「――レインさんにも商人になるにあたって「信頼」「信用」そして「知名度」は何よりも大事。だけど君なら大丈夫だろう――と言われた時、何が大丈夫なのかわからなかった。このことを言ってたんだろうな」


 レインに商人としての知識を教わった数日を思い出しながら呟く。


「――しっ! じゃあ、午後も頑張りますか」


 お弁当を食べ終わった須藤は腰を上げる。そして午後の準備を始めた。



 ◇



「――今日も売れたなぁ〜。ただ、罪悪感は拭えぬ……」


 今日一日の仕事を終えた須藤は移動式馬車を片しながらそんな一言を溢す。


「『ステータス』」


 一旦、片付け作業を中断する。そして今日の売上が気になりと思いながら『ステータス』と唱える。



---------------------------------------------------------------


所持金:650万ウェン


---------------------------------------------------------------



「――」


 自分のステータス画面に表示される所持金を見て言葉を無くす。


 数日前まで須藤の所持金は騎士から貰った「15000ウェン」。日本円で言う「15000円」しか無かった。なのに今はその何倍もの所持金となっていた。それも経ったの2日で、だ。


 勿論、公爵家に売ったものが大きい。だがそれでも2日で「650万」はおかしい。それも【ルーム】内にいる間、【メルカー】を通して『魔力』で買っていた物なので実質ただだ。


 「無」から「有」を生み出した瞬間だった。


「だとしても、日本で一袋「500円」で売ってる物がこっちで銀貨五枚――「5000円」になるとは思わんよ。単純計算で10倍よ10倍。日本にいる転売ヤー達もお顔真っ青だわ」


 震える声を出しながら『ステータス』画面を閉じる。そしてレイン達に言われた言葉を思い出す。



『え!? スカー君。それは本気かい? 本気で全ての調味料と香辛料を――銀貨五枚で売るのかい!?』

『スカー君。それは安過ぎるわよ。私、心配だわ』

『スカー殿。もう少し上げても良いのでは?』


 自分が思う一番塩梅だと思った指定価格を口にしたらレイン達に驚かれ、終いには心配されてしまう。ただこれ以上値段を上げるのは元の「買値」を知っている須藤からしたら無理だった。今でも良心が痛む、


 「転売ヤー」を名乗るヘタレ。


 「本物」の転売ヤーだったらもっと高値で売るだろうと思いながらも、この場凌ぎであることを伝える。


『いえ、お世話になっている『フラット公爵領』の皆さんだからこそ良心的な値段で売ります。他の地域ではもっと高値で売りますよ』


 その話を聞いたレイン達は自分達のことを思って考えてくれたと解釈してくれたようで。


『――それなら』


 と、一応は納得してくれた。



「――一袋金貨15枚で売った方が良いと言われた時はその言葉を理解するのに数分使ったのはまだ新しい記憶だな」


 流石に「500円」を「15万」で売れる度胸などない。多分日本のヤバイ「転売ヤー」でも躊躇うレベルだろう。


 そう思いながらも如何に【メルカー】がヤバイスキルなのか再度知れた。


 そんなことを考えていた須藤は中断していた片付けを終わらせる。




 

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