ザンネーム王国の惨状と囚われていた少女
私はザンネーム王国の平民兵の状態が気になったのでボージャス・ルキア騎士団長に質問をする。
「ボージャス・ルキア騎士団長、平民兵たちの顔色、栄養状態がよろしくないように見えます。どういうことでしょう」
「はっ、お恥ずかしながら、ザンネーム王国では王族、王族派の貴族のみが王国の民から搾取した物を享受しておりました……」
ボージャス・ルキア騎士団長の説明によると、平民は増税を課され搾取されるだけの存在になっていたという。反対派の貴族はことごとく粛清され、反抗することは許されなかったようだ。
すぐにでもザンネーム王国の王都に進行したいが、収容している捕虜達の食糧をどうするか悩む……。
「報告いたします。山林から大多数の動物たちがすごい勢いで向かってきております!」
急に兵士から伝令が入った。
「サイネリア王国の騎士団は臨戦体制に……」
ノエルはフィーリア騎士団長の指示を遮った。
「フィーリア騎士団長、大丈夫です。向かってきている動物たちは敵ではございませんわ」
どうやら、私のために山林から食糧となるものを動物達が運んできてくれたようだ。
なんとかの恩返しみたいな童話のような展開は何ですの?
私とノエルは動物たちから食糧を受け取り、お礼を伝えると動物達は散り散りに去っていった。
「フィーリア騎士団長、一部の兵士で収容所の警備とみんなの分の炊き出しをお願いできますか?」
「はい、かしこまりました。こちらで人員を調整いたします」
一部の兵士たちに炊き出しと収容所の警備を任せ、私たちはザンネーム王国の王都へ向かった。最終結末を見届けたいとお願いされ、ボージャス・ルキア騎士団長と、その騎士団の同行を許可をした。
私たちは馬や馬車、魔動補助荷車で一日足らずで王都に到着した。
王都の街に入ると、見るに堪えない悲惨な情景が目に入ってきた。もう国でも街でもない、廃墟のようだ。平民達が道端で何人も無気力で倒れ込んでいて、中には亡くなっている人もいる。
「この惨状はあんまりですわ」
「お恥ずかしい限りです。我々は抗うことは許されず、見て見ぬふりしかできませんでした」
ボージャス・ルキア騎士団長は切実に語る。私は拳を強く握りながらザンネーム王国の王宮を目指す。
しかし、ザンネーム王国の王宮に到着すると信じられないことになっていた。王宮には平民の使用人以外誰もいなかったのだ。
「おい、そこの使用人、国王陛下たちはどこへ行かれた?」
「国王陛下たちは私たちを見捨ててお逃げになられました」
「なんだと!?」
どうやらザンネーム王国の国王たちは民を捨てて逃亡したようだ。本当に残念な方々ですわ。
ボージャス・ルキア騎士団長は、ハッと何かを感じたのかどこかへ駆けていった。私たちもボージャス・ルキア騎士団長についていった。
着いた場所はザンネーム王国の宝物庫だった。ボージャス・ルキア騎士団長は宝物庫の入口の前で、四つん這いになって絶望していた。
「なんてことだ。王国の民を見捨てるだけでは飽きたらず、王国の財産を全て持っていくとは……」
ボージャス・ルキア騎士団長が絶望するのも無理もない。王国の民に死ねと言っているようなものだ。残念な人たちの他人の幸せを踏みにじって、のほほんと暮らしていける精神が理解できない。
「ボージャス・ルキア騎士団長、お立ちになってください。まだ確認する場所はございますか?」
「突然取り乱してしまい申し訳ございません。そうですね、牢獄も確認いたしましょう。反王族派は捕らえられているかもしれません」
「わかりました。私たちもご一緒します。案内をお願いいたしますわ」
「はい、かしこまりました」
私たちはボージャス・ルキア騎士団長の案内で地下の牢獄へ向かった。牢獄にはたくさんの人たちが押し込められていた。
「おお、ボージャス・ルキア騎士団長殿。助けてくだされ」
ボージャス・ルキア騎士団長は捕らえられていた反王族派の人たちを解放した。
そして、反王族派の人たちにザンネーム王国は降伏して敗戦したこと、国王たちが王国の全財産を持ち逃げしたことを伝えた。反王族派の人たちは絶望して嘆きだした。
私はふと、牢獄の奥にわりと高めな魔力を感じた。私はその魔力に導かれるように歩き出す。
「メリア執務官閣下、その先は危険でございます」
ボージャス・ルキア騎士団長が私を止めようとする。しかし、牢獄に幼い少女が拘束されているのを見ると歩く速度が次第に速くなっていった。
「この少女はなぜ、牢獄に閉じ込められているのかしら?」
「それは、国王陛下が少女の魔力が非常に高く危険だと判断され、閉じ込められました。そして、反対した両親は処刑されてしまいました……」
なんと非道な……。魔力コントロールを上手くできるようにしてあげれば問題ないものを。
「この少女の拘束を解いてください。私が引き取ります」
「少女の魔力が暴走してしまったら……」
「問題はございません」
私の語気に反応して兵士は少女の拘束を解く。私は少女を柔らかい布に包んで抱きしめた。
「もう大丈夫よ」
「おかあさん?」
少女の意識が戻ると魔力の高ぶりを感じた。やはり自分で魔力を上手くコントロールできないようだ。
「メリア執務官閣下、危険でございます!」
周りの声を無視して私は少女にゆっくりと強弱をつけて私の魔力を送る。
「大丈夫よ。私の魔力を感じなさい。わかるでしょう?」
「うん」
「私の魔力にあなたの魔力を合わせてみましょう」
少女は目を閉じて私の魔力を感じながら一生懸命に自分の魔力をコントロールしようとする。
「大丈夫よ、暴走しそうになってもちゃんと止めてあげるから」
少女は安心すると魔力が安定した。
「よくできました。すごいわ」
「うん」
少女が落ち着いて周りを見渡すと、みんなの目の色が変わっていた。なんですの?
「メリア執務官閣下は、見捨てられた少女を救う聖母様のようでございますね。とても感激いたしました」
私はまだ前世でも子供を産んだことはございませんけれど、聖母様って……。
困りましたわ、どんどんあらぬ称号が追加されていきますわ。
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