第二話 「気ってすげ〜!」

学校の授業が終わり、チャイム音が鳴る。放課後に部活という行事が無かった帰宅部の俺は、ワクワクしながら体操服に着替え、部活に臨んだ。異能格闘部は外でやるらしく、道場では無いらしい。理由は、道場でやると、狭くて異能を存分に使って練習する事ができないからだ。だから、開放的なグラウンド場で部活をやっている。


 外に出ると、グラウンド場の大半を野球部が使っていて、異能格闘部はそのグラウンドの端で活動していた。


 そして、異能格闘部の部員が活動している風景を観察していると、二人の部員がこちらに向かって走って来た。


「うぉぉーーーー!!! あなたが新入部員っすか!? よろしくっす!」


 ポニーテールで金髪の女子部員が、髪を揺らしながら、少しチャラい雰囲気で元気良く出迎えてくれた。


「ど、どうも…」と返事をするも、それをよそに女子部員は話を進めた。やたらと興奮しているようだ。


「私の名前は潮田で、こっちが梶田。こいつはバ・カ・ジ・タ・って呼んで良いっすよ」と振り向きざまに、煽るようにもう一人の男子部員を紹介された。「誰がそんな呼び方して良いって言った? こいつの言う事は聞き入れない方が良いぜ? 俺よりこっちの方が十分な馬鹿だから」


「はぁ!? 言ったなこの頭脳小学生が…国語のテストは0点だった癖に、よく言うっすね? 私でもそんな点数は取ったことが無いっすよ。いっそ小学生、いや幼稚園から日本語やり直したらどうっすか?」


「はいはい出たよ、そうやってテストの点数でマウント取るヤツ。国語のテストが出来なくても、日本語が十分伝わってりゃそれで良いんだよ! それこそ数学の文字式に関して言えば、俺より出来ないくせに!?」


「あんな複雑で難しいまるで古代文みたいな式を、何で解く必要があるんすか!? あんなの日常生活じゃ全然使わないじゃないっすか!」


(どうしよう……喧嘩し始めたんだけど、どうすれば良いんだこれ……止めた方が良いよな……)


 いきなり俺の前で喧嘩をし始めたので、止めようかと思った所、昨日誰かと間違えて、気が見えるというだけでスカウトして来た、緑髪で異能格闘部の部長をしている風道さんが来て、部員の喧嘩を取りまとめた。


「はいはい潮田さん、梶田君、喧嘩しないの。武蔵君が困ってるじゃない」


風道さんがそう言うと「あっ……」と二人は息ぴったりと、我に返ったようになり、こちらに顔を向けた。


「ごめんなさい……」


「ごめんなさいっす……」


「良いよ、二人が喧嘩を止めたからそれで……」と二人が謝ったので、謙虚に対応した。


すると、潮田さんはいきなり、「タケクラって言うんすね……じゃあ、タケッチって呼んでいいっすか? ちょっと長いっすし……」と聞いてきた。


初対面なのに、いきなり喧嘩を見せつけられた挙句、あだ名で呼ばれた事は一度も無かったので、彼女の積極的に距離を詰めてくる態度に、悪い感じはしなかっったので、簡単に許容した。


「う、うん。全然良いよ……!」


「じゃあ、改めてよろしくっす! タケッチ!」と俺の名前をあだ名で呼んで、さらに距離が縮まった。

 

そして、風道さんは部員全員を呼び集めて、点呼を始めた。

風道さんは部長らしく、部員を集めて指揮を執る。


「梶田君!」


「はい!」


「潮田さん!」


「ういっす!」


白灰君しらばい!」


「はい」


「オーケー! みんないるね! じゃあ今日から新しく入ってきた武蔵君! 軽く自己紹介お願い!」


「はい! 俺の名前は武蔵 翔! 好きなお笑い芸人は江頭2:50です! 格闘経験は空手をやった事があります。一年前までは空手をやってたんですが、黒帯を取った位から辞めてしまいまして、今に至ります。というわけで、よろしくお願いします!」


「はぇ~……空手やってたんだ~スゲー」と棒読みに近いトーンで感嘆する梶田と、「黒帯になれたんすか? すげ~っス……!!」と元気の有り余った声で反応する潮田が、対比して見れた。


そして、その二人の隣にいた白灰は、無言で無反応だった。恐らく、あまり人と話すタイプじゃないのだろう。


「じゃあ今度はこっちからするわね、私はここの部長を務める風道 かおるって言うの。まぁ困った時は何でも言ってね。知らない事があった時は、部長である私に頼ってくれたらいいからよろしくね」


「うん、よろしく」


「じゃあ次は私っすね。私は潮田 凛っす。普通にリンって呼んでもいいっすよ」


「まぁ慣れてきたら、そう呼ばせてもらうね」


「俺は、梶田 かいまぁ、紹介する事と言ったら、特撮が好きってところかな。という事で、よろしくな」


「俺はあんまり特撮とか見ないけど、よろしくな」


「俺は、白灰 こう……よろしく……」


「おう、よろしく」


「じゃあ、自己紹介も済んだ事だし、みんなはいつも通りの練習メニューをやって下さい。それじゃあ解散!」


風道さんは、皆にそう指示をした後、自分の方へと顔を向け、「武蔵君は私に着いてきて」と言われ、着いて行った所、コンテナが三つだけ並んでいて、それ以外は特に何も無い空間が広がった所に着いた。しかも、そのコンテナはどれもボロボロで、大きな窪みがある物や、穴が開いている物まであった。


「じゃあ、ここで基本を教えてあげる!」


「基本……?」


風道さんは、”基本”というが、武蔵は何の基本か分からない様子だった。


「そう、気を使った基本の技の事よ。まずは、気の出し方について教えてあげるから、見ててね」


風道さんは、そう言うと体から、主に腹部から謎の白い渦が巻き起こり、それが全身を流れて、まるで白透明のコートを羽織るようにそれを纏った。


「これが、気を出す方法なんだけど、お腹の当たりから発生してるのが見えた?」


「うん、何か凄いブワッ!!って出てた……」と武蔵はその現象を曖昧な表現で伝えた。そして、それが伝わったようで、風道さんは頷いた。


「そっか、見えたなら良かった。まぁ正確に言うと、丹田から気を出してるんだけどね」


「丹田か……」


丹田って確か、へその数センチ下だったよな……と思いつつ、空手で心身統一をする為に、「丹田に意識を統一してから組み手をしなさい」と言う師匠の言葉を思い出していた。


「武蔵君、どうしたの?」


「いや、何でもないよ」


「そう、じゃあ一回試してみましょう。まずは、丹田に力を入れてみて!そしたら、気が体内に発生するから」


「こうか……!」


空手で丹田を意識していたように、武蔵は丹田に力を入れる。だが、特に何も変わった事は起きなかった。


「……?」


「何も起きないって言いたそうな顔してるね?そりゃ当然、気が体内に発生しているだけで、体外に出なければ何も起きない。じゃあ体外に放出させるにはどうすれば良いか……それは簡単。その丹田にある気を、胸まで移動させて、右手から出したいなら右肩に移動させて、肘を伝って右手から放出させる。まずは、一か所に集中して気を放出させてみて」


「うん」


風道さんに言われた通りに、もう一度、丹田から気を移動させるイメージをして、実行してみる。すると、やかんの中のお湯が沸騰して、湯気が沸いたように、丹田から熱がじわじわと広がっていって、そこから胸を通って、右肩を通り、徐々に徐々に熱が右手を伝っていった。その熱が気である事は分かりやすく、気が出るまでの工程は、意外と簡単だった。そして、気が出た感覚がすると同時に、白い煙の渦が、右手から出てきて、蔦のように巻き付いてきて、それが、右手全体に纏い覆った。


「おおっ……! 出た……!」と、子供のようにはしゃいで、興奮を隠せないでいた。


「そうそう! 良い感じね! そんな感じで気を出す感覚が掴めたら、今度はその気を纏ったまま、このコンテナを殴ってみて! 思いっきりね!」と言って、さっきボロボロな事に疑問を抱いていたコンテナを指差していた。


(このコンテナって、こう言う時に使うんだ……)と思いつつ、コンテナに向かって力一杯に拳を振るった。白い煙が渦を巻きながら、その拳が当たった瞬間、硬い鉄のコンテナがぐにゃりと曲がり、まるで、鉄板に鉄の物体が高速でぶつかる様に、コンテナの鉄板を強く打ち付ける。


「何……!? この威力……!?」


武蔵は、今まで体験した事の無い程のパンチの威力に驚愕した。


「凄いでしょ~。それが気の力よ!」と風道さんは何故か誇り気に返答した。


「それじゃあ、次はその気を止める方法を教えてあげる」


「えっ?気って簡単に止められるんじゃないの? ドラゴンボールみたいに」


「ノーノー、確かに慣れてきたら出来るけど、あんな異次元な気の使い方は普通に考えて無理があるわ。三次元では、例えるならチェーンソーや草刈り機の様に、ブレーキを引いたらずっとエンジンがかかった状態になるのよ。だから、気を止める方法もちゃんとある。まずは、全身に力を入れてみて?」


「分かった……ふっ……!!」


全身に思いっきり力を入れる。すると、今まで出ていた白い煙がまるで幻だったように、徐々に消えていく。


「わっ……! ホントだ……! 消えてった……!?」


「そう、良い感じね! 今の気の使い方は序盤にしては凄い上手いわよ? もしかしたら武蔵君は気の才能あるかもね」


「ホント!? じゃあ、自分にも異能を使えるようになる?」と武蔵は目をキラキラと輝かせて、金色に光った眼で風道さんを見つめていた。


「それは、まだ分かんないけど、少なくとも普通の人より何倍も上手よ。でも、その前にまずは基本が大事だから、異能の事についてはまだまだ先ね」


「は~い」


「じゃあ、次は気を全身に纏える事が前提なんだけど、気の使い方を学ぶためにも、最初のうちに教えてあげる」


「お願いします!」


「じゃあまずは、気を全身に纏う方法を教えてあげる。これは流石に最初から見て真似出来る技じゃないから、ゆっくり丁寧に教えてあげる」


「そんなに難しい技なの?」


「うん、これは難しいよ~。私なんてこれ習得するのに半年は掛かったからね。じゃあまずはやってみるから、気の向きとか動きを良く見てね」


そう言うと、風道さんは手から気を放出させて、白い煙の渦が全身を蔦のように巻いた。気が防護スーツの様に顔まで覆われて、体にピッタリと密着する。そして、気は右から左向きに竜巻の様に纏いついて、周回していた。


「これが、全身に気を纏った状態。気の動きはちゃんと見えた?」


「うん、多分だけど左向きに回転しながら体に纏わり付いてた。けど、さっきの体を纏うやつと何の違いがあるの?」


「さっきのは、単純に気を出してただけよ。気を纏っている様に見えただけで、さっきの気の動きは乱雑だったでしょう? だからこれは、武蔵君が言ってた様に気を全身に覆って、横向きに回転させて攻撃を緩和させる。この技を”流道体”《りゅうどうたい》って言うの。分かった?」


「なるほど……」と分かった様に頷きつつ、武蔵は再び質問した。「攻撃を緩和させるって言うのは、大体どれ位のダメージを抑えられるんだ?」


「そうね、気の量にもよるけど、銃弾を撃たれても平気な位には抑えられるわ」


「えっ? それって凄すぎじゃない!?」


「まぁ、でもこれはプロ選手だったらの話よ。多分、普通の人だと、鉄製のバットで思いっきり打たれて、ちょっと痛いって感じる位かな」


「それでも凄い……!!」


「この技が出来れば、そんな事も可能って事よ。それじゃあ、やってみる?」


風道さんは、そんな話を聞いて今にもやりたそうな顔をしている武蔵を見て、話を切り替えた。


「うん!」と武蔵は、嬉しそうに返事をする。


「じゃあ、教えてあげる。流動体のやり方を______」

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