春夏秋冬 それは人間の心そのもの

蓮田凜

玉川上水

都心から電車で1時間、武蔵野台地がそこにある。


電車の車窓から見えるであろう、多くの森林に田畑。


降り立つ者を癒す心地よい空気。


風がたなびき、揺れる草花。


そこに群がる多くの鳥や虫たち。


高層ビルが建ち並び、陰鬱いんうつな雰囲気渦巻く都心にはない、武蔵野の姿がそこにある。


かの有名な太宰治も歩いた玉川上水。


多摩川から上水として活用されてきた澄んだ川は、木々に囲まれ、人々の心を癒す遊歩道が続く。


玉川上水が織り成す春夏秋冬は、まるで人間の心を映しているようだ。


春。


遊歩道には桜が広がり、ピンクに彩られた景色は出会いと別れを告げる。


学徒が闊歩し、開襟のシャツが初々しい。決意にみなぎる一年のスタートだ。


うぐいすの鳴く声に耳を傾け、時間の経過を忘れるだろう。


夏。


セミの大合唱で賑やかに踊り出す新緑たち。


熱意に溢れ、火照ほてった体を癒す木漏れ日。


川のせせらぎに清涼な空間へ変わり、夏の暑さを和らいでくれる。


夕立の後、タマムシの背が川に掛かる虹と共に輝きを放つ。


秋。


生い茂っていた葉っぱたちが舞い、焦燥感漂う季節。


気分は沈み、絶望を感じることもあるだろう。


しかし、開けた景色の先に見えるのは不動の富士山。


厳とした姿に胸打たれ、今一度決意を固めるであろう。


冬。


白雪に当たる陽光が、憂鬱な気分を晴らそうと輝く。


あの富士山も白銀に光り、共に冬越しをせん、とばかりに語りかけてくる。


長く寒い日々を、懸命に生き抜こう。


必ず乗り越えられる。希望を持て、と。


そして、冬は必ず春を迎える。


待っていましたとばかりに、解けた雪から野ねずみが顔をだし、新芽が我らを出迎える。


あの厳冬を乗り越えたのだ。


越えられない壁はない。


迎えた春。


新進気鋭に満ちた人々の心は晴れやかな一年のスタートを迎える。


富士山のように厳とした凜々しい姿のように、折れることのない信念を携えて。


今日も武蔵野台地を流れる玉川上水。


人間の心の変化を表したその春夏秋冬は、今日もまた一人の命を繋いでいく。

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春夏秋冬 それは人間の心そのもの 蓮田凜 @ashimashin

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