強さとは

給食終わりの休み時間トイレから戻ると、教室の入口に人だかりが出来ていた。中を覗くと机や椅子が散乱して、給食袋や白衣を入れるロッカーが倒され、数人の男子がロッカーを蹴っていた。

「どうしたの?」

驚いて近くにいた子に聞いた。

「ロッカーにひょろが入れられて倒された」

ロッカーのドアは床側に倒れ、絶対に出られない。

「何してんのよ。やめなよ」

人を掻き分け近寄ると、ロッカーを蹴っていたブー達が、ギロッと睨み教室から出て行った。

「ちょっと早くドアこっち向けて」

近くにいた男子達とロッカーを転がしドアを上に向けた。バンと中からひょろが、ニヤニヤと笑って出てきた。ひょろは皆にイジられても、いつもヘラヘラと笑っている。数日前も体育が終わり教室に戻ると、ひょろが自分の体操服で机を拭いていて、よく見ると机の周りも水浸しになっていた。

「誰だよ。こんな事したの」

ブツブツ言いながら一緒に机の周りを拭いた。庇った事でイジメを助長させてしまったのだろうか…それにしても、やり過ぎた。騒ぎを聞きつけたのか‥担任が来て教室の惨事を見て騒いだ。面倒だからトイレに避難し、午後の授業が始まる頃、教室に戻ると‥机の上に何かが置かれていた。赤いペンで塗られたような何か…

何だこれ?…

生理ナプキンだ。ご丁寧に赤ペンで塗られ広げられていた。

完成度の低さよ‥ガキかよ。さっきの仕返しか?こんな幼稚な事をやる奴なんて知れてる。どこから仕入れたんだ‥笑える。

あたしはソレをつまみ、ブーの机の上に捨てた。教室に戻ってきたブーはソレを見ると慌てて手で払い、こっちをチラッと見た。

自分が犯人だって言っちゃってるよ‥

目は口ほどにものを言う。

授業が始まり先生が教科書を読みながら、机の間を歩き出した。

どうするんだろう…

ブーの机の手前でピタリと止まり、見ている‥やがてソレを、サッと拾うと何事もなかった様にゴミ箱まで行き捨てた。

ソレだけではなかった。筆箱を開けると、消しゴムがむき出しになり、ある文字が書かれていた。女子の局部の名称‥四文字。

イカれたガキが…

消しゴムを掴むとポイっと捨てた。

帰りの会の時間、ブー達が前に呼ばれ、ロッカーに閉じ込めた事を咎められた。ブー達は何も言えず伏せている。先生は顔を真っ赤にして怒鳴った。

イキるなら最後までイキれよ。ダセェ奴ら‥

「歯を食いしばれ」

先生は、連れ二人を思いっきり平手打ちした。そして、縦も横もデカい巨漢のブーの番になった時、先生が言った。

「先生も手が痛い」

履いていたサンダルを掴んで脱ぐと、そのサンダルで思いっきりブーの頬を叩いた。

無駄に白いブーの頬は、見る見るうちに赤くなった。

サンダルって…やるな‥

「やられる人の痛みはこんなもんじゃない。分かったか」

ブー達は尚も黙って、うつ向いていた。

想像以上に担任が熱かったから、自分にされた事は、もうどうでも良くなった。

こんなダセェ奴ら‥相手にしてらんない。

その後、ひょろが黙って駄菓子を渡してきた。言葉はなかったが、なんとなく意味がわかったから『サンキュー』とサラッと受け取ると、ひょろは逃げるように去って行った。

なんだか心が暖かくなり嬉しくなった。

ニヤニヤしてるだけでなく、ちゃんと分かっているんだな‥

ある意味‥強い男だ。

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