予期せぬ敵

教室に入ると何人か小学校での顔見知りがいた。クラスは、どう振り分けているのだろう。仲の良い友達とは、ものの見事に離れた。

席につくと斜め前に座っていた男子が振り向き、ジッとあたしを見た…

知り合いか?

ニキビ顔で所々皮膚が変色している‥特徴のある顔だ。忘れるはずがない。

「何?」

疑問を投げると、何も言わず前を向いた。

先生が一通り話を終えプリントを配って歩いた。

「後ろの人にまわして」

斜め前の男子が振り向くと、斜め後ろのあたしの机にポンとプリントを置いた。

「ちょっと~後ろにまわしてよ」

声をかけると、すぐに振り向きニヤリと笑った。それからも何度か同じ事を繰り返した。注意される事を楽しんでいるかの様だった。

変なやつ…

不思議に嫌ではなかった‥慣れない教室にクラスメイト‥それをきっかけに自然と和み回りが笑いに包まれていたからだ。しかし事態は急変した。先生の声だけが静かな教室に響いていた。話の途中、先生があたしに目を止めジッと見た…

「お前…髪染めてんのか?」

威圧的に言った。一瞬であたしが注目の的になりクラス中の視線を感じた。何の事だか理解できず黙っていた。

「まぁいい。親が来てたら、後で一緒に職員室まで来なさい」

それだけ告げると何事もなかった様に話を進めた。ポツンと置き去りにされたかの様に身動き出来ずにいた。

何?今の…

時がたつにつれフツフツと怒りが込み上げ、その後の話など全く耳に入らなかった。

下駄箱に行くと、仲の良かった友達や母が入学の記念に写真を撮ろうと待っていた。教室での出来事を話すと友達は、あたしの気持ちを代弁するかの様に口々に言った。

「元々この髪の色なのに酷いね」

「信じらんない」

あり得ないといった様子だった。

「職員室どこ?行くよ」

母がブツブツ文句を言いながらスタスタ歩いて職員室に急いだ。母の怒りのせいなのか、逆に冷静になっていた。

「元々の髪の色なんですよ。外国の人はどうするんですか?色んな髪の人がいるでしょ?全員染めるんですか?元々こうなのに、どうしろっていうんですか?」

完全に噴火して、まくし立てる母。慌てる担任‥他人事のように黙って見ていた。

そして…ある事を思いついた。

どっちに転ぶかな…

「ちょっと美容室行って来る」

担任との話を終えた帰り道、母に告げた。

「もう話ついたからいいんだよ。気にしなさんな。又何か言われたら言いなさい」

「今日じゃなきゃ駄目だから行って来るわ」


次の日、まだ見慣れぬ教室に入り席に着くと、すぐに斜め前の男子、鈴本が昨日と同じ様に振り向き、何か言いた気にニヤニヤと見ている。

昨日とは違う事、言いたい事が分かった気がしたから黙っていた。チャイムが鳴り、担任が教室に入って来た。あたしを見て一瞬ギヨッとした様だったが、昨日と同じく何事もなかった様に話を進めた。

髪を染めるという事‥昨日まで知らなかった。教えてくれたのは、先生だよ。

心の中でつぶやいた…

昨日、始めて髪を染めた。

全体をムラなく…茶髪に。


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