第29話 私が作ります!

 楽しむと言っても、2通りの楽しみ方がある。


 一つは、同棲生活そのものを楽しむ。

 一緒に買い物をし、料理をし、ご飯を食べ、テレビを見たりゲームをする。

 これがごく一般的な楽しみ方だ。


 そして2つ目、夜の営みだ。

 家の中には俺と奏の2人。そして、置いてあるベッドはダブルサイズ。

 枕元にある小物置きには丁寧にゴムの箱がワンカートン。引き出しには大人の玩具まで入っている。


 これは楽しまないわけがない。


 だが、これを親が用意してるとなると……………狂ってるとしか言いようがない。


 不純な事を考えていると、


「とりあえず、ご飯食べない?」


「………だな」


 トントンと肩を叩かれ、俺は返事をする。

 ヤバい、このままだと頭の中がピンクな事でいっぱいになってしまう。

 不覚ではあるが、同棲が始まるというのに、純粋に同棲生活が楽しめなくなる。

 それだけは避けたい。


「んでも、ご飯どうする?」


 そうだ。俺は料理が全くできない。カップラーメンを作るので限界だ。

 奏も料理は……………できるわけないか。ただでさえ不器用なのに。

 コンビニかどこか食べに行くのかと思うと、奏は腕を曲げ、


「私が作ります!」


 どや顔をする。


「え、お前料理出来るの?」


「零二くん、私が料理できないとでも?」


「思ってるな」


「えぇ~、それ酷くない!?」


「だって不器用だし、まともに折り紙もできないのに?」


「折り紙と料理は別物だよ~。それに料理は私の数少ない得意なモノなんだからね?」


 俺の鼻をツンと突く。

 にわかに信じがたい。これまで奏に料理なんて作ってもらったことないぞ?

 もし、本当に料理が上手いのなら「零二くんこれ作ったから食べて~」とか言ってくるはずだ。


「これまでそんなこと一言も言ってなかったか?」


「それは…………ちゃんと食べれる料理にするまで時間が掛かったから」


 体をもじもじとさせながら言う。


「練習してたってことか?」


「うん…………零二くんに美味しいって言ってもらえるようなものを作るまでお母さんと練習したの」


「そうなのか………」


 それなら納得がいく。前も同じようなことがあったな。

 小学生の時に手作りのマフラーを貰ったことがあるのだが、それも頑張って練習したと奏から聞いたことがある。


 意外に頑張り屋さんなんだよな、奏。

 にしてもなんか嬉しいな。俺の為に頑張って料理を練習してくれてるって。

 一層奏の手料理が楽しみになる。


 奏の母親は料理上手だから、ゲテモノは出てこないはずだ。

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