閑話: 野獣人格

 私の精神において友人として傑作の最たる者は、暗譜の感情、模倣した共感、果ては芥子粒ほどの現前性もとい、回収の追いつかぬ不在の自己同一性を偏重とした野獣スピンドクターである。

 そして私はこのような友人を一人だけ知っている。私は頻繁に、彼に敬意を表して「悪魔」と呼んでいる。

 彼の容姿は淡麗で、その顔に魅了されない者はおらず、老若男女が彼のために働くことを厭わない。

 それもそうである。

 彼は人々、特に原罪の(あるいは死という概念においての)忌避を目論んだ者どもによる合目的的運動の閉幕にいるとされ、この最高目的として崇められているのであるから。


 彼が、コンサヴァティブの土地で育ってきた槁木死灰の累々を、土と水が潤沢なる地に集めたときのことだ。

「この土地ではおまえたちが要である。おまえたちが、もしこの地にその名をもって労を献ずれば、天使どもが属毛離裏として集い、いずれは死の恐怖に怯えぬ、畢生の快楽を味合わえることだろう。」

などと光輝燦然たる笑みを浮かべて嘯いていた。


過般私はその地にて視察をした。

そこでは老者は氷で高炉を作り、

子は彼らを見賢思斉として、鍬で岩を叩いている。


そこで気になった私は悪魔に尋ねてみた。


「悪魔よ、天使は、このような愚行を続けるばかりの有象無象へ舞い降りては、彼らを天上へと迎え入れてくれるのだろうか?」


悪魔はこう返した。


「友人、彼ら槁木は『罪人』であって、決して我々のような罪を超越した貴き者の類いではない。

見よ、彼らの皮膚を。しろなまずは跋扈し、背にはこくみがのしりと跨っている。

我が今行っていることは、そんな罪人共に各々の『死』を受けてしまった償いをさせているのだ。


天使なぞを遣る者など居るはずもない。彼らを属毛離裏として誘うは、常にヒンノムの谷底からなのであるから。

もっとも、彼らはその谷底から聞く、累年におよぶ罪人の悲鳴を天使のナーサリーライムと尊ぶのだから噴飯物である。」


悪魔はそういうなり、彼の前を通り過ぎた老婦の背中へ勢いよく鞭を打ちつけた。

やはり彼は友人として傑作である。

私は彼を誇りに思う。

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