ザンネーム王国の敗北

 私は「魔動砲」をぶっ放し、ザンネーム王国の山を一つ吹き飛ばしてしまった。まさか、これほどの威力になるとは想像していなかった。


 ちょっとしたこけおどしのつもりだったのに……。

 乗組員たちも山が一つ消えている状況を見て開いた口が塞がらないようだ。


「ノエル秘書官、状況は把握できますか?」


「はい、そろそろクックルちゃんが来る頃でございます」


 ノエルがそう応えると、クックルちゃんがノエルの元に報告に来た。どうやらザンネーム王国軍は白旗をあげているらしい。


 私は、戦況を把握するためにサイネリア王国軍に合流することに決めた。一番近い港町はケールの街だ。


『進路目標、ケールの港。よろしくお願いいたしますわ』


 乗組員たちは「進路目標、ケールの港」と復唱して、さらに「碇を上げ!」と号令をかけて乗組員たちはサイネリア号の移動の準備に取り掛かる。


 準備が整うとサイネリア号はケールの港に向けて移動しはじめた。


 ケールの港はそう遠くなく、1時間もかからずにケールの港に到着した。


「メリア執務官閣下、ケールの港に到着いたしました」


「ありがとう。サイネリア号はケールの港で待機をお願いいたしますわ」


「はい、かしこまりました」


 乗組員が「碇を下ろせ」と号令をかけ、乗組員たちはサイネリア号の碇を下ろす。


「カーナ、サイネリア号を任せます」


「はい、かしこまりました。メリア執務官、ノエル秘書官、いってらっしゃいませ」


 私とノエルはケールの街で馬車を借り、カーナに見送られながらサイネリア王国軍がいるところへ向かった。


 しばらく馬車を走らせてると、国境の関所門が見えてきた。すでに門は開かれていて兵士が門の周りで警備をしていた。


「これは、メリア執務官閣下」


 私は警備の兵士から敬礼を受ける。


「サイネリア王国軍はどちらにまいりましたか?」


「はい、先ほどこの道沿いに進まれました」


「ありがとう」


 私たちは警備の兵士から敬礼をされながら関所を通過して、サイネリア王国軍に合流する。


 フィーリア騎士団長とザンネーム王国の兵士と思われる人と会話をしているのが見えた。


「フィーリア騎士団長、状況を教えていただけるかしら」


「メリア執務官!? お早いご到着でございますね」


「はい、サイネリア号で近くの港まで来ていたもので、それほど時間はかかりませんでしたわ」


「サイネリア号? では、先ほどの攻撃はサイネリア号からの攻撃でございましたか」


「ええ、カーナたちが開発した『魔動砲』でございますわ。予想をはるかに超える攻撃力で私も驚いております。その前に、そちらの方はどなたかしら?」


「申し遅れました。私、ザンネーム王国の騎士団長を務めております、ボージャス・ルキアと申します」


「私は、執務官のメリア・アルストールでございます」


 ボージャス・ルキア騎士団長は目上の者とは知り、慌てて跪いた。


「そうかしこまらなくてよろしくてよ」


「はい、ありがとうございます」


 私はフィーリア騎士団長から状況を説明してもらった。


 突然、山が爆発して岩などの破片が飛んできてザンネーム王国軍の多数の兵士たちが重軽傷を負ったようだ。

 後方にいたザンネーム王国の王族派の貴族たちは王宮に逃げ帰ってしまって、ボージャス・ルキア騎士団長が総司令官代理としてサイネリア王国に降伏を願い出たということだった。


「どんな事態であろうとも、敵前逃亡は許されることではございません。我々騎士に対してはどのような罰をも受ける覚悟でございます。ですが、平民兵にはどうかご慈悲をお願い申し上げます」


 ボージャス・ルキア騎士団長が率いる騎士団以外は、全て平民兵だそうだ。


 貴族兵たちは平民を見捨てて逃げるなんて、なんて残念な王国なのかしら。


 ただし、5万人近くの兵を捕虜としてサイネリア王国に連れていくのも無理がある。


 私は5万人ほどの兵を収容する施設をどうにか作れないか考え込む。5万人分のテントなんてない。


 無いなら作るしかないですわね。

 私は、賢者様の書物に書かれていた、賢者様の創成魔法『クリエイトハウス』を使うことにした。

 『クリエイトハウス』は作る形をイメージして土を使って建物を作る魔法だ。 

 凝ったものを作るには熟練が必要だが、単純な形のものなら難しくはない。


 私は地に両手を当て、豆腐型の建物をイメージする。それと空気窓もつけよう。


『クリエイトハウス!』


 魔法を発動させると、土がもこもこと動き始め、壁がどんどん広がっていく。 

 数分で豆腐型の巨大建築物が出来上がった。

 周りの人たちは驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。


 ちゃんと空気が通るよう空気穴もできている。バッチリですわね。


「フィーリア騎士団長、ボージャス・ルキア騎士団長、こちらにザンネーム王国軍の兵士たちを収容してください。あと、怪我人はひと区画にまとめてくださいませ」


「はっ、かしこまりました」


 両国の騎士団が協力してザンネーム王国軍の平民兵たちを施設に収容していく。私が作った収容施設は5万人の兵士を余裕を持って収容することができた。

 

 よきかなよきかな。


 さて、次は怪我人の回復ね。怪我の原因は私ですもの怪我人たちのケアをして差し上げないといけませんわね。

 私は数万人の怪我人の中心まで足を運ぶ。


「メリア執務官、何をされるのでしょうか?」


 ボージャス・ルキア騎士団長は驚いた顔で質問してきた。

 私はボージャス・ルキア騎士団長に「大丈夫よ」と目線を送った。


 そして、私は両手を大きく広げる。


『世界を見守られし癒しの女神様、傷ついた者たちに癒しの力を与えたまえ、エリアヒール!』


 魔法陣が数万人の怪我人を包み光の粒がたくさん浮きがってくる。

 平民兵たちの怪我がみるみると癒されていく。

 しばらくすると、魔法陣も光も消えて全ての平民兵の怪我が治った。


 ……ふぅ、結構魔力を持っていかれましたわね。


 さて、戻ろうかしらと思ったら、ザンネーム王国軍の全ての平民兵たちに跪かれていた。


『聖女様、敵国の我々をお救いくださる慈悲深さ、心より感謝申し上げます』


 ザンネーム王国軍の全ての平民兵たちに泣いて喜ばれた。


 あはは、そうなりますわね。


 しかし、私はザンネーム王国軍の平民兵たちを眺めていると、栄養が行き届いていない者ばかりだと気づく。


 私がフィーリア騎士団長たちのところへ戻ると、ボージャス・ルキア騎士団長は跪く。


「メリア執務官閣下、いいえ、聖女様。最大限のご慈悲を賜り、深く御礼を申し上げます」


「ボージャス・ルキア騎士団長、そんなにかしこまらないでくださいませ。私が困ってしまいますわ」


 私の困っている顔を見てフィーリア騎士団長たちが笑っておりますわ。


 もう、ぷんぷんですわ。

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