生娘

 風にまたがる放浪人、


「これは罪深くなる定めであった遊女おまえたちに与うもの。


火点ひとぼし頃、

まがきの影は女に伸び、

女の手はあかりに伸びれば、

火取蛾ひとりがの鱗粉がおまえの鶉衣に

更なる狂愚と恥辱のほつれを産み落とす。


うらわかきも、たけし乙女よ、いつ逝かなん。」


と言えば、

遊女、うぐいすなりて、

美妓びぎに春の音色、調べは双調そうじょうさえずれば、

館に座す野風俗のぶすやから

同衾どうきんに強いられる乙女共もみな

聞き入ってしとねに伏す。


遊女、はからって言い出すに、


「いつ逝くか、定めるところは我らになく。

我らは淫魔の偶像となり、

孕む孕まぬの意もせきに合う。

暴にて、ただかんされるのみ。


食傷と祈っては、

反魂丹はんごんたんを飲む我が面に、

細蟹ささがにの曇るがごとく、

時をかけて咲き誇る燕子花かきつばた

これに、食傷する


面に咲かす燕子花、咥えるは梅の花。

いたく芳しいこの香は、

我が腹の子には嗅がせず。」


放浪者はおぞましい毒気に犯されて、

遊女を勢いよく押し倒せば、


「どうだ、飛び去るが余地はあるだろうか老鶯ろうおうよ。

今一度はここに梅花の香をくんじ、常津国へ堕とさん。」


と、言う。


放浪者は気も晴れ晴れと、

腹の腫れの鎮まった遊女の

血に塗れた服に、

その手の甲とを打ち合わせ拍すこととした。

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