第21話 シルヴィの推理

 翌日、私が教室に入るとシルヴィはすでに来ており、クラスメイトに見られないように教科書に挟んだ昨日の術式とにらめっこしていた。。

「あっ、カノンおはよう」

「おはよう、シルヴィ。もしかしてもうその術式練習したの?」

「今日早起きしてちょっと、ね。やっぱり先生の言った通りこれ難しいかも。三つも一気に制御するのなんてあたししたことないよ……」

はぁ、と小さくため息を吐きながら机に突っ伏すシルヴィ。たしかに実技の授業でも教わるのは撃ち出すタイプの魔術ばかりで、魔術で作り出したものを同時に維持するものはなかった気がする。

口では難しいと言っているけど、テストで制御が得意なことは分かっている。だから、なんだかんだシルヴィはこの魔術を使えるようになると私は思っている。

「そんなことより、カノンに話したいことがあったんだった。あの後考えたんだけどさ、やっぱり不自然だと思うの」

「何が?」

「あたしたちは昨日、人魂の正体を調べるために張り込みをして、その結果人魂ではなくてジュアン先生の魔術だと分かった──これって全部仕組まれたものだったんじゃないかってこと」

「どういうこと?」

「いい? 不自然な点はいくつもあったの。その中でも一番大きいのはジュアン先生が術式を取って戻ってくるまでが早すぎたこと」

 たしかに私たちが少し話していたらすぐに戻ってきたけど、それは走っていたからだと思う。

「早かったのは、先生が走って職員室に行って走って戻ってきたから。たしかに職員室まで往復するだけならあの早さにも納得できるけど、あのとき先生は職員室で術式を人数分書いてくる・・・・・って言ってた。それなのに渡された術式は僅かな時間で書かれたようには見えなかった──少なくともあたしのはね」

「私のも綺麗に書かれてた──ってことは」

「そう、術式の書かれた紙はあらかじめ用意されていたってことになる。殿下たちに確認しないと分からないけどそれもたぶん五枚以上」

「でもそれだと私たちが術式を教えてもらったのはその場での先生の好意じゃなくて、もともと教えるつもりだったってことだよね」

「あたしが思うに、先生は七不思議の一つである人魂の調査をしに来た生徒にあの魔術を教えてるんだと思うの。それで先生はあたしたちが昨日練習場で張り込むことを知っていて現れた」

 でもそれをどうやって先生は知ったんだろう。昨日職員室で遅くまで残っていた私たちを見てそう判断した? いや、違う──

「先生は教室での私たちの会話を聴いていた……?」

「そうだと思う。それで職員室に鍵を持っていったあたしたちを確認してから、練習場に向かった。噂で生徒が人魂を見た時間よりも先生が早い時間に現れたのは、私たちがすでにその場にいると判断したから──そう考えると辻褄が合うの」

 たしかに生徒が人魂を見た時間まであとちょっとと言っているときに足音が聞こえはじめた気がする。

「それにあんな遅い時間に先生が帰り方を心配しなかったこともね。寮暮らしのあたしはともかく女子生徒のカノンが遅い時間に帰るのは先生なら心配しそうなものだけど、それをしなかったのは殿下の馬車で一緒に帰るのを知っていたからだと思う」

「言われてみればそうかも。シルヴィ、仮にジュアン先生が七不思議の一つを調査しに来た生徒に術式を渡していたとしたら、それって……」

「七不思議の噂自体が先生たちによって流された可能性が高い、よね。そして今回のことから考えると、他の七不思議を調べると先生から別の術式を貰えるかもしれない」

「そういうことだよね。シルヴィ、他の七不思議が何なのか知ってる?」

「あたしもまだ人魂しか知らないんだよね。カノンも研究会の方で訊いてみてよ。殿下たちにも頼んどく」

「分かった」

 七不思議で先生が術式を生徒に配っているとしたら、いったい何のために? 自分でアレンジした術式は魔術師にとっては宝だ。それをただ配るのは慈善事業のようなもの。

 なぜなのかは分からないけど、貰える生徒にしてみれば天から降ってきた幸運だ。逃す手はない。特に自分で術式の改変をしたことのない生徒にとっては、良い参考になるだろう。

 昨日、馬車で悩んでいた殿下の助けに少しでもなるといいのだけど。

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