王女様はわたくしが守りますわ!

 わたしは今、セシルとお茶をしている。


 どんな話題を出そうか頭をひねっている……。

 

 いろいろ考えていると、セシルの方から話題を振ってきた。


「メリア、あなたのお部屋には本が多いわね。どのような本が好きなのかしら?」


 ちょうどわたしの後ろに本棚があって、セシルはそれを見て興味がひかれたらしい。


「わたくしは、『勇者様とお姫様の恋物語』を愛読しておりますわ」


 セシルがきょとんとした感じの表情を見せる。


「どのようなお話ですの? 『恋』とはどのようなものかしら」

 

 どこまで話していいのかしら。


 かなりオブラートに包んで説明しないといけませんわよね。


「えーと。ある国のお姫様が悪いドラゴンの王にさらわれてしまいますの。ドラゴンの王に一人で立ち向かう勇者様が現れてお姫様を救う旅に出るのです。……ドラゴンの王を倒してお姫様を救い、王様に認められ勇者様とお姫様は結ばれる。というお話ですわ」


 しまった、長々と語ってしまった。


 セシルは……ものすごい目を輝かせて乙女の顔をしている! 


 斜め後ろの女性騎士様までうっとりしているわ。


 まさか、同じ愛読者ではないでしょうね。


「メリア、素敵でしたわ。まだ『恋』というのはわかりませんけど、わたしもその本を読みたいですわ」


「構いませんわ。セシルにお貸ししますね」


 わたしは本棚から「勇者様とお姫様の恋物語」の本を取り出し、セシルに渡した。


 そして、そのまま女性騎士が本を預かった。


「ありがとう、メリア」


「いえいえ、大人向けの内容になっていますが大丈夫でしょうか」


 わたしはセシルの顔色をうかがったが、特に問題はなさそうだ。


「ええ、もうある程度、文字の読み書きはお勉強してますから大丈夫ですわ」


 一応、女性騎士が本の中身を軽く確認する。


「そうですね。王女様でもそれほど難しくはなさそうです。わからない表現などは専属教師がおりますので大丈夫でしょう」


 さすが王族、教育が行き届いていて素晴らしいですわ。


「メリアはこの本を一人で読めますの?」


「はい、一人で読んでおりますわ」


 セシルが尊敬の眼差しでわたしを見ている。


 きゃぁ、セシルの表情が豊かで本当に惚れてしまいそうですわ。



 お茶を飲み終えてしまうと、我が家の図書室とお庭を案内することになった。


 まずは、我が家の図書室から案内する。


 お父さまが長年かけて集められた本がぎっしりと詰まっている一室なのよ。


「うわぁ、すごいですわ。こんなにたくさんの本があるのですね」


 セシルは、目をキラキラさせている。


「これだけの本をブルセージ様が……。『王国の中枢』とまで言われるはずです。ここまでの蔵書量は個人ではなかなかございません」


 女性騎士も感激しているようだ。


 しかもお父さまを褒めていただいて嬉しいですわ。


「では、お次に我が家のお庭をご案内いたしますね」


 わたしは、セシルと女性騎士を先導してお庭へ連れて行く。


「こちらが、使用人の庭師が育てている薔薇園ばらえんですわ」


 赤い薔薇ばらが咲きごろで、庭一面に赤くいろどられている。


 毎回見てもうっとりしてしまいますわ。


「素敵ですわね。うっとりしてしまいそう」


 セシルはそう言いながら、本当にうっとりした表情になっていた。


 もうだめ、萌え死にしそうだわ。



 わたしとセシルがうっとりしているさなか、急に女性騎士が警戒態勢をとった。


 なにごと? と思ったら、微弱びじゃくな魔力を感じた。


 ミリア先生が教えてくれた魔力コントロールの鍛錬の賜物たまものね。


「王女様、メリア様、私の後ろにいてください。魔物がいます」


 少し離れた場所に黒くてオオカミのような魔物が一匹姿を現していた。


 基本的に屋敷の敷地内は魔物よけの結界がはられているはず。


 魔物が侵入してくる可能性はゼロに等しい。


 特に微弱な魔力しかゆうしていない魔物ならばなおさらだ。


「わたくしにも、セシルを守らせてください」


 女性騎士は「何をおっしゃっていますか?」と驚いた顔をしている。


 女性騎士が目線を少し外したのを見たのか、魔物は突進してきた。


『大地に眠る火の精霊よ我を守る火の力を与えたまえ、ファイヤーウォール!』


 炎の壁がわたしたちの前に出現する。


 突進してきた魔物は「ファイヤーウォール」に弾かれて飛ばされてしまう。


 しかもそれなりのダメージを負ったようだ。


 女性騎士は隙を見つけ、剣を抜いて突進して魔物を切り裂いた。


「王女様、メリア様、もう大丈夫でございます。しかし、メリア様には脅かされました。もう魔法を習得されていらっしゃるのですね」


 あれ?


 そういえば一発で出来てしまっていることに疑問を持っていませんでしたわ。


 なんとうかつな……。


 わたしがやらかしたと頭を抱えていると、セシルが両手でわたしの右手を握ってきた。


「メリア、わたしたちを守ってくれてありがとう」


 わたしはセシルから涙まじりの柔らかな笑顔でお礼を言われた。


 意識が飛んでしまいそうですわ。


「しかし、妙ですね。あの程度の魔物が敷地内に入れるはずがありません。何者かが連れてきたとしか考えが及びません」


 女性騎士は腕組みしながら考え込んでいた。


 結局、大事をとって今日はお開きとなってしまった。


 仕方がありませんね。王女様にもしものことがあれば一大事ですもの。


 数刻もしないうちに王女様のお迎えの馬車が来てお別れとなってしまった。


 また早いうちにお会いしたいものですわ。


 しかし、何かを企む者の影がどこにあるかもわからないのは怖いですわね。


 結局、今回の騒動を懸念して次からは極力室内のみの交流となってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る