第3話 アサガオ

第3話 アサガオ。


マジムカつくわ、なんなん? あの管理人。


目つきが気持ち悪いし、頭も悪そう、なんであんな奴がここの管理人やっているのだろう。


なんだかんだで、今日も朝からでかい声で、絡んできやがった。


どうして奴はいつも、ギリギリをせめてくるのか。


すれ違う時、座っている時、奴はいつもとにかく近いのだ。


うっかりすると、私から彼に触れてしまいそうな、そんな気持ち悪いポジションを常にとってくる。


さらに言えば、ナルシストっていうの?どれだけ自分大好きなのだ。


毎回毎回、話しかけられるたびの自慢話は、お腹いっぱいを通り越して吐きそう。


まあでも新人が入ってくれたおかげで、最近は彼女がお気に入りらしく私の方には寄ってくることは、かなり減ってきたのだけれど。




私は木下有希、ここではアサガオって呼ばれている。


大学卒業後、看護師として働いてみたけど、障碍者の私に看護師の仕事なんてやっぱり無理だった。


1年働いただけで3人も殺しそうになっちゃうなんて、ほんと私にあの仕事は難しかった。


ただ患者さんたち死なないでくれて、マジありがとうって感じ。


先輩の看護師たちは、怖かったけど有能だったと、つくづく感謝している。




ガンダーラに来てからはずいぶん症状も落ち着いてきたけど、今でもお薬は手放せない。


ここでは、誰にも怒られたりはしない。


かなり迷ったけど、ここに来てみて本当に良かった。



ここには、私を攻撃してくる嫌みな上司も、小うるさい親もいない。


住人たちはいい意味で他人には無関心というか、皆がマイペースなのだ。


ここガンダーラは、私たちのような社会からはぐれてしまった人たちを、無料で受け入れてくれているシェアハウス。


親に聞いてもお金は1円も払ってないそうだし、私も請求されたことがない。


どこかの金持ちがボランティアで始めたらしいけど、ここは私たちにとって、まさに天国と言っていいかもしれない。


ただあの気持ち悪い管理人さえいなければ、もっといい場所になるのは間違いないのだろうけれど、そこまで贅沢も言ってはいられない。


最近になって気になる人もできた。


いつもやさしい声で歌っている彼を見ていると、私が一番楽しかった高校生の頃を思い出すのだ。


当時は女子高だったから、一緒に音楽作っていたのは女子だけだったけど、あんなにやさしい声で歌える人と一緒に音楽をやれたらなぁ・・・


彼に話しかけたいのだけれど、その前に私には絶対に成し遂げなければならないことがある。


そうだ、私はデブなのだ。


せめて5キロ。いいや、3キロまず痩せる。


痩せてみせる。


いつも河原で、何やら鍛えているデブがいたから、あの人に相談してみようかな。


あの人なら話しかけやすそうだし、いつも笑顔で挨拶もしてくれる。


たしかあの人の名前は・・・・そうだマッサンだ。


マッサンに相談しよう。


あの人デブでおっさんだけど、ちょっとかわいいとこあるし、とても人望があったあの敬さんとも仲が良かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る